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断片の植物学

昨年、朝ドラの「らんまん」を大変興味深く観ていました。「日本の植物学の父」牧野富太郎がモデルでした。私も植物が好きなので、集める断片に植物画を加えたいと常々思っていました。

ウォルター・フィッチ作 エリンギウム・マリティマム (海ヒイラギ) 1863年  

 ヨーロッパでの初期の植物画は薬草類探し求める人々を助ける目的で制作されました。修道院に付属する庭に植えられていた植物も専ら薬草が中心でした。そのため毒草と間違えないよう写実性が求められました。


ウォルター・フィッチ作 パースニップ 白ニンジン 1863年

 17世紀になると植物画家達は裕福なパトロンが自分の庭で育てている珍しい植物を絵にするよう注文されます。薬草のような有用植物だけでなく見た目の珍しい植物に目を向け始め植物画は進歩していきました。
 そして、時代がさらに進むと植物学が学問として発展していき、見栄えのいい珍しい植物だけでなく、見栄えのしない道端に生えている植物を描いたり、芸術表現を超えた植物解剖図を描いたりすることを要求されるようになります。

ウォルター・フィッチ作 ブラダー・ナッツ 1863年


 
本資料を描いたウォルター・フィッチ(1817-1892)はヴィクトリア時代の植物画家です。1841年からキュー・ガーデンが発行した出版物の主要画家となりました。
 彼の画法は「個々の植物がもつ変異が修正され、それによって種の典型的な特徴が図示された。これは個々の植物をそのままに写してしまう写真では真似できないこと」と評価されています。時代は最も写実性に優れた写真の時代であるにもかかわらず、写真を超えた表現を目指したフィッチの信念が感じ取れる断片です。
参考文献:『植物図譜の歴史』

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