半年で為替介入が3回以内というIMFの介入ルールに関するメモ

最近、新聞などで、「変動相場制の国における介入は『半年で3回以内』『1回あたりの介入は3営業日以内』」というルールが言及されることが増えてきた印象です。私はこれについて聞いたこともなかったのですが、私の周りでも今回初めて聞いた、という人が少なくない印象です。

必要に応じて加筆・修正しますが、現在の理解では、これはIMFにおけるFree Floatingの定義にすぎない、と考えています。IMFは、「Annual Report on Exchange Arrangements and Exchange Restrictions (AREAER)」というレポートをだしています。この中で、各国の為替制度のレジームの分類も行っています。
Annual Report on Exchange Arrangements and Exchange Restrictions 2022 (imf.org)

そもそも、IMFは為替制度については下記のようなカテゴリーを設けています(この詳細は国際金融のテキストなどを参照してください)。

そのうえで、Free Floatingの定義は下記の通りであり、ここに、「変動相場制の国における介入は『半年で3回以内』『1回あたりの介入は3営業日以内』」に相当する文章が見つかります。

https://www.elibrary.imf.org/display/book/9798400235269/9798400235269.xml?code=imf.org

したがって、半年で3回を超える為替介入(1回あたりの介入は3営業日以内)を行うと、Free FloatingからFloatingへ変更される可能性はあります。

問題は、為替介入を担う財務省がこれを気にするかということですが、私の理解では、財務省は必要であると判断したら為替介入を実施するというスタンスであり、IMFの分類を気にするようには思いません(実際に、神田財務官は「必要があれば介入をする」というメッセージを送り続けています)。特に、この分類は、AREAERというレポートの中の基準に過ぎないという見方もできるわけです。

私個人は、為替介入の話題が増える中で、この話が独り歩きするのは良くないと思うため、私自身も調べ、また、私の周りにも聞いてみましたが、皆上記の理解をしているという印象です。下記のポストをしましたが、多くの人も同じ理解という印象をうけました。


なお、AREAERでこの分類が生まれたのは、どうやら2009年以降のようです。この分類の変更時に、下記のようなWPがリリースされています。
wp09211.pdf (imf.org)

これを読むと、重要な変更として、下記が指摘されています。

現在のmanaged and independent floatingの区別を、floatingとfree floatingという2つの新しいカテゴリーに置き換え、定義を明確にする(replacing the current distinction between managed and independent floating with two new categories: floating and free floating, with clearer definitions)。

つまり、このタイミングで、そもそもFree Floatingという定義ができて、その定義を明確化したということのようです。したがって、2009年より前に連日に介入がなされたからといっても、その時に、この分類そのものがなかったわけですから、その時の経験は関係ないという理解をしています。

また、最近連続して介入がなされていますが、一回介入をするならこの分類も若干考慮して、連続して実施する可能性はもしかしたらあるかもしれません(財務省としてもみだりにAREAERを変更させたくないとおもいますし)。

なお、AREAERの分類のフローチャートもこのWPにあったので、これも紹介しておきます。

今回も簡単なメモになりますが、これは私自身の備忘録という側面もあります。上記の理解に不正確な点があったら随時、加筆・修正します。

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