服部孝洋(東京大学)

服部孝洋(東京大学)

最近の記事

「オルカン」という表現が流行した時期や理由に関するメモ

今回は自分自身への簡単なメモです。今、「インデックス・ファンド革命」という書籍の書評を書いていて、いわゆる「オルカン」という表現がいつから普及しはじめたのかな、と感じました(気づいたら一気に流行していたという印象です)。 「オルカン」については、「MSCI オール・カントリー・ワールド・インデックス」というインデックスをトラックするインデックス・ファンドを想像されるかもしれません。もっとも、「オルカン」というと、三菱UFJアセットマネジメントの「eMAXIS Slim 全世

    • 財務省ファイナンス「齋藤通雄氏に聞く、国債を巡る資金の流れと特別会計の基礎(前編)」

      本日、「齋藤通雄氏に聞く、国債を巡る資金の流れと特別会計の基礎(前編)」というタイトルで、財務省「ファイナンス」に文章を掲載しています。下記のリンクより読むことができいます。 202404g.pdf (mof.go.jp) 我が国における国債制度を理解しようとするにあたり、特別会計についての理解が必要になることが少なくありません。もっとも、特別会計は複雑であり、独力での理解が困難だと指摘されることも少なくなく、さらに、初学者に向けた文献がないのが実態です。本稿は、国債を専門

      • カバーなし金利平価で今の円安を説明できるか

        昨日、カバー付き金利平価とカバーなし金利平価について説明しましたが、その簡単な続きです。 フォワードによる理論価格とカバーなし金利平価のメモ|服部孝洋(東京大学) (note.com) たまに、今の円安をカバーなし金利平価で説明する人がいますが、個人的には困難であると思っています。まず、多くの国際金融のテキストでは、カバーなし金利平価は成立していないと説明されます。例えば、手元にある教科書だと、橋本・小川・熊本(2019)は、「カバーなし金利平価式が成立していない」(p.1

        • フォワードによる理論価格とカバーなし金利平価のメモ

          昨日、下記のツイートについて、私の周りで少し話題になりました。 私は上記を一読した時には、「理論値とも解釈できるのかも」と思いました。というのも、「カバーなし金利平価」(Uncovered Interest Parity, UIP)という「理論」によれば、一年後の為替レートは、フォワード価格になると期待されると解釈することもできます。どの国際金融のテキストをみてもらってもよいですが、例えば、永易先生らの国際金融のテキストみると(p.79)、為替の動き(期待値ベース)は内外金

        「オルカン」という表現が流行した時期や理由に関するメモ

          基本ポートフォリオにおける為替リスクの取り扱い:GPIFの基本ポートフォリオの決定方法についてのメモ⑤

          今回もGPIFの基本ポートフォリオについての簡単なメモです。今回は、GPIFにおける為替リスクの取り扱いですが、GPIFは(私の理解では)基本的に為替リスクをとる、というスタンスで運用を行っています。このことはGPIFの説明でも明言しており、例えば、youtubeで植田CIOが下記のスライドを用いており、「基本的には為替ヘッジなし」と説明しています。 基本ポートフォリオの計算ロジックは下記にも記載しましたが、基本ポートフォリオは、政策ベンチマークを用いて、「国内債券:外国債

          基本ポートフォリオにおける為替リスクの取り扱い:GPIFの基本ポートフォリオの決定方法についてのメモ⑤

          財政検証と実際の基本ポートフォリオの計算のイメージ:GPIFの基本ポートフォリオの決定方法についてのメモ④

          前回と同様、GPIFの基本ポートフォリオの決定方法について説明します。 これまで説明してきた通り(例えばここ)、基本ポートフォリオは、「運用目標(実質的な運用利回り:1.7%)を満たしつつ、最もリスクの小さいポートフォリオを選定」することで構築します。これを図示したのが下記のとおりです。 ここからわかるとおり、一定の計算により効率的フロンティアを描いたうえで、目標となる実質利回りが実現するよう、基本ポートフォリオを定めているといえます。したがって、この実質運用利回りを決める

          財政検証と実際の基本ポートフォリオの計算のイメージ:GPIFの基本ポートフォリオの決定方法についてのメモ④

          GPIFの基本ポートフォリオの決定方法についてのメモ③:オルタナ投資について

          引き続き、GPIFの基本ポートフォリオについてです。前回下記の通り、アベノミクスにより基本ポートフォリオを大幅に見直し、株式のウェイトが大幅に上昇しました。現在は、下記の通り、伝統的な4つのアセットクラスをそれぞれ25%の同じウェイト(一定のレンジあり)で保有している状況です。 GPIFの基本ポートフォリオの決定方法についてのメモ②:アベノミクス時の変更|服部孝洋(東京大学) (note.com) 前回説明したことでもあるのですが、アベノミクス以降の改革による重要な特徴はG

          GPIFの基本ポートフォリオの決定方法についてのメモ③:オルタナ投資について

          GPIFの基本ポートフォリオの決定方法についてのメモ②:アベノミクス時の変更

          伊藤先生の「証券アナリストジャーナル」「月刊資本市場」の論文に、アベノミクス時における基本ポートフォリオの考え方についてコンパクトかつ分かりやすく記載されていたので、それをメモとして記載しておきます。下記に関心を持った方は是非、論文そのものをご覧ください。 tokusyu_150201_1.pdf (saa.or.jp) 201703271710147683.pdf (camri.or.jp) 「日本国債入門」にも記載しましたが、GPIFの運用は、アベノミクスで大幅に修正さ

          GPIFの基本ポートフォリオの決定方法についてのメモ②:アベノミクス時の変更

          GPIFの基本ポートフォリオの決定方法についてのメモ

          先日、下記の通り、現在のCIOが再任されるということが話題になりました。この記事にもありますが、下記の通り、24年度は基本ポートフォリオについての議論が話題になります。 基本ポートフォリオについては5年に一回見直すとされています。これは財政検証が5年に一度なされ、それをうけてGPIFのポートフォリオをみなすためです(財政検証は今なされているところです)。5年に1回見直すというのは年金の世界では普及しているようですが(例えばこの記事を参照)、人口動態等を考慮するため、1年だと

          GPIFの基本ポートフォリオの決定方法についてのメモ

          日銀によるオペの発表時間とレンジについてのメモ

          本日、日銀のオペの発表時間に注目されるという興味深いことがありました。例えば、日経新聞では、 としています。日銀のオペの基礎については、日本国債入門の9章に記載しているので、全体像を把握したい方は、是非9章をご覧ください。以下では、これを前提に記載していきます。 日本銀行は定期的にいわゆる「オペ紙」をリリースしており、日銀の購入のスケジュールを公表しています。直近であれば下記のような感じです。 mpr240319b.pdf (boj.or.jp) 上記から明らかのように

          日銀によるオペの発表時間とレンジについてのメモ

          今年(2024年)の金融論の講義について

          来週から講義が始まり、東大で金融論の講義をスタートさせます。私の講義では、私の実務経験と学者としての経験をベースに、両者のバランスが取れた講義を行っています。本学の学生で金融に興味がある方は受講してもらえればとおもいます。 昨年も記載しましたが、最初に金融システム全体の話をした後、アセットプライシングの話をします(CAPM、バリュエーションなどの話をします)。その後、国債を中心に債券の基礎を説明し、企業金融や銀行論などをカバーします。基本的に昨年の内容をベースにするので、下

          今年(2024年)の金融論の講義について

          日銀オペにおいて強い結果(流れる)とはどういうことか

          簡単なメモを記載しておきます。日銀が国債を買う場合、オークションを実施しています。私の「日本国債入門」では、入札の評価についても説明があるのですが、「予測価格より高い価格(低い金利)で日銀が買った場合、入札結果は強い結果であり」(p.222)と記載しています。これがタイポでは、との指摘がありましたが、これは結論的に正しいです。 「予測価格より高い価格(低い金利)で日銀が買う」とは、オークションに参加する投資家の売り需要は弱いということを意味するから、「入札結果は弱い結果」と

          日銀オペにおいて強い結果(流れる)とはどういうことか

          財務省・日銀・金融庁の3者会合の役割とは:2024年3月の口先介入のメモ

          本日(2024/3/27)、財務省・日銀・金融庁の3者会合が実施されました。本日の午前中には3者会合が神田財務官が3者会合を実施しないとした報道があったところ、18時頃には3者会合の報道がなされて、急遽実施することになったと想像されます。特に、今までの3者会合は、そうはいっても、だいたい1-3時間前くらいに報道がでていました。今日については、報道がでてすぐに会合が開かれたことからも、特に急遽だったと推測されます。 その一つの要因として、本日、急速に円安が進み、1990年以来

          財務省・日銀・金融庁の3者会合の役割とは:2024年3月の口先介入のメモ

          黒木亮「巨大投資銀行」と日本国債入門で学ぶ先物と現物の裁定取引

          私が記載した「日本国債入門」の一つの特徴は、国債先物についてかなり早い段階で詳細な説明を加えている点です。例えば、大和証券の「債券の常識」ではオプションやスワップとの並びでデリバティブとして先物を紹介しています。その一方、私が記載した「日本国債入門」では5章の段階で先物を紹介し、スワップなどは11章など最後に取り扱いました(オプションについてはそもそもあまり取り上げませんでした)。 このように先物を序盤で取り上げた理由は、国債先物の価格については市場参加者が最も見る指標の一

          黒木亮「巨大投資銀行」と日本国債入門で学ぶ先物と現物の裁定取引

          4月から実施する公務員と交流する講義

          そろそろ3月が終わる中、4月から始まる講義の準備をし始めているところです。私がもっている講義の中に、金融および財政をテーマに、毎週、国家公務員(基本的には30代の課長補佐ランクですが、室長や課長もきます)をよんで講義をしてもらうというものがあります(「政策担当者が語る日本の財政金融論」というタイトルの講義です)。 30代の課長補佐とは、公務員としての経験が10年以上あるケースです。このくらいの年次になると、様々経験を有していることが多く、彼らの経験を通じて、実際の政策につい

          4月から実施する公務員と交流する講義

          三菱UFJ銀行による金利急騰のシミュレーションと「国債のすべて」

          三菱UFJ銀行から「国債のすべて」という書籍があり、円債市場で広く読まれています。 この本は、典型的な編著の書籍で、各章ごとに違う人が書いています。したがって、頭から読む本ではないと私は理解しています。一例をあげれば、p38に「ロールダウン」がでているのに、「利回りとは」みたいな説明はp290となっています。これは編著で、各章ごとに記載していくため、こういうことが起こるのですが、各章で独立して読むことを読者が求められていると理解しています。 この書籍は、第6章が「銀行AL

          三菱UFJ銀行による金利急騰のシミュレーションと「国債のすべて」