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【特集】日常を旅する雑誌『アフリカ』vol.31(2020年11月号)- 前篇

先週の予告通り、今週は『アフリカ』最新号を〈特集〉します。裏話をいろいろと交えつつ。今回はもりだくさんなので、2回に分けて書きます。今週はその前篇。

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表紙はいつも通り、向谷陽子さんの切り絵によるもので、今回は〈猫〉です。『アフリカ』には以前にも猫の切り絵が登場したことがありましたが、表紙に登場するのは初めて。

なぜ、〈猫〉か。

『アフリカ』には、いわゆる「今号のテーマ」というものがなくて、テーマで雑誌をつくりたくないという強い意思すら(この編集者には)あり、表紙の絵も同様に何かテーマを決めて"切って"もらってはいないんです。

ただ、いつも「リクエストはある?」とは聞かれるので、いつも何かは伝えるようにしています。抽象的なことだったり、具体的なものだったりしますが、今回は編集人のリクエストにこたえて"切って"もらったもの。でもなぜ〈猫〉だったのかはよく覚えていません。ただの思いつきです。

(ただの思いつきがやがて、後々になって重要な意味を帯びてくることがあるから恐ろしい、いや面白いところなのですが…)

とはいえ、編集人は単に「猫はどう?」と言っただけで、こんなふうな猫が現れるとは想像もしていなくて、切り絵が届いて、見た瞬間に、「おっ! 元気?」と声をかけてしまいました。なんだか前から知っている猫のような気がして…

装幀(表紙デザイン)は、これもいつもの守安涼。安定の出来、です。

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ね? なんだか印象的。この猫が、今回の『アフリカ』を守って(?)くれているような気がして、編集人としては何となく心強い。Thank you !

その表紙を開くと、今回、最初の1ページ目は遊び(?)で、何が出てくるかはお手にとって見てのおたのしみ。

その直後に登場するのは、『アフリカ』の愛読者にはお馴染み、芦原陽子のエッセイ「マリアのいない庭」。隣人であった高齢の「マリア」に出会い続けていた日々、その「マリア」が急にいなくなった後、その土地では…

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「マリア」の姿が語っていることは饒舌ではないですが、しかし明確で、〈土地〉と〈生き物〉の存在とはどんなものなのか、そんなことに迫るエッセイです。コロナ禍の春〜夏を過ごした後につくる今回『アフリカ』は(コロナ禍はまだまだこれからなのかもしれないという予感の中で)、このエッセイから始めることにしました。

その後には目次がきていて、目次の前に何か作品があるというのが『アフリカ』の創刊以来のスタイルのようになってます。トビラ(扉、中表紙)というようなものはなし、というのも変わらず。そういったことは全て「あえて」やっているんですけど、それで何を伝えたいのかと言われたら、もぐもぐしてしまいます(短くは言えない)。まあ、ふーん、と思いながらめくってみてください。

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目次の傍には、いつものように製作関係者+αのクレジットのページがあり、今回も"お遊び"満載!("おふざけ"入り?)で、ズラッと並んでいます。中にはフィクションも混じっていますけど、嘘のようで本当のこともあり、わかる部分とわからない部分があるでしょうが、少しでもニヤッとしていただければ…(このページを楽しみにしてくださっている方が増えているような気がして、止められなくなってます)

さて、目次の後に登場するのは今回、初登場の三浦善「原初の声」。〈声〉についての哲学的考察というか、語りの文章です。写真も三浦さんによるもの(ページ・デザインは全て私)。

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三浦さんとは今年(2020年)の1月、私のやっている文章教室に三浦さんが来てくださって、出会いました。「原初の声」は3月末、新型ウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言が出されて約3ヶ月の休みに入る直前の文章教室のために書かれたもの。

その日、私は「原初の声」をまず三浦さんの声で聴きました。その場で、「これは朗読させてください」ということになったのでした。

 聞こえているか。聞こえていない。聞こえている。だが、聞こえていない。

と始まりますが、肯定のことばと否定のことばが交互に繰り出される、そのリズムが、不安の暗雲に覆われた社会の中で、とても力強いものとして感じられました。

疑問に、応えようとする。しかし、その応えにも疑問はついて回る。あらゆることはその循環によって成り立っているのではないか… 三浦さんの文章(音楽と呼んでもいい)はその循環にしっかり踏みとどまっています。

というわけで、「原初の声」は目で文字を追うのもいいですが、声に出して、音で読むともっと面白い。ぜひ試してみてください。

さて、その次に登場するのは、これまた『アフリカ』には初登場のUNI「嘘とお城」

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「わたしはいつも逃げることを想像している」という語り手が、スーパーの前でばったり再会した"ミチさん"に誘われて、"道草屋"という屋台のコーヒー屋へゆく短編小説です。

さりげない日常の中の細部が、ハッとするようなことばに乗せて鮮やかに浮かび上がってくるというのが、私の見ているUNIさんの小説世界で、小さなところを見れば見るほど(聴けば聴くほど)全体が迫ってくる。ゆったりとしたスピードで読んでみてください。

UNIさんの書く文章は、1〜2年前からnoteで愛読させてもらっており、今年になってからは、UNIさん主宰の読書会に参加したり、UNIさんも私のやる文章教室に来てくれたり、少し交流がありました。新型ウイルスのことで、おそらくお互いに、思っていたようには動けなかった2020年でしたが、だからこそ「『アフリカ』に書いてみませんか?」という話にもなったのかもと思えるので、何がどうなるかわかりません。ね? 今回、いただいた原稿を最初に読んだとき、塞がっているように見えた道に隙間が見つかって、もう少し先まで行ってみようよ? と言われたような気がしたというか、「嘘とお城」はそんな救いのようなものを感じる短篇です。

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それに続くのは、田島凪「I DON'T SEEK, I FIND」、渋谷にあったジャズ喫茶MARY JANEでの日々を描いた力作、14ページ。いまはもう、なくなってしまった場所、記憶の中にある空間を歩き回り、見つめる先には'90年代の渋谷を懸命に生きる経営者の姿がありました。

田島さんには前号(vol.30/2020年2月号)に続いて書いてもらったのですが、今回の原稿を受け取ったときの感動は、うまく説明できそうにありません。何によってそんなに感じ、動かされるのか… 記憶の中にある光景、いまだに耳に残っている声を、ただひたすらに写し取ろうとする書き手の懸命な筆さばき(?)にでしょうか。それを書いて、何かを論じようとか考えようというのではおそらくない。何かを説明しようというのでもない。もしかしたら、それを書き残さなければと思って書いているのでもないかもしれない。では、なぜ書くのか?──その答えは、永遠の中にあるのかもしれません。しかしこの作品によってその問いは私の目の前に新しい姿で置かれ、そのことによってまた書くことができると強烈に感じる。そんな深い力を秘めた作品です。

こんなことがあるから、『アフリカ』は止められず(続けたくなかったとか言っていた癖に)、もう15年目です。あ、私も、「I DON'T SEEK, I FIND」と言いたい気がしてきました。

さて、その次は「下窪俊哉、『音を聴くひと』を語る」と題された、ロング・インタビュー、16ページ。今年の6月に出した、私、下窪俊哉の作品集『音を聴くひと』をめぐって、"語る"ことによるエッセイのようなもの。

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というのも、ここに出てくるインタビュアーの大杉絵美さんは、じつは架空の(種明かしすれば、とある小説に出てくる)人物で、いろんな方から実際にいただいた質問や感想を元にして、さらに数人との対話を入れつつ、それをインタビュー記事として構成したもの。

だから『アフリカ』の編集者兼デザイナーである私が、自分ひとりででっち上げたというわけでもなく(問いかけの声はいただいたものだから)、でもある1人がインタビューしてまとめたというわけでもない。そんな仕掛けになっています。

まだこれから読む方は、この話は忘れて、ただのインタビュー記事として読んで、そのあとで再びいまここでしている話を思い出して、読み直してみてください。面白い発見があるかも?

huddle_音を聴くひと

「この春、どうしていた?」という話に始まり、いま書くこと・読むことについての話から、『音を聴くひと』の制作秘話に入ってゆきます。

『音を聴くひと』をつくるに至った大きなきっかけとなった「そば屋」(初出は1999年)をめぐる2019年のエピソードには、かなりの文字数を費やしています(田島凪さんのことばが出てきます)。

作者としては何事にも替えがたい嬉しい邂逅であり、また、そこにはいろんな表現者にとって示唆するものがあると信じて、ここでじっくり語っておくことにしました。

ほか、『音を聴くひと』に載っている小説やエッセイなど全作品について、またそこには載ってない作品についても語っています。

さて、それに続くのは、お馴染み、犬飼愛生による新作詩「距離」。見開き2ページ。なので、ここに写真は載せませんが。ズバリ、いま! といった感じのするタイトルです。その通り、コロナ禍の光景をすくいとった作品。

この詩を、今回の『アフリカ』の真ん中に置きたいと(この編集人は)強く思った。そして、その通りになりました。

その光景を、ひとりひとりの読者は、どう"見る"だろう。

この続きは、来週の後篇へ続きます。

後篇へつづく)

『アフリカ』最新号(vol.31/2020年11月号)、アフリカキカクのウェブサイトウェブショップ、そして珈琲焙煎舎(府中市)の店頭で発売中。ウェブからでもご注文いただければすぐにお届けしますので、初めての方は少し緊張するかもしれませんけど、どうぞお気軽に。

道草の家の文章教室(横浜 & 鎌倉)、12月は11月に引き続いて「夢を描いて」ですが、少し足して「2020年の夢」で少しやってみます。いつも通り、テーマは頭の隅に置くだけ置いて、好き勝手に書いてもらうので(も)構いません。「書く」ことをめぐる、自由気ままな教室です。初めての方も歓迎、お気軽に。事前にお申し込みください。詳しくはこちらから。

日常を旅する雑誌『アフリカ』のベスト・セレクション&モアウェブ・アフリカのvol.2(6/2020)は、メール・アドレス1本をご登録いただくだけで無料で読めます。ぜひどうぞ。


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