外為特会の基礎④:日本には非不胎化介入は存在しない?

前回に続き、外為特会について記載します。以下では下記を前提とします(必要に応じて加筆修正します)。

外為特会の基礎①:外為特会のBSと為替介入|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎②:運用の概要|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎③:外国為替資金証券(為券)について|服部孝洋(東京大学) (note.com)

以前、為替介入について説明しましたが、日本において為替介入をする場合、外為特会が短期的にFBを発行して、日銀が直接引き受けをすることができます。しかし、その後、速やかに、外為特会が別のFBをマーケットで発行して、日銀が引き受けたFBを償還しなければいけないということになっています。

例えば、FBについては下記のように記載されています。

<392D3290AD957B925A8AFA8FD88C9482CC8CF695E594AD8D7393FC8E4482C982C282A282C4816931312E332E35816A> (mof.go.jp)

上記を踏まえ、以前のように、為替介入がもたらす影響について外為特会と日銀のBSを用いて説明します。まず、外為特会のBSは下記の通りです。外為特会は、これまで説明してきたとおり、円で短期ファンディングして、外貨建ての資産で運用するファンドのようなものです。

ここで、財務省が円売り介入をするために、FB1を発行して、円ファンディングをして、円売り介入により外貨資産を持つとします。この場合、BSは下記の通りです。

上記を日銀サイドからみます。日銀がFB1を直接引き受けするため、FB1を購入し、日銀当座で決済するので、マネタリーベースが増えます。したがって、日銀のBSは下記の通りです。

しかし、日本のルールでは、速やかに別のFBをマーケットで発行して、FB1を償還しなければならないとされています(マーケットで発行するFBをFB2とします)。というのも、このままだと、為替介入の決定が財務省である以上、財務省の決定がマネタリーベースを増やすことになってしまうからです。棚瀬(2019)「国際収支の基礎・理論・諸問題―政策へのインプリケーションおよび為替レートとの関係」は、「これは財務省(政府)がマネーを創出していることに他ならないため実際には不可能であり、円資金は新たなFBの発行により可及的速やかに吸収される」(p.107)としています(棚瀬さんの書籍にも介入や外貨準備について記載があるため、詳細を知りたい読者はぜひ同書をご参照ください)。

したがって、下記のように外為特会がマーケットでFB2を発行して(具体的には、財務省がFBを競争入札によってマーケットで発行し)、市中で円をファンディングします。これにより、外為特会のBSは、下記の通り、円資産が資産サイドにたち、負債サイドにFB2がたちます。

そのうえで、FB2で調達した円資産を使って、日銀に引き受けてもらったFB1を返済するので、下記のようなBSになります。

日銀のBSは下記の通り、外為特会が市中で発行したFB2により、FB1が返済されるので、日銀の資産サイドのFB1がなくなり、マネタリーベースが介入前の水準に戻ります。

上記を踏まえれば、日本では為替介入を財務省(政府)が担っていることから、原理的には、非不胎化介入は存在しないということになります(他国では介入は中央銀行が担っているようですが、これを整理したものがあればまた紹介します)。私の理解では市場参加者でもそのように考えていますし、日銀の資料でも、下記の通り指摘しています。

円売り介入が日銀当座預金残高に与える影響は、為替介入に伴う一連の取引を通してみれば中立である。したがって、金融調節の面でも、ある程度の期間をとると、資金供給・吸収オペともに、基本的には影響を受けないこととなる。

もっとも、短期的な影響に配慮して、FB1を発行してから、FB2を発行する前の間にラグが生じることがありえます。例えば、2003年の介入については、日銀は、「2003 年度に、外為とFBの日銀当座預金への影響がネットで増加に働いたのは、為替介入が年度末にかけて膨らんだことを背景に、必要な円調達のためのFB市中発行が 2004年度にある程度ずれ込んだことが影響しているとみられる」と整理しています。

なお、財務省に介入の権限がある日本では、上記の議論から、非不胎化介入は原理的に不可能です。しかし、財務省による介入とセットで、日銀が買いオペでマネタリーベースを増やせば、非不胎化介入と同様の経済効果を得ることが可能です。この現象をどうネーミングするかは人それぞれですが、棚瀬・金(2010)は「疑似非不胎化介入」と呼んでいます。

参考文献
棚瀬順哉・金ユニ(2010)「非不胎化介入に関する議論の整理」Foreign Exchange Topics vol. 337

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