マガジンのカバー画像

『私の時間』

16
小説をまとめています。
運営しているクリエイター

記事一覧

『私の時間』(小説)最終話

台風は過ぎ去ったものの、外は弱い雨が霧を交えて降っていた。日も暮れて少々肌寒い。救助された3歳の息子と真帆は、大事をとって病院に運ばれた。
医師にお礼を言って廊下のに出ると、勤務を終えた佐々木諒太が待っていた。
佐々木諒太には、自分の命を助けてもらったのは二度目だ、一度目は美玲と諒太と諒太の友達と四人でドライブに行ってバーベキューをしていたとき、真帆の背に酔った男性がよろけて押した時に諒太が真

もっとみる

『私の時間』(小説)⑮

台風が、少しばかり逸れたため雨だけで済んだと、胸を撫で下ろしていたのもつかの間、もうすでに別の台風が西の方から向かって来ている。これはどうやら自分の住んでいるところを直激のおそれがあるようだと真帆は、テレビの明日の天気予報を見て思った。念のため、食料やカップ麺は買い置きしているし、懐中電灯やラジオ等は、すぐ使えるようにしてある。

もっとみる

『私の時間』(小説)⑭

「私、ここを辞めます」そう言って職場を後にして総務へ行き、理由を言って社を出た。外は晴れて空気が澄んでいる。夏も終わろうとしている青くて雲の遠い空だった。辺りは会社が立ち並んでおり、就業時間なので人通りは少ない。
ふつふつをとわき上がる感情を抑えて、足早に真帆は歩いた。鞄から携帯電話を取り出し、自分の所属している派遣会社に電話を入れた。担当の人に事情を話すと、落ち着き慣れ様子で、
「次の職場を紹

もっとみる

『私の時間』(小説)⑬

しばらく雨の降らない日が続いて、太陽の日が当たると蒸し暑さえ感じる。
派遣会社に登録して、時給の割合良い会社を紹介してもらった。ただし、残業が毎日のようにある。派遣会社の人と一緒に、これから働くであろう会社の面接に真帆は、行った。

もっとみる

『私の時間』(小説)⑫

朝から細かい雪が降っている。乾燥したアスファルトに落ちては、冷たい風で吹き飛ばされながら雪は溶けていく。
襟付きのジャケットに中は白のアイテムに白と黒の千鳥格子のマフラー、黒のパンプスの姿で真帆は、ハローワークの紹介で会社に車で向かう。
夫の洋平が亡くなって半年になる。息子の和弥はもうすぐ2歳になろうとしている。真帆が働いて息子を育てて行かなければならない。そのため、和弥を保育所に預けて働くつも

もっとみる

『私の時間』(小説)⑪

結婚して三年が経った。男の子が生まれて一年になる。
この数日の雨から、今朝も雨が地面を打ちつける音で葉山真帆は、目が覚めた。真帆が寝ていたベッドでは、寝息をたてて寝ている洋平と洋平と真帆の間に布団を蹴って息子の和弥が両手を上に万歳姿で寝ている。
自然光がカーテンの隙間から見える。真帆は、カーテンを少し開けて窓から外をみると、雨はいく重の糸のようになって遠くの景色が雨で霞んでいる。遠くの電車の

もっとみる

『私の時間』(小説)⑩

年が明けて一週間後、 藤谷冬子から葉山真帆に飲み会の話のメッセージが届いた。冬子の会社のメンバーらしい。
来週の金曜日の夜7時、店は一度小山沙奈と行ったことのある店だった。
その日、葉山真帆は仕事を定時に終えて冬子たちと会う店に向かった。一月の夜の冷たい風が顔の肌に突き刺さる。電車の改札口を通り、乾燥した冷たいコンクリートを歩く。エスカレーターをゆっくり上がると電車が直ぐに来た。扉が開くと車内は暖

もっとみる

『私の時間』(小説)⑨

乾燥した冷気を帯びた12月の風は、サーモンピンクのダッフルコートを着ていても肌寒さを感じる。夜空には薄い雲に覆われた月が、うっすらと見える。夜なのに街の街灯とネオン、そして目の前を行き交う人々を見ていると、静寂というより躍動感を思わせると、高校二年の葉山真帆は思う。そんな真帆の目の前に、

もっとみる

『私の時間』(小説)⑧

気温は低く少し風があるが、空気が清んで青一色の美しい空の土曜日。昼の1時を過ぎた頃、高校2年の葉山真帆は、読んでいた本を閉じた。
枕元に置いていた携帯電話を手に取り、画面を開いた。

もっとみる

『私の時間』(小説)⑥

秋の清んだ空気は、空の色も海の水面も鮮やかで眩しい。車の運転席には長身で色黒の松永、その助手席に園田美玲、松永の後部座席に佐々木諒太、その横に葉山真帆が座っている。カーラジオのFMからボサノバが流れている。車が海沿いを走っていると、ギラギラした海の夏と違って少し窓を開けると気持ちいい。

もっとみる

『私の時間』(小説)④

清みわたった高く青い空に小さな雲が均等に並んでいる。道路の両わきに植えられた楓の葉は、風が吹くたびに落ちて道路に車が通るとタイヤに踏まれていく。

 そんな光景を横目に高校二年の葉山真帆は、自転車に乗って走っている。時折、冷たい風に肩をすくめた。
 土曜日の朝10時からのアルバイトに向かうためだ。
アルバイト先の蕎麦屋は、街から少し離れた田畑がまばらに残っている場所にあるため田舎蕎麦が味わ

もっとみる

『私の時間』(小説)②

 朝から長い水の糸がいく数にも空から降って来る雨は、すぐさま地面を水溜まりにした。
 今から中学校へ登校するというのにこの雨かと葉山真帆は落胆する。
 母が作ったまだ温かいお弁当を鞄に詰めて靴を履き、玄関の扉を開けると雨の湿気と雨を含む風が真帆の身体にまとわりついた。

もっとみる

『私の時間』(小説)⑦

晴れ間の空から雲の流れが早くなって、厚い雲に覆われてきた。乾燥した強い風が、より一層アスファルトを冷たくする。
12月も中旬になると、人が歩いているだけでせわしなく歩いているように見えるから不思議だと葉山真帆は思う。午前中で高校の授業を終えて、小さな紙袋を持って歩いている。風が強く吹いてきたので真帆は、マフラーをしっかり巻き直した。

もっとみる

『私の時間』(小説)⑤

暗闇に街灯の僅かな明かりの下で、秋の虫たちが鳴いている草むらに葉山真帆は、落とした携帯電話を草をかき分け探しているが、見つからない。
時々、真帆の行動に不審そうに見て、自転車に乗った男性が通りがかったりする。

もっとみる