「コンサ内定 来年までに」ミシャも高評価!木戸柊摩の成長に感じた確信
「クラッキ」という言葉をインターネットで検索してみた。辞書によると、スペインやポルトガルを中心に使われるサッカーの「名手」を意味する言葉だという。
観客を魅了する攻撃的なマインドを持った選手を連想させるワードだが、仮に守備能力も兼備する「クラッキ」がいるとしたら、ワクワク指数は更に上がるのではないだろうか?
結論を伝えよう。今、〝道産子〟クラッキが大阪の地で爆発的な成長速度で進化を遂げている。
名前は大阪体育大学2年・木戸柊摩(しゅうま)
昨年、関西大学サッカーリーグの新人賞を受賞。
今年に入っても、各地域の選抜メンバーが集まるデンソーカップで関西選抜としてチームの準優勝に貢献。また、来年のU-20ワールドカップ出場を見据えた、U-19日本代表候補にも現役大学生の立場で選出されるなど赤丸急上昇中の注目株だ。
一言で言うと、〝圧倒的に〟上手い。そして、観客の心を躍らせることができる選手だ。
コンサドーレのアカデミー組織に所属していた頃から、その才能の片りんは随所に発揮していた。ひらりと交わすドリブル。豊かなイマジネーションとそれを体現する確かな技術。
だが、同時に脆さと弱さもそこはかとなく、感じさせる選手だった。
〝だった〟
自信を持って、過去形にさせて貰う。
田中駿汰(北海道コンサドーレ札幌)や菊池流帆(ヴィッセル神戸)。林大地(シント=トロイデンVV)らを生み出した大阪体育大学での1年間は木戸にとって、実に有意義な1年となっているからだ。
彼らは揃ってこう口にする。
〝体大(大阪体育大学)は守備(対人)を大事にするチーム〟
課題にしていた守備面を徹底的に鍛え、かつての〝弱さ〟が見る影もなくなった木戸柊摩の今をお伝えする。
そして、是非とも、彼のプレーで心ときめく未来を想像してみようではないか。
2022年関西リーグ開幕
2022年4月9日、関西学生サッカーリーグの開幕戦、大阪体育大学VS関西大学の試合を取材しに大阪へ向かった。
取材の大きな目的としていた、コンサドーレアカデミー出身の木戸柊摩と佐藤陽成は見事、開幕スタメンの座を奪取。大阪体育大学は4-2-3-1のシステムで木戸は左のボランチ。佐藤は右サイドハーフでスタートした。
昔から大の仲良しな二人は、ベンチでも横に並び、ピッチに入る前には笑顔でグータッチ。兄弟さながらの姿は、実に微笑ましい。
まずは、ルーキーながら背番号11を背負い、開幕スタメンとしてリーグデビューを飾った〝弟〟佐藤。
右サイドからゴールを狙い続け、チーム最多タイのシュートを放つだけでなく、上級生にも物怖じすることなく、要求し続けるなど、持ち味の一旦は垣間見えた。
たが、この日の大体大は、序盤チーム全体として重心の重たいサッカーになり、守勢に回る展開が長くなってしまった。流れを変えるべく、0-3とリードを許した53分に佐藤は途中交代。
プレー自体は決して悲観する内容ではなかったし、実際に前半のチャンスの多くは佐藤が絡んでのものだった。
交代後も全身から悔しさを漲らせていたが、こういった状況下で明確な数字を残しチームを助けてこそ、佐藤陽成だと思っている。まだまだここから。今後の歩みに注目していきたい。
MOMは木戸柊摩
試合は3-0で関西大学の完勝だった。たが、この試合で最も輝いていた選手は誰か?といえば、自分は迷わず、大阪体育大学の木戸柊摩をあげる。敗戦を喫した中でもそのパフォーマンスは圧巻だった。
今年、デンソーカップ。関東大学サッカー。関西大学サッカーと色々な選手を見て来たが、贔屓目なしで、木戸は間違いなく大学生全体の中でも、特Aクラスの選手になって来ている。実際、この日、試合の視察に来ていた某J1クラブのスカウトも「木戸君、本当にいい選手だわ!」と語ってくれた。
一体、木戸の特徴とは何なのか?
まず、圧倒的な技術力を持ち、長短のパスを使い分けながらチームのリズムを作る〝出し手〟になれる。同時に〝運び手〟にもなれるのが魅力的だ。狭いスペースで足裏も駆使しながら、前を向く。もしくはクルッと逆回りで反転しながら、相手をいなし、プレスを無効化する姿は、チャナティップをも連想させる。また、機を見て、ペナルティエリア脇に侵入し、限られた空間の中で決定機を演出する姿は実に優雅だ。
たが、彼の大学での進化が顕著に見られるのは守備面にある。
デンソーカップや世代別の代表でのプレー様子を見ていてもその変化の一旦を感じていたが、この試合でそれは確信に変わった。
170㎝の小柄な身体を感じさせないほど、見事にボールを刈り取ってしまう。アプローチのタイミングと速度、強度。身体の当て方。またそこに至る、予測能力がこの1年で段違いに上手くなっているのだ。
チームを指揮する福島コーチもその成長ぶりに舌を巻く。
福島コーチ
「彼には上のレベルで戦う為に、守備の所を徹底的に高い水準で求め続けています。むしろ、そこさえ良くなれば誰が見ても違いを生み出せる選手なのは明白じゃないですか?でもこの1年で本当に伸びていると思います。世代別代表から帰ってきて、競り方・ポジショニング…また一段成長のギアが上がっているかなと思いますね。」
木戸本人も自身の変化に充実感をにじませる。
「この大学に入って、守備面では本当に色々なことを学んでいます。球際の考え方とかポジショニングとか。高校時代、自分はあんまり守備が得意じゃなかったんですけど、昨年しっかりと学んで、今年もデンソーや世代別代表にも出して貰った中でも、守備でボールを奪う技術が身についてきたのを実感しています。今はボランチがメインなんで、攻撃だけじゃ上の世界にいけない。守備は本当に大事にしていますね。」
プロ入りへ向けた熱い想い
チームではボランチ。代表やデンソーカップでは4-3-3のインサイドハーフを主に担う木戸は、この春、〝古巣〟コンサドーレの沖縄キャンプにも約1週間帯同した。
「沖縄キャンプでは、他の選手との兼ね合いでウイングで主に出ていました。自分的には周りのみんながうまい中で、結構うまく連動してできたかなと思います。」
実際にその期間で木戸が魅せたプレーぶりは、札幌のペトロヴィッチ監督も賛辞を惜しまず、強化部や選手からも非常に高い評価を受けたという。
高校卒業時には叶わなかったプロ入りへ。彼の口から自然と発せられたのは〝古巣〟帰還への強い決意だった。
「やっぱり札幌に戻って自分がそこに入り込んで、札幌の勝利や目標の実現に貢献していきたいと思っています。キャンプではウイングをやりましたが、チャナとかがいたポジションが自分に合っていると思うんです。間で受けたり、チャンスにつなげるのが特徴なので、やっぱり札幌のサッカーでは、シャドーが一番、自分の能力が活きると思います。僕的には来年(2023年)で札幌内定を掴むつもりです。」
札幌のサポーターが聞くと何とも喜ばしい言葉を語ってくれた木戸だが、その目標を果たすためにも、まずは大阪体育大学の勝利に貢献していかないといけない。体大は木戸が機能するか否かでチームが変わる。それほどの存在になっている。
「今年は本当に自分がやらないと、チームも上にいけないと思っています。陽成を始め、1年生に力のある選手が沢山入ってきたので、自分が彼らを活かすつもりですし、特に陽成の良さは俺が一番分かっているので。あいつを活かしてあげるのは俺だなと思っています。」
2年生ながら、木戸の発言の節々から強い自覚が滲み出ている。何とも頼もしい選手だ。
金子拓郎級のインパクト
大学サッカーを見てきた中で、金子拓郎を始めて見た時の衝撃が忘れられない。
この選手が上のステージで活躍できない理由がない
視察を重ねるに連れて、ますます確信めいた感情に至ったのだが、今の木戸柊摩には、あの時に匹敵するインパクトがある。
「このまま継続していけば、コンサに戻れると思っています。」
最後にこの言葉を残し、去っていく木戸の後ろ姿を見送り、この日の取材は終わった。
すっかり関西弁が板につく木戸柊摩だが、今なお北海道に思いを馳せている。
木戸柊摩なら赤黒のクラッキになれる。
自信が確信に変わった1日となった。
彼のプレーには一見の価値がある。是非、注目して欲しい。