札幌アカデミー卒業生の現在地 大阪体育大学 木戸柊摩(3年)&佐藤陽成(2年)
5-4でレイソルとの撃ち合いを制した、コンサドーレのミハイロ・ペトロヴィッチ監督は「Das ist Sapporo!!」(これが札幌だ)と誇らしげに語った。
現在、リーグ1位の得点数を誇る北海道コンサドーレ札幌。同時にリーグワースト3位の失点数を喫する脆さも内包するチームは、最高にエンターテイメント性に富んだサッカーを披露していると言える。
そんなコンサドーレでプレーすることを夢見て、プロ入りの最終選考に残ったが、見送りの決断を下された選手も少なくない。
現在、大阪体育大学で主軸を張る木戸柊摩(3年)と佐藤陽成(2年)も同様だ。
そんな二人は、冒頭のレイソルとコンサドーレの一戦もしっかりとチェックしていたという。
そんな2人が高校卒業時に抱いた心境は全く異なるものだった。
冷静に振り返るのは、高いスキルと技術を活かしチャンスメークが武器の木戸。
一方、負けん気が強いアタッカータイプの佐藤はこう語っていた。
紡ぐ言葉も相異なる二人だが、大学で過ごした1年目の時間も明暗が分かれた。
1年目からチームの主軸を張り、関西リーグの新人賞も受賞した木戸。
かたや多くの期待を背負って、入学した大学で、佐藤は苦難の1年を過ごした。
そんな彼らもまた一つ齢を重ね、今年、大学3年と2年の年になる。彼らの現在を知るべく、関西学生サッカーリーグ 8節 関西学院大学 VS 大阪体育大学。
リーグの上位を争う両チームの対戦を取材した。
関西学院大学 VS 大阪体育大学
前節まで1位と3位につける、関西の強豪同士の対決だ。
この試合に勝利すれば首位に浮上する状況の大体大は、木戸柊摩(3年)と佐藤陽成(2年)を共にスタメン起用。木戸は中盤の一角、佐藤は右のシャドーでスタメン出場した。
だが、大体大は関学大の技術の高さを軸にしたパスサッカーに対応しきれず、1-4で敗戦。
トレーニングで重ねた、前線のプレスから先制するまでは理想的な展開だったが、その後の内容は反省点の多い1戦になってしまった。
そんな大体大の1ゴールを挙げたのが、木戸柊摩である。
今年の3月22日。木戸の2025シーズンからの北海道コンサーレ札幌への新加入内定が発表された。
宣言通りの大学2年〜大学3年に上がる間際での早期内定。
木戸が大阪体育大学で歩んだ2年間がしっかりと評価された証だろう。本人もその時間は自身の成長に大きく寄与したと胸を張る。
木戸柊摩 大体大進学までの紆余曲折
だが、木戸がそんな関西の強豪に進学するまでの過程は決して平らな道ではなかった。
実は、木戸は当初、別の大学への進学を内定させていた。だが、進学を予定していた大学のサッカー部で不祥事が発生し、推薦枠が取り消しに。進学先を急遽、再考する状況に陥った。
そんな時、大体大の進学を強く後押ししてくれたのが、コンサドーレユースのコーチを務める森川拓巳氏だ。
森川氏の目論見通り、大体大で充実の時間を過ごした木戸。
FC東京・C大阪・G大阪など複数のJ1クラブも触手を伸ばすなど、彼の評価は大きく高まったものの、「俺もコンサのことを知っているし、クラブも俺のことを知ってくれている。迷いは全くなかったです。」と見据える選択は一つしかなかった。
そして、念願のラブコールは突然訪れた。コンサドーレの沖縄キャンプ帯同を終えて、程なくした2月某日。
高校卒業時には見送りとなった2年越しの赤黒からのラブレターを木戸は迷いなく受け入れた。
そんな木戸が特に目をかける選手こそ、佐藤だ。
1学年違いながら、コンサドーレのアカデミー時代から大の仲良しで、現在も同じアパートに住む木戸と佐藤。充実の時間を過ごした木戸の1年目と比べると、佐藤の1年目は少し躓いたスタートになってしまった。
佐藤陽成 大学1年目の歩み
期待の大型ルーキーとして迎えられた佐藤。当然のごとく、1年生で開幕スタメンを飾るなど、順調な大学サッカーの船出を飾ったが、次第にチーム内での序列が低下し、終盤はベンチに座る時間が増えてしまう。
佐藤本人も、最初の1シーズンを自戒を込めてこう振り返る。
大体大の松尾監督も「ユースからやってきた中、サッカーの違いもあって、彼の未熟さというか、ちょっと甘さみたいなのが出た1年目だったと思います。」と振り返る。しかし、こう言葉を続けた。
シーズン前のキャンプでは、ベンチスタートも多かった佐藤だが、ピッチ上で己の価値と変化を示し、チームの信頼を確実に高めている。
リーグ戦には、ここまで1試合を除き、スタメン出場を続け、既にチーム1位となる4アシストを記録。右サイドのポジションを確固たるものになっている。
「去年よりかは成長したかなと!(笑)」
反省と恥ずかしさを含有するような笑みでそう語る佐藤だが、オンザピッチでは目に見えて、球際で戦えるようになった。そう指摘すると続けて誇らしげに微笑む。
佐藤陽成の古巣への思い
彼の口から、自然と発せられた古巣・コンサドーレの名前。どうやら、高校のラストゲームで誓った思いに変化はないようだ。そして、現在、大体大で戦う右サイドが今後の自分の生業になるとも考えている。コンサドーレで言えば、右のワイドになるだろう。
金子拓郎やルーカス フェルナンデスというJ屈指の槍が、基準となるコンサドーレ。その右サイドの基準をクリアするには、まだまだ成長しなければならない側面も多いのが現状だろう。だが、昨シーズンより遥かに前向きな状況に変化しつつある。
佐藤にはもう一つ、大きな変化が起きた。昨シーズンまで11だった背番号が今シーズンから19に変更になったのだ。一見、レギュラー番号から降格したようにも感じるが、松尾監督が佐藤に高い期待を寄せているからこその変更である。
佐藤本人もその期待を結果で示す一年にする気概だ。
そして、今後のキャリアにおいても、木戸と同様の道筋を掴みとるつもりでいる。
佐藤が決勝アシストを記録した前節のリーグ戦に札幌のスタッフが視察に訪れるなど、今も彼らの同行には熱視線が送られ続けている。
ここから、己の望む道を掴めるか否かは佐藤自身の今後の振る舞いに掛かっているはずだ。
佐藤は札幌アカデミー出身の選手として希少に感じる程、自己主張を出来る選手だ。その尖り具合を大切にしながら、周囲の信頼を勝ち取り、成長を続けた先にはきっと明るい未来が待っている。
今のコンサドーレのエンブレムを背負うハードルは確実に上がっているが、クラブに必要だと思わせるような成長を何とか大体大で遂げて欲しい。
Jリーグデビューを通じて感じた熱量
佐藤の一歩先を歩む木戸は、ルヴァンカップ VS 横浜F・マリノス戦でスタメン出場、リーグ戦でもすでにベンチ入りを果たすなど、プロとしての第一歩を着実に歩み出している。
Jリーグ王者を対戦相手に迎えてのプロデビュー戦では、中々ボールに絡めず、プロの洗礼を浴びた形だが、あの経験を単なる経験で終わらせる気は毛頭ない。
幾度か見せたパスには才能の片鱗は感じさせてくれたはずだ。特に左サイドから中島大嘉へ鋭く放り込んだクロスは木戸ならではの感性と技術が垣間見え、ゴールの匂いも感じさせてくれるものだったが、あれはプロ仕様のクロスだと振り返る。
その後、Jリーグ 7節のセレッソ大阪戦では、メンバー入りも経験。1つの試合に懸けるプロの情熱やサポーターの熱気も肌身を持って感じ、モチベーションは高まるばかりだ。
木戸はここまでリーグ戦、6試合に出場し、2得点、2アシスト。松尾監督には今シーズン、得点とアシスト合わせて、10以上を求められている。
自身でも語るように、まずは大学サッカーで圧倒的な違いを数字と共に生み出す存在になることが木戸には求められているはずだ。
この先、リーグ戦を1試合戦った後には、夏の全国大会(大臣杯)出場を懸けた関西選手権が控えている。
木戸は、1年の夏にこそ、全国大会出場を経験しているが、その後、全国行きのチケットを逃しているだけに今大会に懸ける思いは強い。
プロ内定者として、違いを生み出す男。
気持ちを新たに自身の存在感を示す男。
二人の道産子戦士の今後にぜひ、注目して欲しい。
「そういえば、黒川さん見に来てくれた来た時、一回も勝てていない…あれ??あれ??笑」
最後にイタズラっぽく木戸は笑った。
自分が次、観に行く試合はもう決めている。7/1に行われる予定の関西学生サッカー選手権の4回戦だ。
同日に行われるヴィッセルとコンサドーレの一戦が、7/1のナイトゲーム開催な事もあり、ハシゴでの観戦が十分可能だ。
7/1
11時-関西学生サッカー選手権4回戦 対戦カード未確定
in ヤンマースタジアム長居
19時-明治安田生命J1リーグ 第7節 ヴィッセル神戸 VS 北海道コンサドーレ札幌
in ノエビアスタジアム神戸
札幌サポーターの皆様にも是非、彼らのプレーを見に来て欲しい。
大体大は彼らの活躍で必ずや、その舞台に辿り着いてくれるはずだ。
そして、今度こそは、試合後、喜びの声を聞かせてくれるだろう。
彼ら二人の歩みはまだまだ始まったばかり。
「これが札幌の漢達だ」
サポーターがそう誇れる未来に向けた、今は旅路の途中でしかないはずだ。
一歩一歩着実に。
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