マイナス金利以降のTONA(無担保コール翌日物金利)の推移のメモ

前回、BOJスワップについて記載しましたが、マイナス金利以降のTONAの動きについて簡単なメモを記載しておきます。

日銀の利上げの予測に用いられるBOJスワップ:利上げ確率の計算例|服部孝洋(東京大学) (note.com)

まず、下記が日銀が政策金利として用いているTONA(無担保コール翌日物金利)の推移になります。日銀は3月の半ばの決定会合にてマイナス金利政策を解除し、その後、TONAが0~0.1%で推移するよう政策金利を誘導しています。下記に記載しているとおり、その後、TONAは基本的に0.077%あたりで安定的に推移しています。一方、レポレートであるGCは債券の需給の影響を得ることからごつごつした動きになっていますが、おおよそ0~0.1%で推移するとともに、TONAを下回っていることがわかります。

TONAが0.077%で推移している背景を考える上では、付利のメカニズムを理解する必要があります。今年の3月の決定会合で付利に0.1%が付されることになりました。マイナス金利政策がとられていたときは、三層構造にあり、その中で裁定取引がなされることで短期金融市場に流動性が生まれていました。しかし、現在の二層構造では、日銀当座預金にお金を置けない人が、日銀当預に0.1%以下で貸し出して、そのファンディングを受けた金融機関(日銀当預における金融機関)が日銀に0.1%で預けるというアービトラージが生まれます。

この取引は、コール市場でなされるのですが、このコール市場において短資会社に支払うコストが0.02%であるため(短資会社の利益は0.02%)、TONAが0.077%となるという市場構造が生まれます。当預に預けられる金融機関が0.08%で借り入れたら全くうまみがないので、0.08%より少し下の水準(0.077%)で取引がなされているというわけです。

当座預金を持たない先というと、例えば、MRFなどが該当します。MRFとは、投資信託を運用する際に運用しない場合に置いておくためのファンドであり、その目的から、特に安全な運用をする必要があります。MRFは日銀に当座預金を持たないため、0.1%以下の金利でも、プラス金利であれば運用するインセンティブを有し、無担保コールの出し手になります。彼らはマイナス金利では無担保コール市場での運用のうまみはなかったのですが、金利がプラスになり、例えば、銀行に彼らが貸し出し、銀行がそのファンディングで当座預金に預けるという形で、裁定行動がなされています。

このように日銀の政策金利の動きを考える上で、付利金利に加え、それに係る裁定活動を考える必要があります。今後、日銀が国債を大量に保有したままでの利上げになるため、利上げを考える上で、付利をどう設定するか、また、どのようなレンジで政策金利の誘導をするかを注視する必要があるとおもいます。今年は経済セミナーでも短期金融市場の記載をするので、短期金融市場の記載を増やしていく予定です。

以上は簡単なメモですが、今後また追記します。

(追記)なお、2024年6月25日にTONAが8年ぶりに0.08%を付けていますが、これは一部の金融機関がストレステストを実施したことによるもののようです。詳細は、Bloombergの記事「TONAの0.08%台は一時的、銀行の試し取り影響か-セントラル短資」(2024/6/25)を参照していただければ幸いです。

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