見出し画像

【負け犬の遠吠え】女性特有の生きづらさを考える【読書感想文】

 実を言うと、私は子供の頃から読書感想文が苦手だ。ヘタクソなのである。しかし、たまにはこういう記事も良いかと思い、今回は酒井順子さん(以下、酒井さん)のエッセイ『負け犬の遠吠え』(講談社文庫)を元に、自分の意見も挟みつつ綴っていきたいと思う。



 ところで、正義は滅多に勝てない。
 差別や偏見は一向になくならない。
 「勝ち組」「負け組」という言葉は私は大嫌いだが、それでも人は自分とある特定の他人を比較して勝ちたがる。今風に言えば、そう「マウントを取る」。

 ◆

 最近は「弱者男性」というワードが広く認知されるようになった。
 弱者男性とは、簡単にその特徴を列挙すると

・モテない
・お金がない
・生き甲斐がない

 と三拍子揃った、主に中年以降の男を指す言葉である。
 中には「女性は人生イージーモード」「女性に生まれて来ればこんなに苦しむこともなかったのに」と憎悪を募らせるミソジニー気味の男もいる。
 
 その考え方は….果たしてどうかな。
 やや仏教的だが、この世に生まれ来ること自体が一つの修行のようなものであると私は考えている。男に生まれて来ようが、女性に生まれて来ようが「それぞれに比較できない苦難がある」というのが今の私の考えだ。

 この数年で、私は中立の立場で物事を考えるようになった。
 私も以前は「女性に生まれたかった。男の人生は厳しすぎる」と口を酸っぱくしていたタチだ。だが、今回はあえて酒井さんの『負け犬の遠吠え』というエッセイを元に、「女性特有の生きづらさ」を考えたい。


 
”どんなに美人で仕事ができても、30代以上・未婚・子なしは「女の負け犬」なのです!”(裏表紙より)

 酒井さんの言う「負け犬」の定義である。
 未婚率が上がっているとはいえ、今なお「結婚」は女性にとって重大で、憧れるイベントであろうと思う。
 この強烈な一文は、一部の女性にはとても刺さるのではないかと思う。結婚という制度の歴史は古く、30代で独り身だと「可哀相な人」という目で見られてしまう。仮に仕事ができて、お金があったとしても。
 結局は「結婚して子持ちか否か」。その一点に女性の人生は集約されると酒井さんは本書で終始語っている。  

 ◆

 女性の人生は「不可抗力」な要素に左右されることが多い。
 例えば、人間は必ず老いていく。誰しも老いには勝てない。
 しかし、悲しいかな「女性の価値=若いこと」という価値観は、恐らく完全に消えてなくなることはないだろう。少なくとも私たちが生きている間には。
 もう一つ、見た目(容姿)だ。これは生まれつきのロシアンルーレットみたいなものなので仕方がない。最近は美容整形をカミングアウトするインフルエンサーも多くなって美容整形の敷居は下がったが、配偶者として女性を選ぶ際、美容整形をした女性を拒絶する男は今なお少なくない。 
 どんなにお金を稼いでも、結局は顔やスタイル、つまり見た目で男にジャッジされてしまう。

 抗っても勝ちようのない老い。
 そしてジャッジされる見た目。

 女性特有の生きづらさの根本原因である。それも不可抗力な。

 ◆

思い起こせば、30代前半の時、30代後半の先輩負け犬に言われたことがあったのでした。『そうやって「子供なんて要らない」とか堂々と言っていられるのはね、30代前半だからなのよ。後半になったらきっと、違う気分になると思う』

『負け犬の遠吠え』P43

 子供嫌いの大人はどちらかと言えば少数派で、人は可愛いものが好きだ。子供好きの大人は多い。もちろん、実際に婚活をしている人たちもそうだ。「子供が欲しい」と思っている人が大半だろう。
 自分語りで申し訳ないが、私も最近5歳くらいの子供を見ると「なんて可愛らしいんだろう」と思って、ニンマリしてしまうようになった。10年前は子供はむしろ嫌いだったのに。
 「これが大人になるということなのか」と思わされる。人間は20代から30代にかけて大人として成熟して、感性が変わってゆくのである。「結婚したくない」と思っている今20代の人も、30代になったら変わるかもしれない。そういう例は腐るほどある。

 そして、未婚のまま30代になった女性は焦りはじめる。
 35歳を超えたあたりから、ダウン症などの障害児が生まれる確率がグンと上がる。そういう生物学的な側面もあるが、世間が「30代未婚女性」を異常視するのだ。ひょっとすると蔑視かもしれない。
 同じ30代の未婚男女がいたら、圧倒的にプレッシャーが大きいのは女性のほうなのだ。
 
女性として生まれたからには、やはり一度は妊娠・出産を経験したいだろう。それも安心して。
 しかし、付き合いはじめてから妊娠・出産に至るまで、そうトントン拍子には行かない。仮に35歳で妊娠・出産するとして、逆算すると32~3歳の地点で信頼できるパートナーの存在が必要だ。

 ◆

 しかし、安易に妥協するわけにもいかない。世の中には「男の負け犬」、すなわち「ダメンズ」が存在するからである。
 このダメンズにも5つのタイプがあって、酒井さんは以下のように分類している。

 ①あまり生身の女性には興味がない人
 ②女性に興味はあるけれど、責任を負うのは嫌な人
 ③女性に興味はあるけれど、負け犬には興味のない人
 ④女性に興味はあるけれど、全くモテない人
 ⑤女性に興味はあるけれど、単にダメな人

『負け犬の遠吠え』P178

 詳しい解説は割愛させて頂くが、字面のイメージ通りの男たちである。 


「負け犬にとって、何よりも大切なもの。それは、友情であると私は思います。「あたしって一人ぼっち」という孤独感と「あたしって駄目人間」という無能感とに襲われて身動きが取れなくなった深夜、電話で励ましてくれるのは負け犬仲間」

『負け犬の遠吠え』P237

 傷の舐め合いと言われれば、それまでかもしれないが、言葉は悪いが不幸な人、運のない人には「仲間」の存在が必要であると私も感じる。ポイントは、無理に仲間を作ろうとしないこと。そしてもう一つ重要なことは、相手に過剰な期待をしないこと。このふたつを厳守すれば、トラブることも、傷つくことも少ない。  

 ある休日の昼下がり。
 一人、公園のベンチに座りキャッチボールをする親子の姿を眺める。
 
 その瞳に、涙は浮かべない。
 私の選択、私の人生だから。

 そう自分に言い聞かせて、今日も負け犬は生きる。

この記事が参加している募集