外為特会の基礎⑥:外貨準備と外為特会の違い

前回に続き、外為特会の話を記載します。以下では下記を前提とします(必要に応じて加筆修正します)。

外為特会の基礎①:外為特会のBSと為替介入|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎②:運用の概要|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎③:外国為替資金証券(為券)について|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎④:日本には非不胎化介入は存在しない?|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎⑤:為替介入規模の推定|服部孝洋(東京大学) (note.com)

これまで外為特会について取り上げてきました。しかし、その一方、外為特会とは別に、外貨準備という概念があります。今回はこの違いについて考えます。

結論的には、外貨準備は、外為特会と日銀が保有している外貨資産になります。そのため、①日銀保有分の外貨資産が入ること、さらに、②外為特会の中でも外貨資産がその対象という点がポイントです。実際には外貨準備の大部分が外為特会が保有している外貨資産になります。したがって、概念的には外為特会と外貨準備は違いますが、両者が近い値になるのも事実です。

外貨準備の定義
まず、外貨準備の定義を確認しますが、日銀のウェブサイトでは下記の通り定義しています。

外貨準備とは、通貨当局が為替介入に使用する資金であるほか、通貨危機等により、他国に対して外貨建て債務の返済が困難になった場合等に使用する準備資産です。わが国では、財務省(外国為替資金特別会計)と日本銀行が外貨準備を保有しています。

外貨準備とは何ですか? : 日本銀行 Bank of Japan (boj.or.jp)

また、神田(2021)「図説 ポストコロナの世界経済と激動する国際金融」では

IMF作成の「外貨準備の公表にかかるガイドライン(Imternational Reserves and Foreign CUrrency Liquidity: Guidelines for a Data Template)」では、外貨準備には通貨当局が為替介入等の目的で即時利用可能な形で保有する外貨建ての対外債権と定義されており、我が国は、当ガイドラインに沿って、毎月末の外貨準備残高(ドル建て)を翌月上旬に対外公表している(https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/reference/official_reserve_assets/index.htm

外貨準備を構成する通貨は、国際取引での支払いに使われたり、主要な取引市場で取引されたりする割合が高い国際通貨であることに加え、為替介入等に備え、十分な流動性(自由に交換可能な通貨、厚みがある債券市場)が求められている(p.133-134)。

と整理しています。

外貨準備・外為特会・日銀外貨保有分の数値例
それでは、外貨準備と外為特会、さらに、日銀の外貨資産保有分の関係をデータで確認します。まず、下記が2021年3月末の外貨準備ですが、これをみると外貨準備が1.37兆ドルあることがわかります(なぜ2021年3月末をみているかというと、後ほど議論する外為特会のBSの開示が遅いためです)。

外貨準備等の状況(令和3年3月末現在) : 財務省 (mof.go.jp)

一方、日銀のBSをみると、下記の通り、資産サイドに外国為替がありますが、注記で「『外国為替』に計上しているのは、外国中央銀行、国際決済銀行等への預け金、外国政府等の発行する国債等、外貨投資信託および外貨貸付金(米ドル資金供給オペレーションによる貸付金および貸出支援基金の運営として行う成長基盤強化を支援するための資金供給における米ドル資金供給に関する特則による貸付金等)である」と説明しています。

営業毎旬報告(3月31日現在) : 日本銀行 Bank of Japan (boj.or.jp)

したがって、日銀の資産サイドにある外国為替が主に外貨準備に計上されていると想像されますが、この金額は上記の図のとおり、7.35兆円であり、当時の為替レートが111.7円であるため、ドル建てだと、0.066兆ドルになります。同時点での外貨準備が1.37兆ドルであることを思い出すと、日銀保有分は4%程度ということになります。

最後に、外為特会の当時のBSをみると、2021年3月時点で、資産は145.6兆円であり、ドル建てにすると1.30兆ドルになります。日銀の外貨準備が0.066兆ドルであり、外貨準備が1.37兆ドルであることを思い出すと、概ね、「外為特会の資産+日銀が保有する外貨資産=外貨準備」という関係が得られました。外為特会において、円貨建て資産は少なく、また、外貨資産は主に安全性・流動性が高く、その多くは外貨準備としてみとめられているため、外為特会の資産の大部分が外貨準備として認められる外貨建て資産になっているとと想像しています。

2022-kakuron-4.pdf (mof.go.jp)

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