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【モノローグエッセイ】となりの駅伝選手

2023年、三賀日。
私は昨年に引き続き、大磯に家族で来ていた。
理由は2つ。

ひとつは、私の家族が昨年初めて三賀日に大磯を訪れて、めちゃくちゃ気に入って「来年も行くー!!」と、昨年のうちからなっていたから。

ふたつめは、箱根駅伝の応援に行くことになっていたから。特に父が、出場校にゆかりのあることもあり、毎年熱心に駅伝を見ていた。

昨年体験した、駅伝を見て大号泣した私の話はこちら。


今年も帰りの途中で、復路を観覧。私はカメラ担当を任されていたので、撮影のしやすい場所を位置取り、選手が走ってくるのを待っていた。

今年は、大学ごとの旗やタオルを掲げての応援は禁止されていた。そこに、なんか、時代だなあと感じた。

すると、私の右側の方でこんな会話が聞こえた。

「今どんな感じ?」
「○○が先頭で、3位からあとは離れてますね」
「ここにはあとどのくらいで来るの?」
「あと10分くらいで来ると思います」

The・地元のおばさん2人(と、犬)と、スマホを片手に持った大学生くらいの男性1人が話していた。
駅伝の中継を映した男性のスマホを、おばさん2人(と、犬)は覗き込むように見ていた。
私も隣で3人(と、犬)の会話をこっそり小耳で聴きながら、スマホをいじっていた。

そのまま話を聴いていて、分かったことがひとつ。
大学生くらいの男性が出場校の駅伝チームの選手だった。

おばさん1「駅伝選手なの?どこ大?」
男性「○○大学です」
おばさん2「へぇ〜何年生?」
男性「今大学3年生です」
おばさん1「すご〜い」

おばさん2人(と、犬)との会話で彼の大学と学年、そして今年は出場選手ではないので仲間の応援に来たことが分かった。(しかも、ここの区間を選手が通過したら走って次の区間に向かうとも言っていた。さすが駅伝選手。)

そんな彼は、シャカシャカ素材の紺色のジャージの中に同じ色のパーカーを来ていて私よりちょっと背が高くて、大人しそうな感じの人だった。おばさん2人(と、犬)のやや食い気味な質問にも、ひとつひとつ丁寧に答えており、その声からも物腰がやわらかそうな人柄が伝わった。たぶん普段大きな声を出すことがないんだろうなあという声質だった。

「来年走るの?」とか「ここの前走ってね」とか「駅伝選手ってすごいねぇ」とか、おばさん2人(と、おばさんの腕の中で眠そうな犬)からの言葉にそつなく受けて返す様を小耳に聞いていると、道路にパトカーや白バイが走ってきて、そろそろ選手が走ってくる空気が流れた。
私も屈んでローアングルから撮影する体勢をとった。


「もうまもなく選手が通過します。」

そんなアナウンスを合図に、次々にパトカーやテレビ局の車が走ってきて、先頭の選手がようやく近づいてきた。沿道の観客からパラパラと拍手が起きた。
復路は、帰りだからなのか、駅伝選手のすぐ後ろを走る、監督や大学関係者を乗せた車からのスピーカー越しの激励の言葉がとても多い。それに感動して涙したのが昨年の私。
今年も温かい言葉が飛び交っていた。

「今すごく辛いよな、でもお前の4年間の方が辛かっただろ?もう少しだ、頑張れ」
「今、いいペースだからね、このいい流れに乗っていこう」

この日まで共に練習を重ねてきた監督にそんな激励の言葉をかけてもらい、駅伝選手の走りも格段と強くなっていくように見えた。(ガッツポーズを返す選手もいたり。)

次々と選手が走り抜ける中、不意に私の胸を強く揺さぶったのは、次の瞬間だった。


「○○いいぞ!!近づいてるから!!ここで巻いとこ!!」


その声は、隣の彼だった。
同じ大学の選手に激励の言葉をかけていた。
その言葉を発した声が、先程までおばさん2人(と、犬)と話していた大人しそうな彼から出るとは思えないほど、大きくて、必死で、強くて、思わず感動して瞬間的にうるっと来てしまった。

おばさん「さっきのお友達?何くん?」
男性「はい、○○って言います。」
おばさん「へぇ〜すごい速かったねぇ」
おばさん「お兄ちゃんはなんて言うの?」
男性「○○です。」
おばさん「○○くんね、覚えておくね、来年ここ走ってね、応援するからね」
男性「ありがとうございます。じゃあ僕はもう行きますね」
おばさん「はい、ありがとう〜、頑張って」

そう言って彼は走っていった。小耳にこっそり聴いた彼の大学、彼の苗字は今でも覚えている。

来年、彼はこの道を走っているだろうか。
彼と共に私も頑張りたいなと思って帰りのバスに乗った。

全選手が走り抜け終わり、観客がバラつく中で、おばさん2人(と、犬)が、

「じゃあ、また来年もこのへんで」

と言い合っていたのも、
なんだか良いなあと思いながら。

今年も頑張ります。


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