為替介入の基礎①:覆面介入

為替介入に関する報道が増えており、財務省も警戒感を強めているところ、いよいよ為替介入があるかもしれないという印象です。これまで外為特会について説明してきましたが、為替介入についても基本的なことを私自身へのメモを含めて整理していきます。

まず、2022年、為替介入は三回実施されましたが、興味深い点は1回目は介入直後に明言したのですが、後半の2回は介入したタイミングでその事実に言及しませんでした。このように介入をしたことを明言しないことを覆面介入といいます。

例えば、神田財務官は2022年10月の介入時には下記のように対応しています。今年、介入するとして、それを明言するのか、それとも覆面となるのか、予断を許しません。

神田真人財務官は22日、ロイターの取材に対し、前日の21日夜に流れたドル売り/円買い介入観測に「コメントしない」と語った。為替介入の有無に関するコメントは「当面、控える」とも述べた。

神田財務官は24年ぶりとなった9月22日の円買い介入を最後に、介入の有無に関するコメントを避けている。神田財務官はロイターの取材に対し、「数週間前から(コメントしない)方針を貫いている」と説明した。市場ではこのところ、介入しても政府が直ちに事実を公表しない覆面介入があったのではないかとの観測が流れている。
為替介入有無、当面は「コメント控える」=神田財務官 | ロイター (reuters.com)

もっとも、介入をしたことは結局はバレます。介入のデータについては下記の通りであり、介入したかどうかは①→②の順番でバレます。

①月次ベースの統計は当月最終営業日公表
→月次ベースの発表。介入の実施から決済まで2営業日係る点に注意。

②日次ベースの統計は2、5、8、11月初公表
→四半期ベースの発表。介入額・介入した日付・対象通貨も発表される点がポイント。
統計表一覧(外国為替平衡操作の実施状況) : 財務省 (mof.go.jp)

すなわち、介入した月の最終営業日(但し月末に介入した場合はその翌月の最終営業日)にばれて、その後、しばらくたってからどの日に実施したかなどの詳細もバレるということですね。

例えば、昨年の10月の介入だと、下記のように、①のデータを使って、2022年10月末に「財務省は31日、10月分(9月29日-10月27日)の為替介入額が6兆3499億円だったと発表した」のように報道されています。
10月の為替介入額は6兆3499億円、円買いで過去最大を更新 - Bloomberg

また、②のデータに基づき、2023年2月の頭に下記のように、日付も含めて報道が出てきます。

政府・日銀 市場の「覆面介入」 10月21日に5兆6202億円 財務省 | NHK | 株価・為替

もっとも、介入そのものは、介入が実施されたタイミングで、為替が大きく動くので、市場参加者にはすぐに推測されます。下記で記載しましたが、2営業日後の日銀当座預金の財政等要因に反映されるため、その金額の動きをみて金額についての予想がなされます。これは短資会社が予測を出します。

外為特会の基礎⑤:為替介入規模の推定|服部孝洋(東京大学) (note.com)

とはいえ、財務省も結局はバレるとはわかっているわけで、短期的にはコメントをしないほうが効果があると考えているからすぐには明かさない、としているわけです。木内さんは覆面介入の効果について下記の通り説明しています。

当局が実施の事実を明らかにしないタイプの為替介入は「覆面介入」と呼ばれる。その狙いは、当局の姿を明らかにしないことで、市場を「疑心暗鬼」に陥れ、恐怖心を煽ることで為替の動きを封じることだ。

例えば、短期間で大幅に円高に振れた場合、それが為替介入の影響であることが明らかな場合には、市場関係者にとってはむしろ安心である。先行きドル高円安を見込む市場関係者にとっては、当局の為替介入でドル安円高となれば、それはドル買いの絶好の「買い場」となる。そのため、多くのドル買い円売りが集中して、むしろ為替介入前よりもドル高円安が進んでしまうこともある。

ところが、政府が為替介入の事実を明らかにしないと、その円高の動きが為替介入によるものか、あるいは確認できていない別の要因によるものかが分からない。そこで、市場関係者は怖くてドル買い円売りを進めることができなくなり、結果的に円安の流れに歯止めが掛かることもある。これが、「覆面介入」のメリットである。

異例尽くめの為替介入の背景には何があるのか | 2022年 | 木内登英のGlobal Economy & Policy Insight | 野村総合研究所(NRI)

経済学者はどう整理しているのかが知りたくなり、私の研究室にある国際金融のテキストを一通りみてみましたが、意外にも、覆面介入についてはほとんどのテキストが記載していませんね。不胎化介入と非不胎化介入についてはどれも紙面を割いて一生懸命説明しているのですが。覆面介入については、記載があるテキストがあればアップデイトしようと思います。

<追記>
続きが読みたい方は下記を参照してください。
為替介入の基礎②:口先介入(レートチェック、3者会合等)|服部孝洋(東京大学) (note.com)
為替介入の基礎③:協調介入と単独介入|服部孝洋(東京大学) (note.com)
為替介入の基礎④:日銀の当座預金の「財政等要因」と為替介入額の推定|服部孝洋(東京大学) (note.com)
為替介入の基礎⑤:為替介入はどのようなときに効果があるか|服部孝洋(東京大学) (note.com)

なお、これまで外為特会について継続して記載しているので、関心がある読者は下記を参照してください。

外為特会の基礎①:外為特会のBSと為替介入|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎②:運用の概要|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎③:外国為替資金証券(為券)について|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎④:日本には非不胎化介入は存在しない?|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎⑤:為替介入規模の推定|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎⑥:外貨準備と外為特会の違い|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎⑦:国債整理基金特会との関係|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎⑧:IMFとの関係|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎⑨:外為特会が有する外貨資産の活用とチェンマイ・イニシアティブ|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎⑩:為替介入と民間銀行のBSの関係|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎⑪:為替介入や特会の運用に関する財務省の体制|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎⑫:外為特会改革と外為特会の積立金制度について|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎⑬:積立金制度廃止とFBの償還(外為特会改革について)|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎⑮:2022年の円買い為替介入と不胎化介入について|服部孝洋(東京大学) (note.com)

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