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不協和音

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エンジニアとライターが始めた共同執筆プロジェクトです。エッセイを軸に、自分の感じたこと、考えたことを発信したり、同じテーマで互いに呼応したりする作品を作っています。
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2021年9月の記事一覧

隣の芝が青く見えたら、もっといろんな芝を見たらいい

隣の芝が青く見える そんな時はないだろうか。私はある。満たされない自分がいるんだな、と認めつつ、隣の芝の青さを観察している。 ネットを見渡すと、隣の芝を青く見せる仕掛けがたくさんあることに気づく。いわゆる広告というやつだ。隣の芝が青く見える時は、その物事が自分にとって魅力的に見えているということで、マーケティング的には成功している。 隣の芝が青く見える時、『自分の満たされないこと』と『自分の満たされない欲求が別の場所で満たされていること』のギャップに苦しむことになる。理

外の世界に興味を持つこと

最近、うちの猫にはハマっていることがある。 それは、キャットタワーの最上部から外を眺めること。 キャットタワーから外をみる楽しさを教えたのは私だ。最初は外に全然興味を持っていなかったから、抱き抱えてベランダに一緒に出て外を共に眺めることから始めた。目をグッと見開いたうちの猫は、周りをキョロキョロし、行き交う人々を凝視した。よほど、物珍しかったのだろう。 たびたび猫と一緒にベランダに出ては、家の中に戻りをしばらく繰り返した。たまに、キャットタワーの上から外を見るようになった

空腹時には、香りのある紅茶を

袋を開けた時、風も吹いてないのにアールグレイの香りがした。まるで、誰かが開けてくれるのを待っていたかのように、一気に香りが外に溢れ出した。 夜遅い時間、私はついつい食事をしてしまいそうになる。もうさほど若いとは言えない歳だし、と気にしている私はうまくこの誘惑に打ち勝つ方法を模索している。 食べる代わりに水分を取るなら、せめて香りだけでも楽しみたいな そんなふうに思って私は、おもむろにお湯を沸かす。笛吹ケトルは、しばらくするとひゅーひゅー言って、沸騰を知らせる。 もう少

長女めそめそ、めそめそ長女

月末は、長女のスイミングの進級試験がある。 今月は進級できなかったらしい。泣きながら帰ってきた。 悔しいのだと言う。あと、不安だと。 母親の背中にべちょーっとしがみつき「11月も12月も進級できなかったらどうしよう」と、めそめそしている。 結果が出なければ意味がないと言うつもりはないし、彼女にとっては、悔しいという感情を体感することも、水泳の練習のプロセスそのものも、大切な意味を持つんだろうと思う。母親はそう思ってるよという事実が、ちょっとでも伝わったらいいなと願う。

Venus

子どもを学校と保育園に迎えに行った帰り道、自転車に乗っていると、暗い雲の隙間にやたら明るい星が見えた。 長女が「あれ、金星?」と尋ねてくる。以前、金星や木星を教えてからずいぶん経つのに、よく覚えてんなとこっちが驚いてしまった。 明るさからして金星だろうと思うものの、雲が多くて他に星が見えないから断定はできない。 ごまかす意味も込めて「あれが金星かどうか断定はできひんねんけど、金星は明星ともいうねんで」と言ってみた。 夕方に見えるのが宵の明星、朝方に見えるのが明けの明星。 「

時には、がんばって積み上げてきたものを捨てることも合理的な決断になりうる

とある事情で、この半年間くらい英語を話す機会に恵まれた。最後の方はほぼ毎日、英語を話していて、議論をしたり、相談をしたり、お願いをしたりしていた。多岐にわたるコミュニケーションを通じて、自分の英語力のなさを感じた。それに加えて、未熟な英語力であっても意味を媒介する言葉の受難さはすごいなと感心することもあった。 英語を話す時間は大変だが、私にとってはさほど苦ではない。うまいこと自分の考えが伝わっていない時はそれなりに大変さを感じることもあるが、それよりも英語でコミュニケーショ

トリガーはだんごの匂い

明治神宮で、焼きたてのみたらしだんごを食べた。非常に美味しい。熱くて甘くてでっかくて、たいへん満足した。 その店には、みたらし以外にこしあんと醤油の2種類もあって、そっちもたぶんとても美味しいのだろう。 店の前に立つと、醤油が少し焦げた匂い、だんごが香ばしく焼ける匂いがした。そしてそれは、とある記憶をピンポイントで引っ張り出してきた。 それは、飛騨高山に行った時の記憶。 飛騨高山は山間の観光地で、街のあちこちで五平餅やみたらし団子を売っていた。せんべいや、飛騨牛の串焼き

「値段が高いな」「何か見つかったらどうしよう」と人間ドックをためらっている人に向けて

8月某日、私は人間ドックを初めて受けた。昔、健康診断を受けたことがある東京ミッドタウンクリニックにお世話になった。 ウェブで申し込みができて、日付が近くなると検査キットが届いて、初めての自分でもすんなり準備ができた。待合室は綺麗だし、検査もサクサク進むしで、私にとっては至れり尽くせりだったと思う。結果は後日郵送で届いたし、ウェブでも閲覧できるようだ。 私が予約したのは、基本コース(経鼻内視鏡)のプランで、いくつか気になっていた項目をオプションで加えた。決して、費用が安いと

「最悪、私がなんとかしよう」と「人を頼ろう、任せよう」のシーソーゲーム

「最後、私が何とかしよう」という気持ちを私は持とうと思っている。今も持てているかわからないけれど、最後まで諦めずなんとかする気持ちを持つ、その姿勢は止めないようにしたいと思っている。 一方で、「人を頼ろう、任せよう」と思う気持ちも持つようにしている。自分がなんでもできるという全能感に悦に浸っているんじゃなくて、周りを頼っていろんな人にやりたいことをやってもらって、自分もやりたいことをやるために必要な考え方だと思っているからだ。 「最悪、私がなんとかしよう」と「人を頼ろう、

お酒の耐性と飲み会での心のせめぎ合いを経て、私はお酒のない生活を選んだ

ソバーキュリアスなる言葉があるらしい。Sober(しらふの)に Curious(興味がある)人のことを言う造語なのかな。日本語で言うと、あえてお酒を飲まない人たちって表現されることが多いらしい。 厳密な定義があるものではないと思うけれど、私はどっちかといえばこのソバーキュリアスに近い。なるべく必要でなければお酒を飲みたくないし、お酒を飲むとしても数杯以内に抑え、なるべくアルコール度数の低いものを飲みたいと思っている。 以前、『「そろそろ、お酒やめようかな」と思ったときに読

Polaris

日の落ちるのが早くなった。会社からの帰路で、もう星が見える。 低い空に大きな雲があるが、風が強いらしくどんどん流れていく。月が出たり隠れたりしていた。 ひっそりしたポラリスが見えた。普段はあまり気づかないのに、めずらしい。いつだって見えるのに、そんなに目立たない北極星。光度に比べて仰々しい感じがするから、響きの軽い“ポラリス”という呼び名の方が好き。 最近、気がつくと空を見ている。 仕事中の昼間、わたしのデスクから窓の外は見えない。だから朝夕の通勤途中、子どもを寝かしつ

ドラム式洗濯機

ドラム式洗濯機、いまだ憧れの白物家電なのではないだろうか。乾燥機が優秀だったり、静音だったり、温水だったり、いろんな機能がモリモリ搭載されていることが多い印象がある。 そんなドラム式洗濯機に、私は今年の7月ごろに変えた。温水が使えて、乾燥機がヒートポンプで、とまあいわゆる「ザ・王道」のものを買った。 当時から「そりゃいいものに変えたのだから、生活は変わるだろう」と思っていたのだが、最近思っていた以上に「買ってよかったなぁ」思うことが増えた。 例えば、ワイシャツ。温水のお

cloudy then rainy

湿度が高い日だ。くもってうす暗く、空気中の水分がとても多い。肌も喉もぺたぺたする。息苦しい秋の一日。 厚い雲に覆われて、空は遠近感がなく真っ白い。雨雲も雪雲も似ているが、雨雲の方が少しくすんで見える。雪雲も厚く暗い鉛色をしているが、雨雲はもっと黒みがかっている気がする。水分の重みが影を落として、色味まで沈ませるのかもしれない。 窓辺でぼーっと空を見ていたら、雨が降り出してきた。音はしないが、でも確実に降っている。景色を縦に刻む線状の雨。そういえば“雨粒”と呼ぶけれど、粒を

社長室の番人

会社で大掛かりな席替えがあり、社長室の番人みたいな位置の席になってしまった。 秘書でもないのに、社長が面接なのかミーティングなのか、ただの離席なのか把握できてしまう。把握できてしまうから、社長に用事のある人は「あれ、社長は?」とわたしに尋ねてきて、わたしは答えることができてしまう。困ったものだ。 控えめに言ってわたしは自社の社長が大好きだが、社長室の掲示物や備品の整理などをする時に、すぐ手伝いにきちゃうのにはとにかく閉口している。「わたしのことは空気だと思ってくれ」と言おう