榛名山のはるなさん 5話

第5話 NSX vs ギャラン 先行の代償

普段の生活では、絶対に聞かないであろうエンジンの咆哮。公道ではあり得ないスピードで一気に加速していく。
そんな中でも前を走るギャランと1mもない感覚で追走するNSX。

「ごめんねーはるなちゃん。まずはあなたの年齢では考えられない、狂気じみたテクニックを後ろから見せてね。」
涼音がにこにこしながらギャランを見つめる。

最初のヘアピンに差し掛かる。
ギャラリーが叫ぶ。
「2台が来るぞー!!ギャランが先行だ!、、、、っておいおいおいおい!!ギャランのブレーキが遅すぎる!!全員離れろおおおお!!!」

ドンッッッ!!

そんな音が聞こえるくらいのブレーキング。
その瞬間、ギャランのテールランプが点灯する。
はるなの左手がハンドルから離れるのは一瞬の事だった。華麗なヒール&トゥから目にも止まらぬ高速シフトチェンジ。
ギャランは一気にドリフト状態へ。

ドンギャアアアアアアアアアア!!!

「ダメだ間に合わねえ!!!ガードレール突っ込むぞおおおおお!!!!」
後方に必死で逃げるギャラリー。

誰もがぶつかると思うオーバースピードだと思った。しかし、そう思ってしまった時点で、ギャラリーとはるなの見えている領域に大きくズレがある証拠なのだ。

ガードレールギリギリのラインを通り駆け抜けていく2台。

唖然とするギャラリー。
「す、すげえぞあのギャラン。よく見えなかったけどタイヤの向きがおかしくなかったか??俺にはカウンター当ててるようには見えなかったぞ!!まさか、、ゼロカウンター!?
しかも立ち上がりはギャランの方が速い???ありえねえぞ、、、俺たちはとんでもないものを見てんじゃねぇか?」

榛名山下りのゴール地点。そこではやまるは炭酸ジュースを飲んでスマホを見ていた。
「くくく、今頃みんなビビってんだろうな。はるなのドリフトに、、アイツのドリフトは本当に絶妙なバランスで成り立ってる。
軽量化してるとはいえ、ただでさえ重たいボディと非力なエンジン。なるべく減速したくねえ。カウンターも必要最低限。
ドライブテクニックに関しちゃあいつは超ミニマリストドライバーだからな。全ての動きを超最低限でやりやがる全く。あの歳で職人みてえな技だよ。多分、、涼音もはるなの技を見て冷や汗かいてんだろなあ。」

涼音はハンドルを握る手に力が入る。
「やっば、、後ろからギャランのラインやブレーキングをトレースしてるから分かるけど、、私より突っ込みが、、、、やばい領域だわ。しかも速い、、エボならまだしもギャランでここまでって、、、一体なんなの??常人には理解できないレベルの時間と、労力を注ぎ込んでるわね、、」

一方、ギャランの中ののはるなは至って冷静にバックミラーを確認する。

「まあ、このくらいはついてくるよね。流石はNSX。やっぱり榛名山最速の名前は伊達じゃないな〜、、気を抜いたら一気にやられる。」

全開走行の中、一瞬のミスも絶対に許されない。死と隣合わせの状況。そんな最中にも関わらず、はるなは平気な顔でドリンクホルダー入っているパックのコーヒー牛乳をストローで飲む。

ストレートともコーナーともとれないコース。その次は2連のヘアピンが待ち受ける。
左手1本だけでハンドルを切る。その瞬間ハンドルから手を離して高速シフトダウン、車はドリフト状態に突入する。ゆっくりとドリンクホルダーにコーヒー牛乳を戻す。いたって冷静に。手がフリーになった瞬間、絶妙なタイミングでのカウンター。

車はいとも簡単にコーナーを抜けていく。
はるなは涼音を舐めてかかっている訳ではない。彼女は本気を出す際、必ず糖分を摂取する。それが彼女の集中力を最大限に高めるためだ。彼女は深く、自分の世界に入り込む。

「それでも次の区間で確実にやられる、、、それでも、、、勝つ、、。」
毛が逆立つくらいの殺気とも呼べる集中力。場の雰囲気が重くなるようなはるなのプレッシャー。しかしギャラリーには誰にも分からない。

2つ目のヘアピンのコーナーでギャラリーが一気に湧く。
それもそのはず、ケンスケの時に見せた溝落としだ。車の限界を超えたスピードでコーナーをクリアする。NSXも同様にギャランのラインをトレースする。

「あー、やっぱり引っかけてたか。ここまで絶妙に溝落としできる普通?下手すれば脱輪レベルなのに、、、これじゃケンスケ負けるはずだよね、、、。そして、、前走ってるのにこれだけ相手にプレッシャーかけてくるなんて、、。うん、分かったはるなちゃんの実力!あとは、もう我慢できない!!私も実力見せちゃう!!
あとは、、、あなたの速さの秘密を教えてもらうために先に下で待ってるね!!」

短いストレートで涼音のNSXはギャランのサイドに出る。ハイカムに切り替わっているV-TECはどこまでも回るかの様なエンジン音、化物のような馬力とトルクを生み出す。
ギャランはあっけなくサイドから抜かれる。
当たり前である。排気量が違う、重量が違う。
馬力、トルクが違う。全てが違う。
はるなのテクニックがどんなに超絶だろうと、はるなが針の先の様に集中力を研ぎ澄ませようと、涼音の乗る車はスポーツカーなのだ。

メーカーが命をかけて、走る為に設計した純然たるスポーツカーなのだ。

無線でスタート地点にいるケンスケに連絡が入る。
「涼音さんがストレートでギャランの前に出た!」

ケンスケは額を手で覆う。
「やっぱ出たかあ、、相変わらず姉貴は我慢が出来ねぇなぁ。」

「え!?ケンスケさん!何で涼音さんこんな所で前に出たんですか!?普通もっと後半でしょ!?」
サンライズの新人メンバーがケンスケに尋ねる。

「ああ、そうかお前らは姉貴の噂とか聞いてても走り見るの初めてだよな。姉貴は昔っからそうなんだよ、、、相手の実力を後ろからついてある程度見た後は、自分の実力どころか手の内全部見せたくなっちまうんだよ、、、はぁ。本当目立ちたがりっつーかなんつーか、、。まあ、だからアイドルとかモデル向いてたんだろなぁ。」

大きくCラインを描いたその後にヘアピンがある。
既に、ギャランとNSXの間は車2台分程の間がある。

「私ここが一番好きなんだよ、、、ねっ!!」
NSXがクイックに鼻先をヘアピンコーナーに入れる。低重心、ミッドシップの恩恵は大きい。
進入速度の速さ、辺りの暗闇も相まって、まるで一瞬で消え去っていくように見える背筋に寒気を感じるスピード。
はるなも最高峰の領域でヘアピンに突っ込む。
離されないようギリギリである。
それでも涼音は止まらない。涼音はいつもの自分の最高速アタックの時のラインで走っているのだ。

「うーん、、ブランクかなぁ、、タイヤ2センチ外しちゃった。」
確かにテレビ出演が多い涼音。それでも久しぶりにハンドルを握ってこのレベル。そして恵まれたポテンシャルの車。

「すげえええええ!!!本当に涼音さんはやべぇ!テレビで見る涼音さんも超絶可愛いけど、、やっぱ涼音さんは峠で走ってるほうが何倍も輝いてるぜぇ!!!」
ギャラリーが怒号の様に湧く。

「それに比べて見ろよギャランを!もうついていくのにやっとじゃねーか!それになんかふらふらしてねーか?あれじゃあもうだめだな!!」

確かにはるなのギャランは小刻みに揺れ動いている。はるなはギャラリーには聞こえないはずなのに話しかけるようにつぶやく。

「見てる皆はきっともう追いつくので必死とか思ってるんだろうなぁ、、、確かに、、確かに必死だけど!!」
ストレートに近い緩やかなコースに入る。既にNSXとギャランの車間は絶望的な距離にあった。

追いかけるはるな、先行する涼音。
しかし涼音は分かっていなかった。はるなはどんなに離されようとも決して諦めてはいない。
そして気付いていなかった。なぜギャランはふらついていたのか?そして1番の問題点。なぜ3回程度しか走っていないのに、はるなはこれだけのセンスと技術を持っているのか。

走ることが、速く走る事がカッコいい。そんな事はこの2人は思ってはいない。むしろ思った事がない。この速度領域、ワンミスで人生は終わる。悔やむ事も悲しむ事も出来ない場所。

自分の一挙手一投に人生がのしかかっている。
10秒後、この世界にいないかもしれないのに。

それでも2人は走ろうとする。

どっちが1番速いんだ?

全てが決まる時が来る。

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