服部孝洋(東京大学)

服部孝洋(東京大学)

最近の記事

半年で為替介入が3回以内というIMFの介入ルールに関するメモ

最近、新聞などで、「変動相場制の国における介入は『半年で3回以内』『1回あたりの介入は3営業日以内』」というルールが言及されることが増えてきた印象です。私はこれについて聞いたこともなかったのですが、私の周りでも今回初めて聞いた、という人が少なくない印象です。 必要に応じて加筆・修正しますが、現在の理解では、これはIMFにおけるFree Floatingの定義にすぎない、と考えています。IMFは、「Annual Report on Exchange Arrangements

    • 主幹事方式入門―市場公募地方債を事例に―

      先月から「ファイナンス」で地方債の発行方法について説明しています。初回は地方債の発行方法について唯一、入札方式が用いられている大阪府の事例を説明しました。今回は、主幹事方式について取り上げました。ご関心がある人は下記よりご覧ください。https://www.mof.go.jp/public_relations/finance/202407/202407f.pdf 主幹事方式は社債などで広く用いられている起債方法ですが、意外とその内容について記載したものが少ないと思います。本

      • 2024月7月12日に2兆規模の為替介入の試算

        今回も自分のメモとして、為替介入の規模を記載しておきます。今回はシンプルに記載します。 今回は、2024年7月12日に、連続して介入がなされたのか、と指摘されていました。その2営業日である7月17日の資金需給予想(財政要因)は下記の通りです。 東短:▲6,000億円 セントラル:▲6,000億円 上田八木:▲6,000億円 そして、本日公表された日銀の財政等要因(7月17日分の予測)は▲27,400億円ということがわかります。したがって、▲6,000億円との差を考えると

        • ブルース・タックマン「債券分析の理論と実践」の読み方

          債券のスタンダードなテキストとして、ブルース・タックマンの「債券分析の理論と実践」という書籍(タックマン本)があります。この本は市場参加者の中でも大変評判が高い本だと感じています。私の知り合いは、トレーダーをやる際に、この書籍に書いてあることは債券市場の常識だから、すべて頭に叩き込め、と上司に指導されたという話もあります。 この本を開いていただくと、数学的に難しいということは全くないことに気づきます。今読むと、説明のすばらしさは感じます。もっとも、この本を私が最初に読んだ時

        半年で為替介入が3回以内というIMFの介入ルールに関するメモ

          2024年7月11日夜、3兆〜4兆円規模の為替介入の疑い(推計)

          昨日、下記のように介入の計算プロセスのメモを記載しました。本日、昨日介入されたかどうかの市場推計ができるので、自分の備忘録としてメモを記載しておきます。 2024年7月11日に為替介入?介入規模の計算のプロセスの確認|服部孝洋(東京大学) (note.com) 為替介入の予測に関する計算方法は下記の通りです。 今回は7月11日の夜、為替介入が疑われ、それが「財政等要因」に反映される2営業日後は7月16日です。7月16日における短資会社による「財政等要因」の予測は、下記の通

          2024年7月11日夜、3兆〜4兆円規模の為替介入の疑い(推計)

          2024年7月11日に為替介入?介入規模の計算のプロセスの確認

          2024年7月11日の21時30分ごろ、円ドルレートが大きく円高に動き、為替介入が疑われています。そもそも21時30分に米国でCPIの発表があり、市場予想を下回ったということもあるのですが、それしても4円くらい短時間で円高に動いています。 介入があったかどうかは財務省からいずれ明らかにされますが、市場では実際にこれがあったかの検証がすぐになされます。このプロセスは下記にも記載しましたが、次のようなプロセスになります。 外為特会の基礎⑤:為替介入規模の推定|服部孝洋(東京大学

          2024年7月11日に為替介入?介入規模の計算のプロセスの確認

          変動利付国債の再発行に関するメモ

          ロイターから新しく変動利付国債が発行される可能性があるというリーク記事がありました。 短期金利連動の変動債発行へ、財務省が近く予算要求=政府筋 | ロイター (reuters.com) この報道では「短期金利に連動する新たな変動利付債の導入」「2年物や5年物として発行する案」とあります。これを読んで、TONAに連動するという商品性を想像しました。この場合、事実上、アセットスワップと同じ経済効果を持つ商品性といえます(アセットスワップについては日本国債入門の11章を参照)。

          変動利付国債の再発行に関するメモ

          税収の上振れにより新規国債は約10兆円減額:2023年度決算概要(見込み)

          2024年7月3日、2023年度一般会計決算の概算見込み額を財務省が発表しました。例年、例年簡単なメモを記載していますが、今年は報道されていなさそうです(今年は日銀の国債購入の減額が話題になっているので少々不思議です)。本日の内容は、下記をベースに記載するので、下記も参照してください。 一般会計決算の概算見込み額についてのメモ|服部孝洋(東京大学) (note.com) まず、下記が財務省により発表された「令和5年度決算概要(見込み)」です。例年記載していますが、この表は一

          税収の上振れにより新規国債は約10兆円減額:2023年度決算概要(見込み)

          黒田東彦前日本銀行総裁の講演:財政金融政策に関する私の経験

          下記のとおり、黒田前総裁を主催する予定です。本学の学生は奮ってご参加ください(入室する際に学生証の提示を求める点に注意してください)。 財政金融政策に関する私の経験 | GraSPP (u-tokyo.ac.jp)

          黒田東彦前日本銀行総裁の講演:財政金融政策に関する私の経験

          無担保コール市場における金融機関同士の直接取引(DD取引)のメモ

          前回に続き、再び無担保コール翌日物(TONA)に関する簡単なメモです。無担保コール翌日物というと、日銀の「コール市場関連統計(毎営業日)」というサイトにおいて公表されています。 コール市場関連統計(毎営業日) (boj.or.jp) この計算方法は「「コール市場関連統計」の解説」という日銀の解説資料にその詳細が書いてありますが、ここで取り上げたいのは、この取引の対象は3つの短資会社のヒアリングによって算出されているということです。下記がコールレートの計算方法ですが、上田八木

          無担保コール市場における金融機関同士の直接取引(DD取引)のメモ

          マイナス金利解除後、無担保コール市場におけるMRFに関するメモ

          前回、下記について記載しましたが、MRFと無担保コール市場について簡単なメモも記載しておきます。 マイナス金利以降のTONA(無担保コール翌日物金利)の推移のメモ|服部孝洋(東京大学) (note.com) 2層構造になってから考えるべきは、当座預金を有する金融機関と、当座預金を持たない主体の裁定です。内田副総裁の2月の講演では下記のようなコメントがなされており、この裁定活動が今なされていると考えています。 これを考える上で、当座預金を持たない主体で、かつ、短期運用をする

          マイナス金利解除後、無担保コール市場におけるMRFに関するメモ

          マイナス金利以降のTONA(無担保コール翌日物金利)の推移のメモ

          前回、BOJスワップについて記載しましたが、マイナス金利以降のTONAの動きについて簡単なメモを記載しておきます。 日銀の利上げの予測に用いられるBOJスワップ:利上げ確率の計算例|服部孝洋(東京大学) (note.com) まず、下記が日銀が政策金利として用いているTONA(無担保コール翌日物金利)の推移になります。日銀は3月の半ばの決定会合にてマイナス金利政策を解除し、その後、TONAが0~0.1%で推移するよう政策金利を誘導しています。下記に記載しているとおり、その

          マイナス金利以降のTONA(無担保コール翌日物金利)の推移のメモ

          日銀の利上げの予測に用いられるBOJスワップ:利上げ確率の計算例

          前回、BOJスワップについて簡単なメモを作りましたが、今回はその簡単な補足です(まずは下記のnoteを参照してください)。 日銀の利上げの予測に用いられるBOJスワップに関するメモ|服部孝洋(東京大学) (note.com) まず、昨日の夜から内外金利差が拡大し、円安が進み、160円を突破しました。下記をみると、米金利(青色)とドル円(白色)の動きは分単位で見ても非常にきれいに相関しています。 それに伴い、市場参加者の利上げに関する予測が高まり、(次回の決定会合スタートの

          日銀の利上げの予測に用いられるBOJスワップ:利上げ確率の計算例

          日銀の利上げの予測に用いられるBOJスワップに関するメモ

          昨日、下記のようにBOJスワップについてポストしましたが、BOJスワップについて簡単なメモを記載しておきます。 BOJスワップはOISの一例です。OISについては日本国債入門の11章を参照していただきたいのですが、OISはOTCで取引されているため、オーダーメイドが可能であり、その期間も自由に決めることができます。債券市場では、次回の決定会合スタート、その翌期の決定会合の直前をエンドとするOISが取引されています。このOISについて色々呼び方がありますが、ここではBOJスワ

          日銀の利上げの予測に用いられるBOJスワップに関するメモ

          金利上昇が議論される中で注目が高まるTONA金利先物の動向

          長年、金利先物が議論されることがありませんでしたが、日銀による利上げが年内に予測される中で、TONA金利先物についての記事が増えてきた印象です。実際に、建玉をみると2024年4月以降から増加が加速しているようにみえますが、今後実際に利上げがなされる中で、より一層注目を受けると予測しています。 金利先物というと、米国の金利について利上げ確率を計算するFF金利先物になじみがあるとおもいます。その背景には、FF金利先物に基づいた利上げ確率が米国で利上げや利下げが議論されるたびに報

          金利上昇が議論される中で注目が高まるTONA金利先物の動向

          引合方式入門―大阪府債の事例―

          今月から「ファイナンス」で地方債の発行方法について説明していきます。初回は、地方債の発行方法について唯一、入札方式が用いられている大阪府の事例を説明します。ご関心がある人は下記よりご覧ください。 202406f.pdf (mof.go.jp) 現在、日本政府は入札方式により国債を発行しています。地方債については主に、シ団方式と主幹事方式が用いられていますが、入札方式を用いれいる事例もあり、大阪府は入札方式とシ団方式を組み合わせた方式を用いています。なお、日本政府は歴史的に

          引合方式入門―大阪府債の事例―