夜の窓
時刻は深夜3時すぎ。また寝るのが遅くなってしまったなあと思いながら、換気のために開けておいた寝室の窓を閉める。
この部屋から見る夜の町の眺めが好きだ。東京の町の灯りはカラフルで、だけど夜空はしっかり暗くてほんのり怖くて寂しげで、その対比が好きなんだと思う。暗闇の中の人工的な明るさに何だかほっとする。寝ていてもいいし、起きていてもいいんだよと言われてるみたいだ。
辺りはしんとしている。
遠くには高架鉄道が見える。いや、正確には昼間でさえ鉄道自体は家からは見えない。ごちゃごちゃした町の景色の中に鉄道の輪郭は埋もれてしまい、電車が走っている時に初めて、あそこが鉄道だったのかと認識できるくらいだ。
深夜の暗闇の中に、記憶の残像から夜を走る電車の明かりが浮かび上がってくる。
まだ電車が走っている夜の時間帯、辺りが暗くなった頃にベランダに出ると、ぼんやりと光りながら流れていく電車がたまに見える。その光景が無性に好きで、こんな深夜でも外の暗闇を見るとつい、鉄道のある方向にあの光を思い浮かべてしまうのだ。
地面を走っているのではなく、地上の高いところを走っているのがまたいい。遠くから見ると町の上をすーっと浮いて流れているように見える。
ゆっくりと夜の中を走っていく電車は、胸の中に自然と温かい気持ちを運んでくる。距離というものは面白い。もし私が夜の駅のホームにいて、目の前にたくさん人を乗せた電車が煌々と滑り込んできても、温かい気持ちには決してならないだろう。自分は家にいて、人々を乗せた電車は遠くて、心理的にも距離があるから、郷愁に似た気持ちや切ない何かをその光景に好きなように重ねられるのだ。
カーテンの隙間をしっかり閉じながら、頭の中に星野源さんの「ある車掌」という曲のイントロのメロディが浮かぶ。布団に潜り込んでイヤホンを耳に挿す。
時刻は深夜3時すぎ。冷静に考えれば少しでも早く寝たほうがいい時間だけど、何となくこの時に思ったことを書き残しておきたくて、noteを開いてパパッと下書きに保存しておいた。好きな景色と好きな曲に包まれながら眠りについたある日の幸せな記憶として。
おやすみなさい、良い夢を。
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