為替介入の基礎④:日銀の当座預金の「財政等要因」と為替介入額の推定

今回も為替介入についての話題です。今日の内容は下記を前提とします。
2023年10月3日における為替介入の検証(介入なし?)|服部孝洋(東京大学) (note.com)

また、為替介入についてはこれまで下記の通り記載しています。こちらもご参照ください。

為替介入の基礎①:覆面介入|服部孝洋(東京大学) (note.com)
為替介入の基礎②:口先介入(レートチェック、3者会合等)|服部孝洋(東京大学) (note.com)
為替介入の基礎③:協調介入と単独介入|服部孝洋(東京大学) (note.com)

前述のとおり、10月3日に為替介入が疑われていたところ、実際には介入がなかったのではという議論が展開されています。介入の疑惑は、10月3日の深夜に為替が大きく動いたためですが、数字を用いた検証は日銀の当座預金の「財政等要因」を見ることでなされます。

その計算方法は「外為特会の基礎⑤:為替介入規模の推定」でしたため、復習になりますが、為替介入の大きさは、「当座預金の財政等要因」「短資会社による財政等要因の予測」を用いて推定をします。当座預金の「財政等要因」を見てもらえれば分かるのですが、この値は日々かなり大きく動きます。そのため、2営業日後の「財政等要因」の「予測」が重要になります。実際には、短資会社による「財政等要因」に関する予測(=介入を反映していない額)を用いて、日銀が公表する値(=介入を反映している額)の差額をとることで介入額を試算します。すなわち、

為替介入の規模
≒日銀公表分の財政等要因-短資会社による財政等要因の予測

と計算します。いいかえれば、「日銀当座預金増減要因(財政等要因)≒短資会社の予測」であれば介入が無かった(または小さかった)と判断するわけです。

為替介入直後における検証の時間の流れ
今回焦点を当てたいのは、予測に関する時間の流れです。2023年10月3日に介入がなされるとの疑惑がありましたが、その取引は2営業日後の当座預金における「財政等要因」に反映されます。この場合、2営業日後ということは、10月5日の当座預金を見る必要があるのですが、これについては、「日銀当座預金増減要因と金融調節」では「予測」、「速報」、「確報」という3段階で情報がリリースされます。今回の場合、10月3日に介入が疑われるところ、10月5日の当座預金に関し、10月4日には「予測」がリリースされて、10月5日に「速報」、そして、10月6日(今日)の「確報」が出るということです。

この結果が下記の通りです。ここで注目してもらいたいのは、予測、速報、確報についてかなり似通った値が出てくるということです(特に速報と確報は完全に一致しています)。

日銀当座預金増減要因と金融調節 (10月5日<木>分) (boj.or.jp)

下記が去年の介入時があったときの値をまとめたものが、おおよそ予測時でほぼ日銀は確報に近い値を出しており、速報になると確報と全く変わらないということがわかります。このことは日銀は介入しているかどうかは分かっているということを意味しています(日銀が実際の介入の事務を担っているから当たり前なのでしょうが)。したがって、「予想」ですでにおおよその分析ができて、速報で検証ができるということです(もっとも、短資会社による予測についてもブレがある点に注意してください)。

日銀当座預金増減要因と金融調節(毎営業日) (boj.or.jp)

なお、「予測」、「速報」、「確報」が公表される時間も決まっていて、「速報」と「予測」は午後6時頃、確報は午前10時頃となっています(下記の通りです)。したがって、介入があったかの議論が始まるのは介入があった翌日の夕方ごろ、ということになります(今回もこのタイミングで、介入が無かったのでは、という報道がでました)。

「日銀当座預金増減要因と金融調節」(予想・速報・確報)(毎営業日公表)の更新タイミング (boj.or.jp)

前回記載したことですが、今回介入をしているかどうかは、財務省が公表していない以上、月末および四半期ベースの発表を待つ必要があります。今回についても介入をしていないという意見が強いですが、少額で介入をしているのでは、という風に考える人もいるようです。

昨年、覆面介入を実施したため、今回のように実施しているかどうかの疑心暗鬼が生まれています。覆面介入が疑心暗鬼を作りたいということであればこれは成功しているといえます。一方で、これが実際の介入の効果を大きくするかは今後の展開をみたいとおもいます(今度、1990年代後半から2000年代の前半の介入について記載しますが、介入の頻度が多くなりすぎると介入の効果が弱くなるという見方もあります)。

なお、これまで外為特会について継続して記載しているので、関心がある読者は下記を参照してください。

外為特会の基礎①:外為特会のBSと為替介入|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎②:運用の概要|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎③:外国為替資金証券(為券)について|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎④:日本には非不胎化介入は存在しない?|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎⑤:為替介入規模の推定|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎⑥:外貨準備と外為特会の違い|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎⑦:国債整理基金特会との関係|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎⑧:IMFとの関係|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎⑨:外為特会が有する外貨資産の活用とチェンマイ・イニシアティブ|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎⑩:為替介入と民間銀行のBSの関係|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎⑪:為替介入や特会の運用に関する財務省の体制|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎⑫:外為特会改革と外為特会の積立金制度について|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎⑬:積立金制度廃止とFBの償還(外為特会改革について)|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎⑮:2022年の円買い為替介入と不胎化介入について|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎⑯:Tビルの大部分はFB(為券)|服部孝洋(東京大学) (note.com)




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