MBA留学で起きた悲しい出来事

アメリカ人のクラスメイトが、パーティーでほぼ初対面の夫に暴力をふるった。
頭を平手で叩き、体を押し倒して馬乗りになり、膝に体重をかけて夫の胸を押した。夫は静かに怒りをこらえた。

私は夫の悲しい顔を見て胸が張り裂けそうだった。
後日、本人にIt was NOT okと伝えたら、信じられない答えが返ってきた。

なんで本人がその場で何も言わなかったのか？
今日まで連絡もしてこなかったのか？
彼が何も言わなかったら、
嫌だって分からなかったから、
悪気はなかったから、
僕が謝ることは一つもない。
僕の（アメリカの）カルチャーではこういうroughなコミュニケーションが普通だし、ここはアメリカだから嫌なことは嫌と言わないと伝わらないよ。

これは文化の違いと誤解だね。
僕から彼に説明してあげてもいいけど？
何か他に言いたいことある？
Are you done?

怒りと驚きと悲しみで震えた。

You really do believe that you have done NOTHING wrong?
と5回くらい聞いた。
彼は私の目をまっすぐ見て、Noと言った。

本当に自分の行動にまったく問題がないと信じているなら、誰に対しても同じことをするのか？と聞くと、
Not to anyone. I have to make some assumptions.

ちなみに、会話のいちばん最初に「私の夫が何かあなたを怒らせるようなことをしたか？」と聞くと、何もしていない、静かだけどいいやつだと思ったという答えだった。

ここ数日、一連の出来事が頭から離れません。思い出すと体が震えて自然と涙が出てきます。

考えを整理したくて、このnoteを書きました。
私の意見は以下です。
私は法律の専門家ではないので、法的な観点から書いているわけではありません。
人として、わざわざMBAに行って教育を受けたリーダーとしてどうあるべきかというモラルの観点から書いています。

文化の違い？

握手やハグを含む挨拶の仕方などの話であれば、日本とアメリカに文化の違いがあり、私たちの方が現地の文化を知った方が良いというのは分かります。

でも、今回は人の頭を叩いたり、馬乗りになって膝に体重をかけて胸を押すという行為の話をしているのです。このような行為がアメリカの文化だとは到底思えません。

もしこれをされて喜ぶ人がいるとすれば、対等な関係で長年そのようなコミュニケーションをお互いに取ってきた古くからの友人など（長年の友人でも実はずっと嫌だったという可能性もあるし、一概には言えませんが）、相当限られた人です。
初対面での真っ当なコミュニケーションだとは思えません。

仮に、万が一、100歩譲ってアメリカの文化だったとして。

「これはアメリカの文化だ。そっちが外国人なんだからお前が慣れろ。」という態度で留学生を黙らせるなら、何のために16か国から多様な生徒が集まり一緒に学んでいるのでしょうか？

声を上げない被害者側が悪いのか？

上記で述べたとおり、今回のケースでは明らかに暴力を振るった方が悪いと思っています。
仮に、人によってはokかもしれないグレーゾーンの行為だったとしても、

①加害者が「この人にこれをやっても良い」と判断し
②行動に移し
③被害者が反応する（又はしない）
という時系列で起きています。

加害者の彼は、③のタイミングが遅かったと繰り返し指摘しました。
でも、被害者が「その場で」声を上げたとしても、②の後であることに変わりありません。
加害者が②の行動に移す前に相手に「頭叩いてもいい？」と聞いて合意を取らない限り（その合意も強い立場を利用した強要でないかも考える必要があります）、被害者側が意思表示をする隙はないのです。

声を上げたのがその場なのか後日なのかによって、②の発生有無に影響しません。
その行為が繰り返し起きるか一回で終わるかは変わるかもしれませんが、最低一回はもう起きています。

つまり、加害者本人の頭の中で起こる①でしか、②を防ぐことはできません。
もし②の行動の結果誰かを傷つけたなら、①の判断が間違いだったということです。

したがって、誤った判断をした加害者に責任があります。

それでも、被害者が声を上げるのも大事？

一般的に、アメリカでの方が日本よりも「声を上げる」（Speak upする）ことの大切さが認識されています。
私自身、MBAプログラムの中で改善が必要だと感じたことは学校にレターを書いて伝えましたし、日頃から何かおかしいと思ったら声を上げることは大切だと思っています。

でも、暴力が振るわれた場面では、驚きや恐怖でその場で反応できないことは容易に想像できます。

さらに、お互いの立場やパワーバランスの違いもよく考える必要があります。

今回の場合、夫は留学生の配偶者であり、パーティーに友達は多くなく、本当に頼れる相手は私しかいませんでした。
英語もネイティブではありません。
もし夫が強く反応して騒ぎになったとき、味方になってくれる人が少なかったかもしれない。
英語で言い負かされるかもしれない。
私とクラスメイトとの関係を心配したかもしれない。
あのパーティーの場で、最も立場の弱い一人でした。

一方の相手はアメリカ人で、周りは全員友達で、英語ネイティブで、夫より体格も大きい。

想像力を少しでも働かせれば、その場で声を上げられなかった理由などたくさん考えられます。

その努力を一瞬もせず、自分の判断がなぜ誤ったのか振り返ることもせず、被害者側に「なぜ何も言わなかったのか？」と何度も聞いて迫るのは、どれだけ傲慢なのでしょうか。

加害者の判断基準にバイアスはないか？

彼は、今回の行為を「誰にでもするわけではない」と言いました。
であれば、どういう基準で私の夫にはやっても良いと判断したのでしょうか。

• 女性にも同じことをするか？

• 男性にだけするとしたら、なぜか？

• 男は全員マッチョで荒々しいコミュニケーションが基本で、強く「男らしく」あるべきという価値観を押し付けていないか？

• 嫌だとしたら声を上げるはずとの前提でいるが、「嫌だったとしたら声を上げられるであろう相手」を選んでいるのか？

• それとも、本当は「嫌だったとしても声を上げないであろう静かで弱い立場の人」を無意識に選んでいるのではないか？（加害者が私の夫の印象を話したときいちばん最初に使った単語は"Quiet"でした）その基準に、人種や移民ステータスも無意識に絡めていないか？

私が加害者の頭の中に入ることはできません。
こういった質問を、本人が自分自身に問いかけないといけないのです。

なぜこんなに長い文章を書いたか？

と思った方もいるかもしれません。
それは、今回の加害者と私や夫との間だけでの問題ではなく、人として、特にMBAにまで行って将来リーダーになるような人たちにとって、とても大切なことだと思うからです。

誰しも完璧な人間ではなく、無意識なバイアスがあったり、判断を誤って間違った行為をし、他人を傷つけてしまうことはあり得ます。
もちろん私にもあり得ます。

MBAのクラスメイトの多くは、とても頭が良く将来ビジネスで成功する人たちです。
CEOになる人も多くいるでしょう。
自分にとって無意識でも、相手よりも強い立場にあり、何か間違った行動をし誰かを傷つけたとき、相手が声を上げづらい状況になる可能性は大いにあります。
その自覚を持つべきです。

自分の行為が「間違った行為だった。あなたに傷つけられた。」と指摘されたとき。
第一声に何と言いますか？
訴訟を心配して、絶対に謝らず「悪くない」と言い張りますか？
「なんでその場ですぐ言わなかったのか？」と相手を責めますか？

自分がCEOで、プライベートでも仲の良いCFOのハラスメントを従業員が訴えてきたとしたら。
「起きたことは残念だけど、あいつに悪気はなかったんだと思うよ。誤解じゃない？」と言って、問題を矮小化し、相手を黙らせますか？

お金が稼げれば、ビジネスが成功すれば、それで良いですか？

こういった問いかけをするチャンスを、MBAプログラムの中に組み込んでほしいです。
（また学校にレターを書くことにします。）

私はDEIを推進するリーダーになりたい、その影響力をより良い社会を作るために使いたいと以前から思っていましたが、今回の出来事でその思いがより一層強くなりました。

私にとって大事なのは、お金ではありません。

私はMBA受験のエッセイに、
I choose to pursue an MBA and become a successful leader.
A leader who does not tolerate customs that hurt people.
A leader who changes social norms.
と書きました。

必ず実現させます。