島 凪

'I wish l could see the way l did when l was young─'

最後になるかもしれない晩餐

ダイニングで角ばった白い身を震わせ、ゼエゼエ喘ぎながら冷たい息を吐く古いクーラーに、燃える台所の冷却まで期待することはできない。額に汗を滲ませ、銀の雪平鍋のなか…

花を生け捕る

素足にサンダルを履いて、夜の庭に出る。 日中の熱冷めやらない小路を進み、幽霊と見まがう白いコスモスを掻き分け、暗がりで息をひそめる水道の前に立つ。満月に照らされ…

揺れる眺める目を凝らす、ときどき眠って本を読む

生まれ育った下北沢からぐんと西に引っ越して、カブトムシやクワガタムシの飛び交う緑ゆたかな雑木林に、日が落ちるまで潜伏していた9歳と6歳の子どもたちが、密かにあの街…

ラジオのある風景

スイッチを押すと、〈音の風景〉が始まる。ナレーターが口をつぐむと、音がやって来る。午後の街角の喧騒。花火の上がる夏の夜。雪融けのすすむ川辺。帰宅ラッシュのプラッ…

二人

若い頃、何年にもわたってジャニーヌの肖像を描いていた時期があった。肖像画、それも真実の肖像画というものは、なんといっても芸術の一つの頂点である。私はこのようにし…

口のない世界

口のない世界が長くなった。そして、当分口のない世界は続く。 あの人の、口角の端があがりっぱなしの朗らかな口元も、彼女の、夕方の水平線のように燃えあがる薄い唇の線…