榛名山のはるなさん 10話

第10話 コンセントレーション

卓球部のエースと互角近くの卓球をプレイするはるなに体育館は大盛り上がりだった。
学校では今まで空気的な存在のはるなが、峠でのバトル並みに一気にスポットを当てられていた。

1セット目は、はるなが先取した。2セット目はギリギリの戦いでシズカが先取。
3セット目もほぼ互角の戦いだった。

気がつけば、10-10。
同級生も、、、いや、ギャラリーも否が応にも盛り上がっていた。

「はぁ、、はぁ、、はるな、、アンタどーして私に食らいつけるのよ、、意味わかんないんだけど！！」

「だから、、、言ってるじゃん。はぁ、、、はぁ、、、ギャランで攻めてる時と同じように反応してるだけだって、、」

「だからギャランって何なのよ！、、まぁ、良いわ、どーせ私が勝つんだから！後でじっくり聞かせてもらうわ！」

「マジか、、、、めんどいな、、、」

はるなはもう話すのも精一杯だった。相手は卓球部のエース。スタミナ、技術、戦略、全て向こうが格上。
それなのにここまで食いついてるのは、はるなのトリッキーなプレイスタイルが原因だった。どんなスポーツにもそれぞれにリズムというものがある。
はるなのプレイスタイルは部活をやっている人間には捉えにくいリズムなのだ。

「汗、、やば、、、」
しかし、既に体力は限界だった。
1セット目から比べると踏み切れずボールに間に合わないシーンが何度か見られ始めていた。
ゲームはもう3セット目。もう力が入らず膝はガクガクだった。

「やば、、、普通にヤバいわこれ。」

「これで、、、終われっ！！！」
シズカのスマッシュはるながいる逆方向に決まる。

ゲームセットの音が鳴り響く。

勝ったのはシズカなのにも関わらず、負けてしまったはるなの活躍ぶりがあまりにも意外すぎて、はるなは一気に注目の的になってしまった。
「アンタ運動神経なかったんじゃないの！？」
「あんなに卓球台から離れて打ち返すとかお前卓球部かよww」

「ちょっと、、私が勝ったんだからなんでアンタそんな強いのか教えなさいよ！」
シズカははるなが何故ここまでできるのか不思議でならなかった。
県大会ベスト3の実力に全くの素人が食いつけるはずがないのだ。

それに、シズカは途中から違和感を覚えていた。
最初はあんなにやりづらかったのにリズムが突然とれるようになった。
そのリズムも何故か合っているのに、違和感を覚えた。
何故なら、合いすぎているのだ。まるで自分と打ち合っているかのような。速攻型に切り替わった時もそうだった。フォームが自分に似ていた、というより打ち合う事でフォームを理解してきているような感じがした。

そして何故最初のリズムの取りづらいスタイルをやめたのか。
卓球部のエース相手に手加減？だとしたら舐めすぎている。

「はるなあああああああ！！！めっちゃすごいよ！」
サツキがクラスメイトをかき分け、はるなに抱きついてきた。
「いった！！痛いから！！アンタのダッシュからのハグで腰の骨折れるところだったわ！！」

「そんなの漫画じゃあるまいし、あるわけないじゃーん。」

「何でないって言い切れるの！？現実に痛いんだけど！！腰が！そして抱きついてきた首が！」

「あはははは！いつものクールなはるなのキャラが崩壊してるね！いいね！今日はそれで行こう！」

「無茶言うな！！疲れるわ！！あぁ、、もう、、、」

「はぁ、、もういい、、、また今度聞くわ。アンタがなんで運動部に目をつけられてるか理由が分かったわ、、」
シズカは聞くのもバカらしくなり、ため息をつく。

そしてチャイムが鳴り響く。

はるなは教室に帰るまでクラスメイトに囲まれ続けていた。そしてはるなは今まで下位だったスクールカーストが今回の活躍で上位になってしまった事に後悔した。
「ああ、、面白がるんじゃなかった、、、」

そして学校が終わり、サツキの家に向かった。

「うっわ、、、めっちゃピカピカ、、新車の迫力ハンパないね、、、」

「可愛いでしょー！私のBRちゃん！ツルッとしてて！」

「確かに本物を目の前にして言われると、、可愛い、、かも。」

「よし！ドライブ行こう！なんかね高峰高原へ続く車坂峠ってのが近くにあって面白いみたい！！」

「高峰か、、まだ明るいし景色が綺麗そうでいいね、、、って1個質問していい？なんでシズカがここにいるの。」

「何、一緒に戦った仲なのに、はるなはそんなツレないこと言うの？」

「いや、ツレないってか、、、」

「私が誘ったんだー！良いじゃん、女子3人でドライブも絶対楽しいよ！みんなでアイスとか食べよ！カリカリ君女子会！」

「いや、そこは個人店のソフトクリームだろ！！」
シズカがすかさずツッコミを入れる。

「お！いいツッコミ！じゃあみんな車に乗ってまずはアイスだー！！」

3人は高峰へ続く車坂峠に向かうはずだったが、行く途中にある美味しいと有名な『ちるちる』というアイス屋で話が盛り上がってしまい、車坂峠に到着したのは日が暮れる頃どころか夜中になっていた。

「いやー、めっちゃ楽しいね！シズカめっちゃ気が合ってビックリなんだけど！そして歌上手すぎ！！」
話が盛り上がりすぎてしまい、3人はカラオケに行き、声が枯れるまで歌っていたのだ。

「いやー私、ずっと部活ばっかりだったからさぁ、たまにはこうやって遊ぶのも悪くないね！もっと２人と遊んでれば良かったー！それにしても、、、ぷぷっ、、はるなの歌には笑ったわ。」

「ひどっ！音痴だから絶対カラオケには行かないようにしてたのに…サツキが無理矢理誘わなければ！！」

「ごめんごめん、それにしてもはるなっていつもクラスで大人しいってか、周りとあえて距離とってるかと思ってたら、、、まさか実はただの超人見知りなだけだったなんて笑えるわ〜。」

「うっさい。人と話すの苦手なんだよ。ギャランを直すまでの2年間はマジでキツかったわ、、特に牛丼屋
きつかった、、。」
はるなは1年生の時から2年間、ギャランを直す為だけにバイト代を注ぎ込み、いつもバイト先のはやまるのところで車をいじっていた。
「あー、1年の時から早く帰ってたのはその為だったのね。」

「まあ、今は牛丼屋もやっと慣れてきたけどね。ただDQNが3、4人組で牛丼の特盛頼んで長居しながらウェーイしてる時が本当片付け大変で泣けるんだよね、、、。
でも軽井沢にある解体屋、はやまるさんとこのバイトは楽しいよ。はやまるさん仕事の教え方上手いし、めっちゃ優しいんだ。」

「ねえねえ、はるなどうしよう、、、今気づいたんだけど後ろからめっちゃ煽られてるよぉ、、、どうしよぅ、、、」

「うわ、、とりあえずこのコーナー抜ければ頂上だから大丈夫だよ。BRZだから走り屋と思われてるんだよ。慌てないで。ゆっくりね」

「う、うんっ。まだ私のBRちゃんぶつけたくないしね！」

サツキはコーナーを抜けて頂上に着いたあと駐車場に停まる。
しかし、何故か後ろの車はBRZの近くに停車する。そして、２人組の男子が車から降りてきた。

「え、何なに！？怖い！」
サツキは完全にビビっている。
２人組はBRZの窓をコンコンと軽くノックする。サツキはビクビクしながら窓を開けた。
「あのぉ、、どうかされましたか？」

２人組の１人、ニットキャップを被ったほうが話しかけてくる。２人組ともタバコを吸っているのかものすごく臭い。また、時たまいる男子特有の体臭が異様に臭ってくる２人であり、３人は窓を開けたことを物凄く後悔していた。
「いや、大した用事じゃないんだけどさぁ、見たことないハチロクが登ってたから新入りかと思ってね。」
「おいおいマジかよ3人とも女子かよ！良かったら俺たちがここの走り方レクチャーしてやろうかぁ。」
もう１人のやけにロンゲの男がやや興奮気味でこちらを見ていた。

「いえ、私達ただのドライブですんで。危険な運転とかは興味ないです。」
流石は体育会系のシズカ。自分の意見をスパッと伝える。

「ふーん、、なんか若いわりにはハチロクなんていい車乗ってんじゃん。」
ニットキャップがジロジロとサツキのBRZを見る。
「いえ、これBRZですよ、、」

「おお、マニアックじゃん。夜のプレイもマニアックなのが好きだったりしてな、ぎゃははははは！！」

「うっわ、マジ無理だわ、、、生理的に本当無理。」
はるなが2人に嫌悪感を抱く。そしてあまりにもキツかったので言葉にしてしまう。

「つーかさぁよくこんな車買う金あるよなあ。まさか盗難車かぁ？」

「違いますよ！ちゃんと買ったやつです！」

「ちょっとサツキ！」
はるなが止めるがサツキは相手のからかいに乗ってしまう。
「つーか走れもしねぇのにBRZって、車が泣くぜ。」
「確かにな、俺らみたいにある程度走れるようになんねぇとなぁ。」
「ま、なんちゃって走り屋はある程度景色楽しんだら帰った方が良いぜ。それとも俺達が峠だけじゃなくベッドの上までエスコートしてやろーか！？ぎゃはははははは！」
サツキは下をうつむいて黙っていた。バカにされたのが悔しかったのか、目が少し潤んでいた。
はるなの中の何かが切れた。親友にこんな思いをさせられて黙っていられる訳がない。

「あーそー、それじゃそんな走り屋気取りにも負けちゃうかもしれないお兄さん達には、スポーツカーは似合わないかもねぇ〜」

２人組がニヤけた顔ではるなを見る。
「お、なんだぁ〜俺達、高峰ブラック・サバスってこの辺じゃ有名な走り屋チームだぜ？その俺らに勝つ？ぎゃははは！無理だろ！！それに俺達のチューニングしたランエボⅣと、ただ買ってきたばっかみてーなBRZじゃ馬力も乗り手のテクニックも、何もかも違うんだから無理無理！」

「へぇ、、、じゃあせっかくだから下までエスコートしてあげるよ。運転がドヘタクソなお兄さん達の為に私達が。」

２人組に漂う雰囲気が変わる。
「は！強く出るねぇそっちのクソガキは。そこまで言って負けたらどーすんだ？」

「私が可哀想なお兄さん達にいくらでも付き合ってあげるよ。その代わりお兄さん達が負けたら、高峰ブラック・サバスは免許取り立ての女子高生より運転がド下手くそなのに初心者にからむ最低チームでーす！ってつぶやきながら私達に土下座する画像を添付してSNSでつぶやいてもらおうかなー！」

「ほぉ、、その条件乗ったぜ。忘れんなよ。」

「ちょっとはるな！」
サツキとシズカがはるなを制止しようとする。

「大丈夫、絶対負けないから。特にエボ乗ってるくせにこういうエボの品格を落とす奴ら許せないんだよね。それとサツキ、買ったばかりだけどBRZちょっとだけ貸してね。大丈夫、絶対ぶつけないから。」

「はるな、、、分かった。その顔してる時のはるなは絶対にキセキ起こす時だもんね！絶対勝ってね、はるな！！」

「え！サツキまじでいいの！？このままじゃヤバい事になるよ！？」

「大丈夫、普段なーんにも興味無いくせに、はるなが何かを断言する時は絶対になんかキセキ起こす時だから。断言できる。はるなは絶対勝つよ。」

「マジ、、、？はぁ、、分かった！！はるな、勝負なんだからマジでやんなよ！！私の時以上に集中して！！絶対勝つんだよ！」

「ありがとう。大丈夫、、、絶対勝つから。じゃあお兄さん達スタート位置教えてよ。」

「上等だクソガキども。」
ニットキャップは完全に戦闘態勢だ。

「うひょー！こんな楽勝なバトルでJKと朝までコースだよー！やべー！！」
ロン毛は下卑た笑いを浮かべながら最低なセリフを吐いていた。

サツキははるなと運転を代わる。
そして両者ともスタート位置につく。

「また登ってくるのもだりぃし、初心者相手だからお前ら先行で良いぜ。俺達は後追いだ。スタートのタイミングはお前達に合わせる。お前らが抜かれずに下まで行ければお前らの勝ちだ。」
ニットキャップがルールを説明する。

「女の走り屋かー、噂じゃサンライズの本当のナンバー1は女だって噂だけど、、無理無理ー！女の子はやっぱベッドのテクニックを磨かなきゃさぁ！！げひひひ。」

「ま、規格外と言やぁ、長野ナンバーで群馬県に突然現れたアイツだな、、、黒のギャラン。今じゃ走り屋系のSNSのつぶやきではトップの人気だからな。しかもたった２日間でサンライズのナンバー１、２を倒して榛名山最速の称号だからな。しかも可愛い女子らしい。ま、お前らみたいなにわか走り屋とはレベルが違うけどな。」

「へぇー、、、、SNS見てないから知らなかったけど、、、そんな大事になってたんだ、、。」

「ま、せいぜい気張ってくれよ。今夜は寝れないぜぇ、、、、、えーと、何だっけ。」

「教えたくないけど、仕方ないな。私ははるな。負けちゃうお兄さん達の名前は？ちゃんと名前聞いとかないと負けて勝負無効だとか言われても困るからさー。」

「ちっ！、、口だけは達者だな。俺達は高峰ブラック・サバスのメンバー、ヒロシとトオルだ！」

「オッケー覚えた。ちゃんと負けたら名前と画像添付してつぶやいてもらうから。私の友達をバカにすると痛い目みるってこと教えてあげる。」

「は！てめぇこそ、その強気な態度をベッドの上でズタズタにしてやるぜ！」

はるなは鼻で笑った後、ウィンドウを閉める。

「ごめんね、、ちょっとスピード出すから２人共シートベルトしてしっかり捕まっててね。それと、、サツキ、、私がこの車のポテンシャル見せてあげる。」

「オッケー！アイツらが見えなくなるくらいブッチ切って！！！その後私に運転教えてね！」

「オッケー。それじゃあ行こうかBRZ！アンタとサツキをバカにした下品な２人組をコテンパンにしちゃお！！」

フオオォォォォォンッッッ！！
ボクサーエンジン独特の吹け上がり。

ドクン、、、。

はるな、サツキ、シズカの心拍数が上がる。
３人のアイドリングの回転数は緊張と不安と興奮が入り交じり、上がってしまう。

はるなは、、、、少し口元に笑みを浮かべている。
初めての車、初めてのステージ、全てを飲み込んではるなはクラッチを踏みこみギアをファーストへ。

全ての思いと共にアクセルを踏み込み、タイヤが地面と擦れ甲高い音を立てながら、はるな達の気持ちを代弁してくれるかのようにBRZが唸りを上げる。

はるなにとって長野での初めての勝負が始まった。

Ready……？

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