榛名山のはるなさん 第13話
C32型ローレルとはるな
午前中はあっという間に過ぎた。
「ふぅ、流石は僕!午前中でなんとか終わり!おーい、はるなそろそろご飯にしようぜ。いつも通りはるなの分も作ってきたよ。」
「やった!今日のランチは何かな〜。」
「すみませーん。」
その時ガレージを訪ねる声がした。はるなは女性客なんて珍しいと思いながら立ち上がり向かう。お客さんの対応ははるなの担当だ。
はやまるが対応しても良いのだが、いつもヘラヘラして適当な話し方をする為、初めてのお客さんは怒って帰ってしまう事が多いのだ。それを見かねてはるなが接客を始めた。はるなも接客は苦手な方だが、他のバイトでも接客業が多かった為、はるなの接客は中々のものだった。そして半年ほど働いてくると、はやまるの会社のテキトー具合が目につくようになり、はるなは気になって色々と整え始めた。すると何故か会社のお金関係などもはるなが担当する事が多くなり、常連のお客さんも大事な見積もりなどの話ははるなに振ってくるという状態になっていた。もうバイトの域を超えている。そしてはるながこの店で働き始めてから売り上げが一気に伸びて安定したというのも、、、ここだけの話。
はるなはいつも通り少しだけ笑みを浮かべた表情で入口の方に向かった。
「お疲れ様、はるなちゃん!」
「あれ!?涼音さん!?どうしてここに!?」
「この前のバトルの終わりに、はやまるさんからはるなちゃんがここで働いてるって聞いたからさ〜。遊びに来ちゃった!」
そう言いながら口元でピースサインをする涼音。涼音は何気なくやったのだろうが、はるなにはその仕草1つとっても何処かでカメラが回っているのではと錯覚させるぐらい、可愛い仕草に見えた。
「流石は芸能人、、、、」
はるなは小声でつぶやく。
「ん?何なにー?」
「ううんっ、何でもないよ!涼音さん良かったら一緒にランチどうかな?はやまるさんがお昼はいつも作ってくれてて今から食べようと思ってたんだ。」
「え?私は良いよっ!2人が食べる分無くなっちゃうし。」
「おーい、はるな〜ランチの準備できたぁ、、ってあれ、アライズの、、、涼音くん?」
「ひゃうっ!は、はやまるさん!」
涼音がはやまるを見てびっくりした声を上げる。
「ちょっと〜、突然来ないでよ、涼音さんビックリするじゃん。ねぇねぇ、はやまるさん今日のランチ、涼音さんも一緒に食べても良い?」
「ああ、僕は全然構わないよ。いつもちょっと多めに作ってきてるし。みんなで食べる方が楽しいから是非どうぞ。」
「と、うちのポンコツオーナーがああ言ってるので涼音さんも一緒に食べましょ。」
「ほ、本当?じゃあ私も一緒に頂いちゃおうかなぁ。」
「おい、誰がポンコツだ。」
「何?じゃあ私辞めても売上とか大丈夫なんだねー。常連さんも私辞めてから来るかなぁ〜。」
「嘘ですすみません。ポンコツです本当ポンコツです何ならトンコツです。」
「はいはい、分かればよし。」
3人は2階のラウンジ兼事務所でランチにしようとしていた。
ここ、解体屋はやまるは、車の解体だけでなく整備も行なっているのでスクラップ車なども
敷地内に綺麗に置いてある。そしてはやまるは1台たりとも無駄にはしない。
解体屋はやまるは走り屋ではない車の整備の仕事も受ける。軽自動車でも近所のおじいさんの軽トラックでも、GTRやRX7と同じように真摯に向き合って整備する。
"車の数だけ走り方があって役割がある。だから全ての車に優劣などない。"
というのが、はやまるの信念だ。だからその分整備など時間がかかり、料金も他に比べて割高の設定であるが客足は途絶えない。
皆、はやまるの仕事を信用しているのだ。
「うわぁ、、すごいね!お部屋凄くオシャレで素敵だし、、、こっち側ガラス張りなんだぁ、、眺め綺麗、、、、」
「でしょでしょ〜、私もこの2階からの眺めが大好きなんだ。」
「2人ともそう言ってくれると嬉しいなぁ。」
2階は何部屋か作れそうなスペースを使って大きく作られた1つの部屋だった。解体屋に入る方向の壁は全体がガラスで広々とした空間を演出していた。窓からは雄大な浅間山が見え、軽井沢の街並みが見える。また全てフラットに作られた対面式キッチン。書類関係は全てきっちり整理されており、目に見える所には書類が1つもなかった。壁は白く、床のウッド調の色に合わせてデスクやソファは全て茶系で統一されていた。確かにこのラウンジ兼事務所は、車屋の事務所らしからぬ場所に見えた。
はやまるはキッチンでテキパキと準備をしている。
「ごめんね、お待たせしました。」
テーブルに準備されたのはオシャレなブラウン色のバスケットに入ったサンドイッチ。
丸くなっている物や、トマトとモッツァレラチーズと厚切りのハムが挟んである物、新鮮なサラダに小エビのタルタルソース和えなど、バラエティ豊かで彩りも食欲を誘う物だった。
またスープはオニオンスープで、ベーコンや野菜は少なめでも香りが食欲をそそるものであった。
「わあぁ〜、サンドイッチだ!カワイイね!はるなちゃんが作ったの!?」
「う〜ん、、、これは、はやまるさんなんだ、、」
「え!?」
「いやー、はるなは料理全く出来ないんだわ。」
「はぁ!?私だって料理ぐらいできるから!カップラーメンだって作れるし、ご飯も炊けるもん!」
「えー、、、、それ料理なのかな、、」
涼音の顔が青ざめる。
「分かった分かった!はるなは料理出来る!ささ、みんなでランチにしよう!」
「「「いただきまぁーーす!」」」
解体屋という男所帯な場所なのに、女子が2人もいると自然と話は盛り上がり、3人で和気藹々としたランチをとっていた。
「はやまるさんて、お昼は毎日料理作ってるんですか?」
「そうだね、まぁ仕事が忙しくない時以外は大体作ってるよ。」
「モグモグ、、、私、、モグ、バイトの時はモグ、、大体はやまるさんに作ってもらってるよモグ。」
「何言ってるか分かるけど、、飲み込んでから喋ってくれはるな、、」
「はるなちゃん良いなー!!いつもはやまるさんのご飯は食べられるし!、、一緒にいられて、、、
「うん?ごめん最後分かんなかった。何て言った?」
「ううん何でもない!」
「そういえば涼音くんは午後は仕事とかない?もしよければ一緒に出来上がったローレルのチェックに一緒に行かない?」
「え?私も行って良いんですか!?」
「むしろ、大歓迎だよ。走れる人の目線からの意見は大事だからね。」
「いいぃ行きます!行かせてください!」
「う、うん、、そんな気合い入れなくても良いよ、、」
食事も終わり片付けた所でガレージに降りる。
「え!?私、いきなり運転して良いんですか?」
「うん、よろしく。僕は助手席で車の動きをチェックするから。」
「え!?、、、やばい嬉しい、、」
「ん?」
「いいえ!行きましょう」
「、、、、今日の涼音さん変だなぁ、、、?」
キーを入れてセルを回すと、勢い良くエンジンがかかる。
やや低音の目立つ音だった。
「それじゃ、まずは高速で高崎の方まで行ってみようか。」
3人を乗せたC32ローレルはゆっくりと走りだした。
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