トリガーはだんごの匂い

明治神宮で、焼きたてのみたらしだんごを食べた。非常に美味しい。熱くて甘くてでっかくて、たいへん満足した。

その店には、みたらし以外にこしあんと醤油の2種類もあって、そっちもたぶんとても美味しいのだろう。
店の前に立つと、醤油が少し焦げた匂い、だんごが香ばしく焼ける匂いがした。そしてそれは、とある記憶をピンポイントで引っ張り出してきた。

それは、飛騨高山に行った時の記憶。

飛騨高山は山間の観光地で、街のあちこちで五平餅やみたらし団子を売っていた。せんべいや、飛騨牛の串焼きもあった。観光客は食べ歩きをしながら、古い街並みを楽しんでいた。
子どもの頃、春や夏の休みに家族で何度も行ったのだ。ドライブを兼ねて出かけるにはちょうど良く、旅行とまではいかない行き先の飛騨高山。
わたしは小さい頃から甘党で、甘い味噌の五平餅の方が好きだった。でも、焦げた醤油の匂いは街のどこにいても感じられて、それがまるごと家族と出かけた思い出に結びついてしまった。

いいお天気の空、昔ながらの風雅な屋敷や橋の街並み、行き帰りの車中からみた山間の景色、木彫りのおみやげ。そういう記憶が、明治神宮のカフェテラスの一角で、溢れ出るように蘇った。

五感の中でも嗅覚が最も記憶と結びついているという事実は知っていた。
でも、まさかだんごの匂いで…!しかも東京で、20年以上昔の飛騨高山の記憶を。
その強烈なフラッシュバックに、驚きつつ、ちょっと感傷的にもなってしまった。

この先、家族で飛騨高山に行く機会はたぶんないだろうと知っているから。地理的にも両親の体力的にも、かなり厳しい。
でも、思い出は思い出のままでいいのかもしれない。いつも忘れていても、アップデートしなくても。だんごの匂いが思い出を呼び起こすトリガーだと知っているから。

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