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レアチーズケーキと、インナーチャイルドの声

今世唯一作れるお菓子といえばレアチーズケーキ。
これが一番上手に作れるお菓子ってことになる。
今のところ、二番も三番も無い。

長女を妊娠中「お菓子を作ってあげられるお母さんになりたい。」と母に話したことがあった。仕事が忙しくて甘えさせてもらえなかった母への皮肉も込めていたかもしれない。

「そんなの作る余裕はなかった。」と母は忙しさを正当化するから、私は心の中で「必ず作ってあげるんだ!」という誓いを立てた。

私が初めてレアチーズケーキを作ったのは、フリーランスとしてデザインの仕事をしていた頃。契約のために2泊3日の日程を組み、神戸へと旅立つ前日だった。

自宅にアトリエを構えていたので家を空けることが殆どなかったから、その時ばかりはお留守番させる娘たちを思うと後ろ髪引かれる思いだった。

手際はよろしくなかったが「お菓子は分量を守ること」っていうのに忠実だったから、初めてにしては上手に出来上がった。
あれは「せめてレアチーズケーキで許してね。」という罪滅ぼしめいた氣持ちだったかもしれない。

さてさて。これで娘たちが喜んだか?というと、実は食べてる姿や表情を覚えていない。
まるで自分の子どもの頃を映し出しているかのように思えて、真正面から見られなかったのかもしれない。
私はそうやって、悲しみとか淋しさから目を逸らすことで今にも崩れそうな自分を保っていたのだろう。

だがこれは覚えてる。帰路に着いて玄関の扉を開けた瞬間、娘たちの満面の笑顔に救われたことを。

そんなふうに崩れそうな自分を保っていたのは、母も同じだったかもしれない。幼かった私たち姉妹は母を救えていただろうか。

でもね、何より私は淋しかったし寄り添ってほしかった。

膝を抱えて小さくなったままの幼い私「インナーチャイルド」の声は、刺激された感情の端々に散りばめられている。思考を複雑化したものとは程遠く、実にシンプルな叫びを大人になった私が抱きしめる。

もうひとりぼっちじゃない。

自分の時間に自由度が増し、娘たちと過ごすひとときを愉しむ今、今世唯一のレアチーズケーキから更なるレパートリーを増やすべく、今日は久しぶりにこの本を開いてみたい。

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