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長谷部浩の俳優論。

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歌舞伎は、その成り立ちからして俳優論に傾きますが、これからは現代演劇でも、演出論や戯曲論にくわえて、俳優についても語ってみようと思っています。
劇作家よりも演出家よりも、俳優に興味のある方へ。
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2023年7月の記事一覧

【劇評308】藤間直三が、異界を意識した舞踊を見せた。

【劇評308】藤間直三が、異界を意識した舞踊を見せた。

 コロナ禍もあって、日本舞踊の会がのきなみ中止に追い込まれていた。その忍従の時期を耐えた若手の『第三回 藤間直三の会』に出かけた。踊ることの喜びにあふれて、命懸けの覚悟が伝わってくる番組が並んだ。

 まずは、清元の『うかれ坊主』。六代目菊五郎の代表的な演目だが、この坊主には、僧侶というほどの格はない。街角で金をねだる願人坊主を、直三は、実に端正に踊る。所作に狂いがなく、日本舞踊としての『うかれ坊

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【劇評307】古典を着実にアップデイトさせる團十郎の構想力。

【劇評307】古典を着実にアップデイトさせる團十郎の構想力。

古典をいかに現代に向けてアップデイトするか。

 團十郎は、歌舞伎座七月大歌舞伎の夜の部で、この永遠の課題にまっすぐに取り組んでいる。猿翁が三代目猿之助時代に提唱した「3S」が、すぐに思い浮かぶ。

 猿翁は、STORY(物語)とSPEED(速度)とSPECTACLE(視覚性)を、歌舞伎が生き残るための必須条件と考えていた。
 古典は、見巧者や歌舞伎通のためにあるのではない。初心者が無条件で楽しめ

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【劇評306】野田秀樹渾身の問題作。『兎、波を走る』は、私たちを挑発する。十枚。

【劇評306】野田秀樹渾身の問題作。『兎、波を走る』は、私たちを挑発する。十枚。

 
 ドキュメンタリー演劇ではない。プロパガンダ演劇でももちろんない。
 けれども、モデルになった被害者の母の名前も顔も声までも、明瞭に浮かんでしまう。また、この事件が納得のいく解決が今だなしとげられていないことも、私の喉に棘のようなものが突き刺さったままである。

 そのため、雑誌『新潮』八月号に『兎、波を走る』の戯曲が全文掲載されるまで、正面から劇評を書くことが躊躇われていた。ただ、戯曲がのっ

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