人生を変えたバイト_レズナイト編

オゾン・スパイラルでは、金曜日や日曜日に箱貸しイベントもやっていた。箱貸しイベントは外のオーガナイザーが持ち込みでイベントを行うので、通常イベントではない、より多種多様なイベントが行われた。

アーティストのワンマンライブや、サーキットイベントの1箱となる事もあったので、そういった時はライブハウスのような感じだった。西野カナさんも1stライブはオゾンだった。

その他にもアニソンDJイベントや、美容学校の発表会、大学のサークルイベントなど行われた。

そういった箱貸しイベントの中で特に印象的だったのは、ゲイナイトやレズナイトだった。名前の通り、性的マイノリティの方オンリーのイベントだった。16年前だから、今みたいにメディアでも性的マイノリティの方が多く出演している事もなかった。悪く言えば、そういった方の居場所が今よりももっとなかったという事だ。

私もその日にシフトが入っていて、未経験のカルチャーに最初は多少なりとも構えてしまったが、社員さんの1人が「こういうマイノリティの人は、自分を解放して遊べない場所しかないんだよ。マジョリティとされてる俺らは恵まれてるな。」と話してくれた事で、意識が変わって店員としてなるべく可能な限り色目無しに迎えたいと思えた。

今回は、レズナイトの話。店員はもちろん女性だけを指定され、1人表に出ない約束で裏でフードを作ったり照明をやる男の子はいたけど、その子以外は私を含めて5人しかいなくなっていた女性スタッフで回す事になった。レズナイトでは、もちろんお客さんが全て女性でカップルもいるし、女性専用のアダルトグッズが売られているブースもあったし、何よりステージでヌードショーもあるからだ。

そして、なぜそうなったか思い出せないが、店員は全員で同じ衣装を着ようという事になって、5人で一緒にベビードールまで買いに行って、ほぼ下着みたいな格好で働いた。通常賃金なのに、若いって無敵だ。

お客さんには、胸を潰して声も低く髪も短く男性のような格好で来るわかりやすい方や、普通の女性が来た。カップルもいれば、1人で来る人もいる。そういうイベントでは、エントランスで手首に光るルミカブレスレットを巻いてあげる事が多かった。カップルで来ている・シングルで来ている・友達募集・恋人募集などと色別で分かれていて、それを指針として店内でコミュニケーションを取るのだ。

スパイラルという少し小さめの方の箱だったから、少ない人数でも回す事は可能ではあったけど、ドアを開けるのも一苦労なくらいとにかく人がパンパンで、身動きを取るのも難しかった。そして、みなさんかなり飲まれるので、お酒もかなり出た。とはいえ、箱全体に女性しかいないので、通常のクラブとは違う柔らかい空気感と穏やかな感じはあり、特に怪訝な感じも怖い感情も抱かなかった。

レズナイトを経験しないと分からなかった事が、いくつかあった。

まず、男性の格好をしているお客さんは、とにかく優しかった。人が多くてドアが開けられずにいると、必ず誰しもが「大丈夫?」と言って人を避けてくれてドアを開けてくれたし、バーの下に入る時も潜るドアを引いてくれたりした。何かを落としてしまった時は一緒に拾ってくれたし、忙しい時にも気を遣ってくれる。とにかく、本当にとにかくジェントルマンだったのだ。ちょっとキュンとするくらいに。ぶっちゃけ大半の男の人よりジェントルマンだと、今でも思う。あとから社員さんとその話をした時に、自分は男性ではない、という負い目を行動で補填しようとしていると思うという話になって、気持ちが苦しくもなったし、素敵だとも思った。

その負い目が逆に出る事もあった。

自分が一緒に来てる彼女が別の女の子と話したり仲良さそうにしていると、お酒が入っている事もあって取り乱す人もいた。彼女が誤解を解こうとしても、止まらなかった。その人は結局彼女の力でも、私達スタッフの力でも止める事ができなくて、結局セキュリティに出される事になってしまった。泣きわめき、取り乱し方の表現として至極女性的だった。行動だけでは埋められない負い目によって、逆に苦しんでる一面を見た。

あとは、初めて見る女性同士のアダルトグッズにびっくりしたり、ヌードショーが美しすぎて惚れ惚れしたりしたりして、刺激的でとても貴重な経験をした。

たったの6時間だったけど、マイノリティのカルチャーの表と裏に同席させてもらった。

そして、余談として私はレズの方から一切モテなかった。他の4人の内、1人は出演者からもお客さんからもエントランスで囲まれて連絡先を聞かれる程モテモテで、困って助けを求めてきたくらいだった。その他3人の子もそこまでは行かずとも、ナンパされたりしていたようだった。

私はというと、全くそんな事はなくトイレチェックもドリンク作りもフロア回りもすごくスムーズだった。一切ナンパされなかった。営業後に女性スタッフみんなで話をして、みんなの状況を理解した。私にはレズの要素はないので、残念がる必要もなかったけれど、一切モテないという事実に、複雑な気持ちにはなった。

私はレズナイトで勤務した事で、ほんの少しレズの方の環境を学ぶ事ができて、自分の需要の皆無さも学ぶ事ができて、本当に良かった。そして何よりも、”レズ”という表向きだけで勝手に縛った概念や、マイノリティやマジョリティという括りで見る傲慢さが自分の中から薄れていった事が、何よりも得たものだった。

次はゲイナイトでの勤務の話をします。


ハタノ











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