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映画『テルマ&ルイーズ』を初めて観る

各所で映画好きでよく観るんですよ~と言いながら物心つく前の作品は実は全然観たことないというのは映画好きあるあるだと思っているのだが(僕が勤勉でないだけかもしれない)、このたびようやくリドリー・スコット監督、ジーナ・デイヴィス&スーザン・サランドン主演の『テルマ&ルイーズ』(1991年)を観ました。

【注意⚠️】この先率直な感想が並びます。

とにかくテルマがアホすぎる

もうこの章題でお怒りの方もいるかもしれないけれど、いやでもぶっちゃけそう思わなかったです……?
正直途中まで「テルマ正気か?????」と険しい顔で観ていたんですが、結論から言うと多分テルマって最初から正気じゃないんですよね。モラハラ夫と長いこと二人きりなんで、抑圧された日常から一気に解放されて極端な行動を取っているんだなと理解しました。ルイーズのお金をテルマの不注意で持ち逃げされて以降、さらに加速度的に大胆になっていくのもそういうことなんだと思います。
言っちゃあ希望がないですが、そういう家庭出身の者として機能不全の家庭に長いこといる人間に"まとも"な行動を期待してはいけないんですよね(中にはできる人もいるけど、それは本人がとても努力してると思うよという言葉も添えておくね)
そしてその上で「女性の被害史とフェミニズムをベースに敷いたロードムービーの主人公のうち片方がアホである自由もある」と思うわけです。アホだという理由で強姦されていいわけがないし、アホだという理由で金品を持ち逃げされていいわけもないですからね。
テルマとルイーズの二人ともが最初から賢くてしっかり者の女たちだったらこれらの悲劇は起きなかったかもしれない。けれどそれは裏返すと「女の自立も自由も賢い女だけのもの」という話になってしまいかねず、この「アホな女にも自由はある、そしてアホだという理由で犯罪の被害に遭っていいわけがない」というところは描けなかっただろうなと。

ルイーズの"賢さ"

前章で僕はルイーズを「賢い」と評してしまったが、それについても思うところがあったので書いておく。
ルイーズは自分一人は生活できる程度に自立しており、頭の回転も速く、旅の道中も常に警戒しており、出会う男たちには超不愛想でにこりともしない。
彼女の過去が明らかになるにつれ、それは本当に望んで身につけた「賢さ」だったのだろうかと考えさせられた。彼女は頭の回転も速く賢いことは確かだが、テルマのハンサムな男への弱さと比較して描かれるような部分での「賢さ」については、そんなものが"賢さ"であるのもなんだかなあと思うわけです。
幸いなことにルイーズには信頼を寄せている恋人がいる。また道中で初めて夫以外との経験をするテルマを祝っているシーンもあり、ルイーズは自身の被害経験から根本的に男性不信になってしまうのではなく、自身の中で折り合いをつけながら生きているように見える。もちろんそのような心境になれるまで時間もかかったかもしれないし、そう簡単なことではなかったはずだ。
まあ何度も言うように、そんなものが"賢さ"として評される機会はないほうがよかったのだけれど……。

賛否両論の大ジャンプ

まあ破滅しか残された道はないというのはなんとも希望のない話ではある。
特にジョージ・ミラー監督『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015年)よりも後を生きる我々にとって『テルマ&ルイーズ』のこのラストは古く感じるところもある。辿り着くまでも「なんでそんな自滅みたいな行動を取り続けるんや……」という描写が多い。まるで二人は地獄への一本道を自ら舗装していっているような有様だ。(まあそれは承前のMMFRも途中まで似たようなものなんだけど。)
フェミニズム、ジェンダーという現実に圧し掛かる問題とリンクさせるなら、この「破滅しかなかった」というエンディングは到底受け入れがたいものだと思う。
ただ、その上で僕は前述の「女がアホである自由」と同じように「女がカッコよく破滅する自由」もあると思うのだ。映画の中では。
こういう破滅的な格好良さは決して性別を問わないのだという説得力をもってこのエンディングは存在していると思う。
グランドキャニオンに向かって飛び出す二人は間違いなく格好いいですよ。だってその場の誰もがきっと「女にはできない」と思っていたであろうことを成し遂げた瞬間なのだから。

その他思うことあれこれ

主演のジーナ・デイヴィスとスーザン・サランドンだが、ジーナ・デイヴィスはこの翌年に、第二次世界大戦期に存在した全米女子プロ野球リーグを描いたペニー・マーシャル監督『プリティ・リーグ』(1992年)に主演(余談ですが僕はこの作品の原題『A league of their own』がすごくいいと思います)。スーザン・サランドンはこの3年後にジョエル・シュマッカー監督の『依頼人』でマフィア、検察との三つ巴で11歳の少年を守り抜く弁護士を演じている。
僕はこれらの作品を先に観ていて、この二人の共演ということで興味を持ったのが本作でした。『プリティ・リーグ』も『依頼人』も役どころは『テルマ&ルイーズ』とは違うはずなのですが、結果的にはなんとなく通底するものがあり、二人ともなるべくしてなった役だなと大いに納得しました。
どちらもハッピーエンドなので、興味があれば是非観てほしいオススメ作品です。

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