第41回「イタリア縦断記 その9」目指せニューシネマパラダイス 映画の道
「夢の島シチリア」
シチリアへ行きたい。
あの映画の中に、世界に入ってみたい。
初めてそれを頭に想い描いたのは高校二年の時だった。一年以上前に観た映画「ニューシネマパラダイス」の感動を、弘樹はどう消化したらいいのか全く分からず独り悶々としていた。それまでの自分は映画がそこまで好きという訳でもなかったし、周りにこの映画を観ている奴もいないだろうと思っていたからだ。
2018年、そんな自分がシチリアに渡る。いよいよその時が迫って来ている。船着き場に向かう車を走らせながら、ナポリの海風を顔に浴びる。静かな感動が湧き上がってくる。あれから二十七年、随分と時間が経ってしまったが、まだ間に合うのだろうか。
夢ではなくいつか実現しよう、そう思えたのは高校時代の仲間たちのお陰なのかもしれないなと思う。
1991年、弘樹には新たな仲間たちとの出会いがあった。一人目は小学校からの同級生、お調子者の信太郎である。彼とは小中学校が同じで、更に高校まで同じになったのだが、これまで一度も同じクラスになったこともなく、特に親しいという訳でもなかった。
それが「映画が好き」ということがきっかけで毎日つるむ様になる。映画館より図書館に通うのが好きだった自分が、信太郎と共にロードショーとかスクリーンという映画雑誌を買い、過去の映画のチラシやポスターを探しに神田の古本屋街まで行くようになった。新作映画の公開に合わせて劇場に通い、それでも飽き足らずにレンタルビデオで夜な夜な映画を観まくった。面白いもののがあれば互いに熱っぽく紹介しあった。
ある日、躊躇いながら信太郎に「ニューシネマパラダイスっていう映画は観たことあるか?」と聞くと、顔をにんまりとして「あるぜ。あれ最高だよな」と返してきた。「あれを観て感動しない奴とは、友達やめるだろ!」そう言って奴は右手をグーにして突き出した。なんだか妙に嬉しくなって「もちろんだ」と弘樹も右手を突き返した。
ならばと、試しに親友であるミッタくんにも翌朝の通学途中に聞いてみた。すると「当然だろ、あれ観てない奴は人間終わってる」そう答えるではないか。なんだなんだ、観てる奴はちゃんと観てるんだという事実に興奮した。そうして僕等は(ミッタくんは別の高校だったが同じ方向の隣りの駅だった)毎朝一緒に川越線に乗って通うことになった。
二学期の終わり、「進路調査書」が学校から配られて迷っている時に、「実はさ、将来映画をやりたいんだ」と打ち明けたのも奴らが初めてだった。信太郎は、「すげえなニューシネマそのままじゃんか。だったら俺はUCバークレー目指すから、弘樹もUCLAで映画の勉強すればいいよ。一緒にアメリカ行こう」と語った。(※その後、彼はアメリカに渡り、国際税理士となって世界を巡ることになる)
弘樹はアメリカの大学のことなど何も分からなかったけれど、ほんとにこのまま、熱に浮かされたまま進んでもいいのかもしれないと心が震えた。ミッタくんは、「それなら、やればいい」とポツリと言った。親にはまだ伝えていなかった為、実際出した書類には、無難な有名大学を記入して済ませた訳だけれど、弘樹の中でアメリカに行くか、イタリアに行くか、いずれにせよ映画への二つの道が見えたのはこの時だっただろう。
次回「夢の島にはゆっくり行け」に続く
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