外為特会の基礎⑤:為替介入規模の推定

前回に続き、外為特会や介入の話を記載します。以下では下記を前提とします(必要に応じて加筆修正します)。

外為特会の基礎①:外為特会のBSと為替介入|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎②:運用の概要|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎③:外国為替資金証券(為券)について|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎④:日本には非不胎化介入は存在しない?|服部孝洋(東京大学) (note.com)

今回は為替介入の金額についてメモを記載しますが、そもそも財務省が実施する為替介入の額自体は公開されています(具体的には下記のサイトになります)。
外国為替平衡操作の実施状況 : 財務省 (mof.go.jp

例えば、2022年9月22日に実施された介入については下記のように開示されており、この2.8兆円という数字はメディアなどでも報道されています(例えばこの記事)。

外国為替平衡操作の実施状況(令和4年8月30日~令和4年9月28日) : 財務省 (mof.go.jp)

したがって、そもそも介入が実施されたかどうかや、具体的な金額についてはいずれ公表されます。しかし、市場参加者は介入の額がすぐに知りたいということで、短資会社が予測を出しています。

その推定方法はシンプルです。また、棚瀬(2019)「国際収支の基礎・理論・諸問題―政策へのインプリケーションおよび為替レートとの関係」を参照しますが、棚瀬(2019)では、

介入がスポット取引で行われた場合、決済は2営業日後であることから、円売り介入によって銀行システムに供給された円資金は、介入実施の2営業日後に日銀当座預金の「財政等要因」に反映される。もっとも、日銀当座預金残高は日次ベースで数兆円単位で変動することも珍しくないため、円売り介入が数百億~数千億円程度にとどまった場合、当座預金残高の変化のうち介入に起因する部分を特定することは困難である(p.107-108)。

としています。ここから読み取れることは、①介入の金額は「介入が実施された2営業日後の日銀当座預金の『財政等要因』」を用いるということ、さらに、②その推定方法は単純だがノイズが大きい、という2点です。

私の理解する限り、短資会社の予測も上記と整合的です。すなわち、

① まず、為替介入が実施された2営業日後の資金需給予測値を用います(資金需給予測値は短資会社が定期的に出しています。こちらには介入の影響が反映されていない点に注意してください)。
② 次に、介入が実施された2営業日後に、日銀が公表する「日銀当座預金残高要因と金融調整」による「財政等要因」を用います(こちらには為替介入の効果が反映されている点に注意してください)。
③ ①と②の差分を使って為替介入の効果を得る。

というものです。すなわち、介入がなされた2営業日後における

為替介入の規模
≒日銀公表分の財政等要因-短資会社による財政等要因の予測

で推定するということです。

なお、日銀が購入する「日銀当座預金残高要因と金融調整」は下記のサイトに記載されています。
日銀当座預金増減要因と金融調節(毎営業日) (boj.or.jp)

実際の計算のイメージ
介入は2022年9月22日にあったのですから、その2営業日後は2022年9月27日になります。そこで、「日銀当座預金残高要因と金融調整」における9月27日分をみると、下記の通り、財政等要因は、3.6兆円の受入超となる、という読み取れます。したがって、例えば、東京短資は27日の「財政等要因」は±0円と予測していたため、3.6兆円という介入がなされたという推計になります。実際の値は前述のとおり、2.8兆円なので、それなりの乖離があるものの、それなりに近いとみることもできます(人によって評価がわかれそうですが)。

日銀当座預金増減要因と金融調節 (9月27日<火>分) (boj.or.jp)

気を付ける必要があるのは、棚瀬(2019)で指摘しているとおり、日銀当座預金の「財政等要因」の予測そのものが難しい点です。この推定において決定的に重要なのは、短資会社による財政等要因の予測になりますが、実際に、9月22日の予測に関し、短資会社による推計も数千億単位でずれています。

短資会社も財政等要因に数兆単位でずれが発生しうる点は認識しており、ラフな推定であることも認識していますが、ニーズがあるから予測を出しているというところかと思います(民間金融機関の予測についての意見はここで記載しました)。介入の規模について短資会社が計算している理由は、当座預金の増減という観点では、短資会社が定期的にその予測を出しており、強みがある点でしょうか。そもそも証券会社は私が知る限り短期金融市場についてはレポート等を出すことも稀であり、短期金融市場の分析は短資会社に強みがあると理解しています(東短はリサーチ機能も有していますし)。

私個人がメモにしたのは、個人的にはこの介入の予測を考える上で、日銀の当座預金の増減を考える上での一つのいい勉強材料になるという点でしょうか。必要に応じて加筆修正します。

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