榛名山のはるなさん3話

CY4Aのセッティングと白鳥姉弟

ここ、長野県はある1画だけ芸能人や政財界、また都会からの人達の避暑地になっている場所がある。
そこはショッピングモールやアウトレットでいつも賑わっている地域、軽井沢。

そんなオシャレな避暑地の駅から、少し離れた所にある異質な場所。駅近くの一等地だというのにヤケに広い土地があった。そこには無造作に何十台もの車が置いてあり、オシャレとは無縁な場所。

解体屋はやまるさん。

誰が見てもふざけてる名前だが、この界隈ではカナリ手広く車両を仕入れている為、近辺のチューンドショップだけでなく、遠方のショップや普通の車屋など客足は広い。
客の多くはクラシックな車両を直すために欠かせない部品取り用車体の買い付けや、欲しい中古パーツを買いにくる個人客。

しかし、そこで売っているジャンク車両を直した車を買いに来るマニアックな客もいた。
その理由は

はやまるの直した車はノーマルなのに速い。

はやまるのセッティングはかなりの腕だと口コミで知られており、それを知る通なお客がいつも車の購入や自分の車のセッティングの依頼をしにポツポツと来ていた。

はるなが到着すると、はやまるはいつものカーキのツナギを着て外で大好きな炭酸飲料を飲んでいた。

「よお、お姫様。待ちくたびれたぜ」
はやまるはからかうようにはるなにそう言うとぎゃははと笑う。はやまるはとにかく笑い声がデカい。

「本当、はやまるさんってオヤジに見えないよね、、、車好きな大学生にしかマジ見えない。」

はるなは、やや引き気味の顔ではやまるをみながら話す。

はやまるはパッと見どう見ても22、23歳にしか見えない。

しかし、実年齢は56歳なのである。まず、誰もが信じない。だが、本当なのだ。本人いわく、車の神様が年齢を止めたとアホな事を言っている。

「ぎゃははは!お世辞はそのくらいにして、さっそく本題だ。分かってると思うがはるな、ギャランの仕上がりはどうだ?やっぱり違和感を感じただろ?」

はやまるは突然真面目になる。

「うん、正直ここまで違和感が気持ち悪いとは思わなかったよ。」
はるなの表情がくもる。

「だろうな、、、。ここのありあわせのパーツでだけで組んだんだ。新品は一つもねえ。特に大事な足回りもだ。分かってると思うが全タイヤ、山の残り方も似ている物を選んだが全部違うメーカー。太さや扁平率もな。そりゃあクセもハンパじゃねえわな。」

驚愕の事実を、淡々と語るはやまる。

「その状態で、峠でそこまで操ってあの新型シビック、、、FK8に勝っちまうなんてな。
まったく信じられねえよ。とんでもない化け物だ。しかし、あまりにも危険すぎる。一歩間違えれば完全に谷底へ落ちてアウトだぜ?」

はるなは、はやまるから目を逸らしながら言い訳する。

「うん、、、手の内を知られててもう一度バトルになったら、これ以上の走りを求められる。そうなったら、、、、多分キツイかも。」

はやまるは、くすりと笑いながら話す

「だろうな。はるなのギャランの組み方は全て僕も見てたからな。だからさ、デビュー戦を勝利で飾ったはるなに、僕からのプレゼントってヤツがあんのよ。」

はやまるさんが腰掛けていた場所からヒョイっと飛び降りるとビニールカバーを派手にめくる。
するとそこには新品のスポーツホイール、タイヤ、サス、ショックアブソーバーがあった。

はるなは信じられない物を見た表情で話す。
「ちょっとウソでしょ、、、これがプレゼント?限度超えてるでしょ、、、」

はやまるは、またもや笑いながら
「ぎひゃひゃひゃ!ビビっただろ!?おっと、こいつあ中古じゃねえぜ、紛れもなく新品だ。特にホイールはやばかったわ、、素材選びで苦労してよ。マグネシウムチタンだからな。ほぼワンオフだぜ?サスや、ショックも超一流。
タイヤはお前が好きなミシュランにしといた。全タイヤのバランスは僕が完璧に超絶セッティングしてある。」

はるなは感動して声が出ない。呼吸すら止まってしまった様に立ち尽くす。はやまるはそれでも続けて話す。

「だが、これら全て今までみたいなポン付けじゃあ、これらのパーツの性能は、、6割7割ってとこかな、、、そのくらいの性能しか発揮出来ない。確かにそれでも速い事は速いんだ。
でもな、これからはるなが狙われるサンライズのナンバー1には絶対に勝てない。次元が違うんだよ。アイツは。」

はやまるは再び真剣な目つきになる。

「これらのセッティングは僕の監視の元で行う。もちろん僕は手は出さない。口出しのみだ。はるなは他の人間にギャランをセッティングされるのが大嫌いだしな。」

はるなは次のバトルと聞いてようやく口を開く。
「へえ、次が本当の榛名最速なんだね、、、分かった、はやまるさんに従うよ。私もさ、乗りたいんだよね、違和感を感じさせない本当の、ギャランにさ。」

はるなとはやまるは不敵に笑うと、はやまるはすぐに行動する為にガレージへ動き出す

「さあ、ギャランをリフトに乗せてセッティング、明日の夜には榛名で試走だ。ぎゃははは!今夜も寝不足だぜ!」

これから朝までセッティングだと言うのにはやまるな表情はにこやかである。

「ふん、いつも通りの最高の寝不足じゃん!」
そして次回バトルするであろう相手を想像しながらはるなはギャランに乗り込む。

「行ってやろうじゃん、、、、最速の壁をぶち壊しにさ。」

一方の白鳥ケンスケは、バトル後すぐに自宅に帰っていた。ドラレコで先ほどのバトルを確認するためだ。

「ドラレコどうだった?」
ケンスケが質問する。

「どうしたもこうしたも、、ケンスケ、アンタはこの走りに何を学んだの?」

そう聞き返す人物こそケンスケの姉であるサンライズ榛名ナンバー1であり、榛名山最速と呼ばれる白鳥涼音(しらとりすずね)である。

ケンスケは頭をガシガシかきながら先生に怒られている学生の様に答える

「正直、、全然分からない。気が着いたらこの黒いギャランに後ろに張り付かれてた。確かに油断していた。でも、、ありえないぐらいあっと言う間にブチ抜かれた。悔しいが完璧な敗北だった。多分、すげえ高い領域にセッティングしてるギャランだと思う。じゃなきゃあんなオッサン車であの領域は説明がつかねえ。」

涼音はケンスケの言い分を聞くとクスクスと笑う

「高いレベル?ケンスケ〜お前もドラレコで映ってる映像を見たでしょ?お姉ちゃんの解説が必要かな?」

ケンスケはムッとしながら鈴音を睨む
「姉貴、いつまでもガキ扱いしないでくれよ、、つーか、姉貴レベルで車を把握できるヤツなんて会った事ねえよ。どうしてこのたった一瞬の映像で分かるんだよ。悔しいけど俺には何も分からねぇ、、。」

鈴音は弟に褒められてちょっと得意気な表情でケンスケに説明する。
「じゃあ教えてあげる。確かにギャランもまあまあのレベルで仕上がってる車だとは思う。ただねえ、、、良いセッティングかって言うとそうじゃないのよ。ロールは大きいし、ショックも多分、、、中古じゃないかな?挙動がフラフラしてるし全体的な減衰力とかがバランスとれてないね。」

鈴音は、まるで昼間にしっかりと確認したかのようにギャランのセッティングについて説明する。恐ろしい事にその全てが当てはまっていた。

「あとタイヤ。前後で違うどころか4本ともメーカー違うね、これ。食いつきがおかしいもん。ただし、、エンジンは本物。立ち上がりからのツキがよすぎる。ドライバーのテクもあるけど、、、吸排気系だけいじってるライトチューン?かな、、。仕上げ方が本当意味わかんないわこのギャラン。油断していたとはいえ、このスピードで走る車じゃないわね。このドライバー大分ネジがぶっ飛んでる。狂気の沙汰ね。」

ケンスケはぽかんと口を開けていたがスグに我にかえる。
「ちょ、、、ちょっと待ってくれよ姉貴。
話だけ聞いてればどう考えても車自体は、、」

ケンスケは次の言葉が出てこない。

「そう、車だけでいうなら間違いなくアンタのFK8のが全部高い領域の車だね。」

鈴音が言いづらい事をさらっと話し、言葉を続ける。
「でもね、エンジンだけはすごい高い領域にあるわこのギャラン。相当な時間つぎ込んでるわ。普通だったらエボとかのエンジン載せ替えとか車乗り換えれば良いのに、、。完全に執念ね。そして一番ヤバいのがドライバー。この状態のギャランなのにも関わらず、ここまで振り回せるって、、、もう意味わかんない。
もしこのドライバーが足回りもしっかりした状態でのバトルになったら、、、多分、私でもヤバい。」

ケンスケが目を見開く
「姉貴でもヤバい!?おいおいウソだろ!?今まで榛名山で無敗の姉貴が!?」

驚愕の答えに自然と口調が強くなる。

「でも、、、多分だけど、当分足回り関係変わることはないんじゃないかな?このドライバー、私のアセスメントでは、、、信じたくないんだけど、多分高校生だね。膨大な時間をつぎ込めるのにパーツはおざなり。金銭面的な問題だと考えれば説明がつく。」

たった一瞬でそこまで相手を掘り下げてしまう観察力。彼女の車を見る目は素人レベルからはかけ離れている。

「だけど、セッティング指示してるバックがいるね。エンジンのセッティングだけはプロ級なんだもん。でも、、何で足回りはおざなりなんだろう、、。敢えて低いレベルでも高い領域を走らせる為?いやいやワンミスで谷底ドボンの無理ゲーを高校生にやらせる?ドライバーはカート上がり?いや、でもライン取りめちゃくちゃだし、、うーん本当意味わかんないわ!このギャラン!!会って聞かなきゃ!!」

涼音はまだ見ぬギャランとドライバーに会いたくてワクワクしている。ケンスケはそれを見てホッとする。

「一瞬弱気な事言うからビビったけど、やっぱりバトル前はいつもの姉貴だよな。普通は本気で集中してる時ってもっとナーバスになんのによ。この状態だと、、、姉貴が峠出るってなったらまた姉貴狙いのオタクギャラリーが集まるなこれ、、、」

涼音はソファに座りながら足をバタバタさせテレビに映るギャランに話しかける。

「ケンスケ、私の車のセッティング付き合って!私も久しぶりにメンテじゃなくてセッティング変えなきゃね、バトル用にさ。待っててね〜ギャランとドライバーちゃん。」

はるなとサンライズが出会ってまだ数時間。
信じられないスピードの中。
もう誰も止まることはできない。
物語はシフトアップし、、、加速する。

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