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「魔法が解けたら」 それが合言葉となった。 同じ曜日、同じ場所。 12時の公園で私はいつも肉まんを頬張った。 彼は暑いからといつも肉まんを食べなかった。 私たちは心のどこかで 12時を過ぎたシンデレラの姿を見たかったのかもしれない。 シンデレラストーリーの、その先の光景を。

“ただの”17歳の誕生日

その夜、このレストランには お祝いされる人が6人もいた。 彼女は4人目だった。 全て失敗だ…と頭が真っ白になった時 彼女は言った。 「同じ誕生日の人がこんなに集まるなんてすごい! 幸せ共有できちゃう。豪くん、ありがとう!」と。 その言葉に、彼女の考え方に もっと惹かれた。

誕生日を祝いたい その一心で練った特別な日の予定。 でも 予定は予定でしかなかった。 大きな窓のあるレストランで 華やかな音楽がなった時、緊張が最高潮に達していた。 ハッピバースデートゥーユー と歌声が響き、目が輝く彼女。 やっと!と、構えていたらプレートは別の人の元へ…

慣れないDVD探しも 奮発したお高いレストランの予約も 全て今日という日のためにあった。 恋人の誕生日のお祝いは前日に済ませ、当日は「ご家族と過ごしなよ」なんて紳士ぶる。それが今までの俺だった。 でもその言葉がどれだけ彼女たちを傷つけていたか…今になってやっと分かった。

「自由に生きられて羨ましい」 きっとそんなに甘くないのだろうけど 私はそう思ってしまう。 彼に感じる羨ましさには 微かに、でも確かに妬みも含まれている。 私は彼の踊りに惹かれるけど その才能が眩しすぎて直視できない。 なのに彼は私に言った。 あなたのように生きてみたい、と。

思わず漏れた言葉に驚いたのは彼女も同じだったようだ。  どう思う? なんて、ハテナが浮かぶ沈黙に耐えられず自ら追い打ちをかける。  織姫と彦星。年1しか会えなくて、幸せなのかな? 小さいころから感じていた微かな疑問。 別に彼女にぶつけなくたって良かったのに、と後悔していた。

夏。 気が付いたら街には笹の葉が並んでいた。 五色の短冊にはさまざまな願い事。 もう夏が来たのかと 燻るこの気持ちにも照りつけるこの日差しにもうんざりしていた。 そんな暑さにやられて漏れた言葉。  織姫と彦星ってさ、幸せだと思う? どう考えても俺らしくなくて可笑しかった。

追えない夢を持つ人も 追わない道を選べない人もきっとこの世界にはいる。 完全に僕は後者だった。 幸いにも僕は 世界の扉を開くような 一人で踊るこの時間が好きだった。 でもなぜだろう。涙が溢れて止まらない。 今日も彼女は肉まんを持って僕を眺めている。 涙、見られちゃったかな。

_分からないんだ そう呟いた彼の表情には確かに感情が宿っていたのに あの時彼自身が感じていた痛みも その痛みに締め付けられた私の心も 最初の夜、ワインを挟んで感じた人生の糸が絡まる感覚も その全てをたった5文字に詰め込んで去っていた。 そんな過去なんて、言うつもりなかった。

花束を飾れない女

彼に(おそらく出会って初めて)貰った機会。 彼女と話せる、この機会。 もう次はないかもしれない そう思った。 そう思うような表情で向けられるその眼差しを受け止め、感じた。 胸の奥がざわつくのを。 これが いや、これも感情なのですか? ならばとてもうるさいですね

イイところに就職して 30を前にイイポジションを獲得した女、成功者。 それが私だった。 表向きの、成功者。 夢の見方を忘れていようが知ったことではない。 隣の芝は常に青いのだ。 でも彼の羨望の眼差しには その瞳に映る隣の芝には 色がないことは明白なはずだった。 それなのに…

私がまだ女の子だった頃…自分がカワズだと知った頃に 大海を自由に泳ぐ彼に会っていたら 私は追いかけることで違う今にたどり着いていたかもしれない。 夢を諦めた誰かが肉まんを片手に“私たち”の踊りを眺めていたかもしれない。 そんな未来を作り出せなかった私の弱さを彼に見せつけられた。

私には飛び抜けた才能もなければ、誰かを夢中にさせる術もない。 持っているのは上手に生きる術だけ。 だからもどかしくて腹が立った。 人を夢中にさせることができるのに どこまでも生きるのが下手な彼に 心底腹が立った。 これは 私が出会った彼と、彼を介して出会い直した私の物語。

「子供がいて、夫がいなくて、仕事がある」 愛してしまったその女性と、かけがえのない彼女の宝 二つの命を預かるという覚悟と重み その責任を果たせるかは分からない 「でも、俺めちゃくちゃ楽しみなんだよね」 そう語る彼を、僕は初対面の女性と共に眺めていた。 …変な時間だった。

聞けば、どうやら悩みの種は共に卓を囲むこの女性ではないらしい。 今日は “一度も相談された覚えのない”彼の恋人との 結婚というハードルについての相談だった。 で、この女性は “恋人の子供が通う保育園の先生且つ恋人の友人”だそうだ。 中華屋の卓を埋める小皿並みの情報量。

渋谷 スクランブル交差点 「a happy new year!!!」 その声も彼らが振り乱す髪も全てがスローだった。 こんな深夜に、こんな場所で。 なぜそんなにはしゃぐのか 何が「おめでとう」なのか 何が「よろしく」なのか。 分からなかった。 僕には、分からない。

花にとっての花壇は。

目の前でスポットを浴び もっとずっと高いところで舞う彼らの背中を追っている。 いつも、いつも。 好きだ、踊ることは。 でも僕はまだ命を燃やせていない。 魅せようと踠くけれど 高すぎる壁が目の前に立ちはだかって通してくれない。 壁の壊し方を、僕は知らない。 だから、苦しい。