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札幌アカデミー卒業生の現在地 大阪体育大学 木戸柊摩(3年)&佐藤陽成(2年)

5-4でレイソルとの撃ち合いを制した、コンサドーレのミハイロ・ペトロヴィッチ監督は「Das ist Sapporo!!」(これが札幌だ)と誇らしげに語った。

現在、リーグ1位の得点数を誇る北海道コンサドーレ札幌。同時にリーグワースト3位の失点数を喫する脆さも内包するチームは、最高にエンターテイメント性に富んだサッカーを披露していると言える。

そんなコンサドーレでプレーすることを夢見て、プロ入りの最終選考に残ったが、見送りの決断を下された選手も少なくない。

現在、大阪体育大学で主軸を張る木戸柊摩(3年)と佐藤陽成(2年)も同様だ。

そんな二人は、冒頭のレイソルとコンサドーレの一戦もしっかりとチェックしていたという。

佐藤
「札幌の試合は今も見てます。昨日もちゃんと見ました!守備は置いておいて、 めちゃくちゃ面白かったっすね!」

木戸
「強かったですね。やっぱ今のコンサはレベルめちゃめちゃ上がってます。選手の基準も確実に上がってますし、そこに入り込むにはもっとレベルアップしないと。」

そんな2人が高校卒業時に抱いた心境は全く異なるものだった。

「プロって厳しい。正直、高卒で上がってたとて、活躍するのは厳しいだろうと分かっていたのでそれなら、大学で力をつけた方がいいなと思っていた。」

冷静に振り返るのは、高いスキルと技術を活かしチャンスメークが武器の木戸。

一方、負けん気が強いアタッカータイプの佐藤はこう語っていた。

「悔しすぎて、もうコンサには戻らないと思ったりしました。大学を経由して違うチームに行こうと。」

紡ぐ言葉も相異なる二人だが、大学で過ごした1年目の時間も明暗が分かれた。

1年目からチームの主軸を張り、関西リーグの新人賞も受賞した木戸。


かたや多くの期待を背負って、入学した大学で、佐藤は苦難の1年を過ごした。

そんな彼らもまた一つ齢を重ね、今年、大学3年と2年の年になる。彼らの現在を知るべく、関西学生サッカーリーグ 8節 関西学院大学 VS 大阪体育大学。

リーグの上位を争う両チームの対戦を取材した。

関西学院大学 VS 大阪体育大学

前節まで1位と3位につける、関西の強豪同士の対決だ。

この試合に勝利すれば首位に浮上する状況の大体大は、木戸柊摩(3年)と佐藤陽成(2年)を共にスタメン起用。木戸は中盤の一角、佐藤は右のシャドーでスタメン出場した。

だが、大体大は関学大の技術の高さを軸にしたパスサッカーに対応しきれず、1-4で敗戦。

トレーニングで重ねた、前線のプレスから先制するまでは理想的な展開だったが、その後の内容は反省点の多い1戦になってしまった。

そんな大体大の1ゴールを挙げたのが、木戸柊摩である。

今年の3月22日。木戸の2025シーズンからの北海道コンサーレ札幌への新加入内定が発表された。

宣言通りの大学2年〜大学3年に上がる間際での早期内定。

木戸が大阪体育大学で歩んだ2年間がしっかりと評価された証だろう。本人もその時間は自身の成長に大きく寄与したと胸を張る。

「体大の先輩でもある駿汰くん(田中駿汰)や雄也くん(浅野雄也)などもそうですけど、体大から、大卒で入団して活躍している選手の事例も多い。大体大に来て、マジで良かったと思ってます。」

木戸柊摩 大体大進学までの紆余曲折

だが、木戸がそんな関西の強豪に進学するまでの過程は決して平らな道ではなかった。

実は、木戸は当初、別の大学への進学を内定させていた。だが、進学を予定していた大学のサッカー部で不祥事が発生し、推薦枠が取り消しに。進学先を急遽、再考する状況に陥った。

そんな時、大体大の進学を強く後押ししてくれたのが、コンサドーレユースのコーチを務める森川拓巳氏だ。

「課題の守備を鍛えるためにも、お前は体大で成長したほうがいいと強く後押ししてくれました。本当にあの時の決断は正解だったと思います。森川さんには感謝しても仕切れませんし、声をかけてくれた大学にも本当に感謝しています。」

森川氏の目論見通り、大体大で充実の時間を過ごした木戸。

FC東京・C大阪・G大阪など複数のJ1クラブも触手を伸ばすなど、彼の評価は大きく高まったものの、「俺もコンサのことを知っているし、クラブも俺のことを知ってくれている。迷いは全くなかったです。」と見据える選択は一つしかなかった。

そして、念願のラブコールは突然訪れた。コンサドーレの沖縄キャンプ帯同を終えて、程なくした2月某日。

「大学の練習試合があったんですけど、監督に呼び出せれて「おめでとう」と。なんのことやろう?って思ってたんですけど、札幌から正式オファーが来たとサラッと言われて。びっくりしたんですけど、「いきます!」と即答しました。やっぱり嬉しかったですね。」

高校卒業時には見送りとなった2年越しの赤黒からのラブレターを木戸は迷いなく受け入れた。

そんな木戸が特に目をかける選手こそ、佐藤だ。

1学年違いながら、コンサドーレのアカデミー時代から大の仲良しで、現在も同じアパートに住む木戸と佐藤。充実の時間を過ごした木戸の1年目と比べると、佐藤の1年目は少し躓いたスタートになってしまった。

佐藤陽成 大学1年目の歩み

期待の大型ルーキーとして迎えられた佐藤。当然のごとく、1年生で開幕スタメンを飾るなど、順調な大学サッカーの船出を飾ったが、次第にチーム内での序列が低下し、終盤はベンチに座る時間が増えてしまう。

佐藤本人も、最初の1シーズンを自戒を込めてこう振り返る。

「最初は調子よくて、結構出れてたんすけど。後期になって出れんくなって。。。なんか楽しくないなって思いながら、ずっとプレーしてましたね。多分、そういった自分の姿をコーチ陣とかも見ていて、出場時間もどんどん減らしてしまった感じでした。

本当にあの時の事を反省してます!後期は本当に自分ダメだったなって。。。だから、今年は、仮に出れない期間になってもちゃんとやります。」

大体大の松尾監督も「ユースからやってきた中、サッカーの違いもあって、彼の未熟さというか、ちょっと甘さみたいなのが出た1年目だったと思います。」と振り返る。しかし、こう言葉を続けた。

「そういった去年の課題や反省点も含めて、今年は本当にピッチ上で戦ってくれてるので。彼自身、毎試合ごとに成長してるんじゃないかと思います。

シーズン前のキャンプでは、ベンチスタートも多かった佐藤だが、ピッチ上で己の価値と変化を示し、チームの信頼を確実に高めている。

リーグ戦には、ここまで1試合を除き、スタメン出場を続け、既にチーム1位となる4アシストを記録。右サイドのポジションを確固たるものになっている。

「去年よりかは成長したかなと!(笑)」

反省と恥ずかしさを含有するような笑みでそう語る佐藤だが、オンザピッチでは目に見えて、球際で戦えるようになった。そう指摘すると続けて誇らしげに微笑む。

「今年に入って対人しかしてないくらいなんで(笑)結構、守備は上手くなったと思いますね。ボールも取れるようになったんで。 多分コンサに行っても守備をベースとして求められると思うので、その面ではもっと伸ばしていけたらなと思います。

佐藤陽成の古巣への思い

彼の口から、自然と発せられた古巣・コンサドーレの名前。どうやら、高校のラストゲームで誓った思いに変化はないようだ。そして、現在、大体大で戦う右サイドが今後の自分の生業になるとも考えている。コンサドーレで言えば、右のワイドになるだろう。

金子拓郎やルーカス フェルナンデスというJ屈指の槍が、基準となるコンサドーレ。その右サイドの基準をクリアするには、まだまだ成長しなければならない側面も多いのが現状だろう。だが、昨シーズンより遥かに前向きな状況に変化しつつある。

佐藤にはもう一つ、大きな変化が起きた。昨シーズンまで11だった背番号が今シーズンから19に変更になったのだ。一見、レギュラー番号から降格したようにも感じるが、松尾監督が佐藤に高い期待を寄せているからこその変更である。

「彼は非常にモチベーションも高くやってくれている。そこにプラス1。自分に対しても、チームに対してもプラスアルファー、成長してほしいっていう意味です。19は足したら10になるんで。そういった意味も含めて、チームのやっぱり軸として活躍できるようにという意味での19。過去には、野寄和哉(現・レノファ山口)が付けていたものなんですけど。そういった思い入れがあって、今シーズンに関しては19を託しました。今日なんかも、明確な結果は出なかったですけど。非常にタフにやってくれるし、本当に戦える選手にはなってきてるのかなと思います。」

佐藤本人もその期待を結果で示す一年にする気概だ。

「最初はマジか‥となっていたんすけど、監督に、1➕9で10だから、チームのエースのような存在になってほしいと言われて。その番号を託された意味もすぐに伝えて貰って、何とか今年は結果残そうと思いました。本物の10番を今後、背負うには、点を取らないと着れないと思うんで。もっともっと点を取りたいです。」

そして、今後のキャリアにおいても、木戸と同様の道筋を掴みとるつもりでいる。

柊摩が2回生の終わりでコンサ入りを決めたんで。自分もそれを目指して来年の4月までに決めるつもりです。まずはキャンプに呼ばれる事が大前提ですけど、今年1年間しっかりと試合出て、4月には決めたいなって思ってます。」

佐藤が決勝アシストを記録した前節のリーグ戦に札幌のスタッフが視察に訪れるなど、今も彼らの同行には熱視線が送られ続けている。

ここから、己の望む道を掴めるか否かは佐藤自身の今後の振る舞いに掛かっているはずだ。

佐藤は札幌アカデミー出身の選手として希少に感じる程、自己主張を出来る選手だ。その尖り具合を大切にしながら、周囲の信頼を勝ち取り、成長を続けた先にはきっと明るい未来が待っている。

今のコンサドーレのエンブレムを背負うハードルは確実に上がっているが、クラブに必要だと思わせるような成長を何とか大体大で遂げて欲しい。

Jリーグデビューを通じて感じた熱量

佐藤の一歩先を歩む木戸は、ルヴァンカップ VS 横浜F・マリノス戦でスタメン出場、リーグ戦でもすでにベンチ入りを果たすなど、プロとしての第一歩を着実に歩み出している。

Jリーグ王者を対戦相手に迎えてのプロデビュー戦では、中々ボールに絡めず、プロの洗礼を浴びた形だが、あの経験を単なる経験で終わらせる気は毛頭ない。

「いきなり、スタメンで出してもらえるとは思ってなかったですよね。試合のスピード感は大学とやっぱり全然違いました。45分でしたけど、大学サッカーの90分くらいの疲労度でしたもん。F・マリノスもいいメンバーでしたし。ジョエル選手も厄介でしたね…鬼走るので。中々マークを外せなかったことも含め、いい経験になりました。でも、もうちょい経験を積めれば、やれるという手応えもありますね。マジでここからです。ピッチに出て、活躍しないと意味がないので。」

幾度か見せたパスには才能の片鱗は感じさせてくれたはずだ。特に左サイドから中島大嘉へ鋭く放り込んだクロスは木戸ならではの感性と技術が垣間見え、ゴールの匂いも感じさせてくれるものだったが、あれはプロ仕様のクロスだと振り返る。

「大嘉へのクロスは大学なら、あのタイミングと軌道であげてなかったですね。札幌の前線の選手の特徴とマリノスのハイラインも意識してあげたボールでした。あと少しでしたね‥」

その後、Jリーグ 7節のセレッソ大阪戦では、メンバー入りも経験。1つの試合に懸けるプロの情熱やサポーターの熱気も肌身を持って感じ、モチベーションは高まるばかりだ。

木戸はここまでリーグ戦、6試合に出場し、2得点、2アシスト。松尾監督には今シーズン、得点とアシスト合わせて、10以上を求められている。

「もっと取らなダメですね」

自身でも語るように、まずは大学サッカーで圧倒的な違いを数字と共に生み出す存在になることが木戸には求められているはずだ。

この先、リーグ戦を1試合戦った後には、夏の全国大会(大臣杯)出場を懸けた関西選手権が控えている。

木戸は、1年の夏にこそ、全国大会出場を経験しているが、その後、全国行きのチケットを逃しているだけに今大会に懸ける思いは強い。

「順当に上がれば、3回戦で桃山とやって。次は勝ったら4回戦で多分、関大です。関大と毎年やるんですが、俺らにとって相性が悪いと言われてるんで。今年は、何が何でも大臣杯の出場権を取ること。そして、関西を取れるように頑張ります。今年こそはマジで全国大会の舞台に行かないなと。」

※上位4チームには第47回総理大臣杯全日本大学サッカートーナメントの参加資格が得られる。

プロ内定者として、違いを生み出す男。
気持ちを新たに自身の存在感を示す男。
二人の道産子戦士の今後にぜひ、注目して欲しい。


「そういえば、黒川さん見に来てくれた来た時、一回も勝てていない…あれ??あれ??笑」

最後にイタズラっぽく木戸は笑った。
自分が次、観に行く試合はもう決めている。7/1に行われる予定の関西学生サッカー選手権の4回戦だ。

同日に行われるヴィッセルとコンサドーレの一戦が、7/1のナイトゲーム開催な事もあり、ハシゴでの観戦が十分可能だ。

7/1
11時-関西学生サッカー選手権4回戦 対戦カード未確定
in ヤンマースタジアム長居

19時-明治安田生命J1リーグ 第7節 ヴィッセル神戸 VS 北海道コンサドーレ札幌
in ノエビアスタジアム神戸

札幌サポーターの皆様にも是非、彼らのプレーを見に来て欲しい。

大体大は彼らの活躍で必ずや、その舞台に辿り着いてくれるはずだ。

そして、今度こそは、試合後、喜びの声を聞かせてくれるだろう。

彼ら二人の歩みはまだまだ始まったばかり。

「これが札幌の漢達だ」

サポーターがそう誇れる未来に向けた、今は旅路の途中でしかないはずだ。

一歩一歩着実に。

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