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波流じゅん@脚本家
2022年12月24日 19:00
「ずっとああなんですよ」 モニターの画面を、刑事が顔をしかめて見つめていた。 医者が刑事に、未映子について説明していた。 白い部屋の真ん中で、未映子は三体の人形を抱きしめて座っている。未映子は幸福そうに微笑んでいた。 刑事が出て行ったドアから、車椅子が入ってきた。「未映子」 車椅子に座っている狩野は、首に包帯を巻いていた。あの時、奇跡的に助かった狩野は、一週間に一度未映子に
2022年12月23日 19:49
「俺は二人とも助けたいんだ」 狩野が叫んだ。 この男はこんなに感情を見せる人だったのかと未映子は驚いた。「あの女が殺されたって聞いて、俺はすぐにお前達の仕業だと気付いた。俺が出生の秘密を話してしまったから。それで未映子に会いに行った。そしたら裕真が未映子の夫として、病院にいた。守らなければと思ったんだ」「いつもいつも未映子を守るんだね。あんたは」「俺はお前を本当の娘だと思ってる
2022年12月22日 19:23
「本当にそっくりだよな」「気持ち悪いぐらいね」「狩野さんはどうすんだよ」「一緒に殺して捨てちゃえば」 誰かが話している声が聞こえる。 未映子は戻りつつある意識の中でもがいていた。 未映子が目を開けようとした瞬間、唐突に記憶が溢れ出してきた。せき止められていた記憶が一気に流れ出し、未映子の血の中を巡るような感覚がした。 映画を観ているように、幼い頃から今までの未映子が記憶
2022年12月21日 18:59
未映子は足を踏ん張り、交差点の前に辛うじて立っていた。 狩野はいない。警察に狩野という刑事はいない。 狩野はいったい誰なのだ。どうして刑事だと嘘をついて、未映子に近づいてきたのか。 信号が赤に変わった。未映子は赤だろうが、青だろうがどちらでも良かった。足が動かないのだから。 ドンっと未映子の背中が強く押された。 未映子の身体は、スローモーションのように、交差点の中に吸い込まれ
2022年12月20日 19:38
悲鳴に近い声を発しながら、未映子はベッドから飛び起きた。 今のはなんだったのだ。 夢だったのか。現実にあった事なのか。 未映子はベッドの下にガラスの灰皿が落ちている事に気付いた。どうしてこれがここに。 やはり私が母を殺したのではないのか。いや、違う。母は刺されて死んだと狩野から聞いている。 眠れないまま朝を迎え、霞がかかったような思考の未映子は、何もかも受け入れるしかない気持ち
2022年12月19日 18:55
家に戻ってからの未映子は、いろんな感情を押し殺して過ごしていた。 狩野が調べてくれているはずだという安心感と、裕真が何かボロを出してくれないかという希望で、未映子の心はいっぱいだった。 怪訝な顔で未映子を見ていた裕真だったが、昨日の自分の失態を隠すかのように、今日の裕真は優しかった。 話す事も思いつかないので、未映子は何気に今日街で見た女の話をしてみた。 自分に瓜二つの女がいたと
2022年12月18日 19:12
代々木警察署の前に、未映子は立っていた。 もう一時間近く警察署の前をうろうろしていた。 確か狩野は代々木警察に配属されていると言っていたはずだ。電話で確認しても良かったのだが、やはり顔を見て安心したいと思い、裕真が寝ている隙に抜け出してきたのだ。 ふと未映子は、誰かの強い視線を感じた。 急いで振り返ると、そこには未映子がいた。「えっ、私?」 鏡に映った自分を見ていると思うぐ
2022年12月17日 19:03
裕真の存在がとてつもなく不快だ。 夕食が終わり、やっと一人になる事が出来た母の部屋だった場所で、未映子は抑えきれない苛立ちを持て余していた。 退院してからずっと裕真が張り付いているこの状況が、たまらなく嫌で仕方がない。 記憶も戻らない、豪邸に連れて来られた、遺産相続、と次から次へと未映子を襲ってくる、この状況も耐えられなかった。 それに加えて母の部屋はケバケバしく、アルバムで見た
2022年12月16日 19:02
狩野との時間は、未映子にとって心躍るものだった。 刑事と被害者という立場なのだが、何故か狩野はあまり事件の事に触れてこなかった。何をしにきているのだろうと思うぐらい、何も聞かないのだ。 記憶喪失の私を気遣ってくれているのだろうか。それとも、私を疑っていて心理的に追いつめようとしているのか。 おかしな刑事だ。「明日、退院されるそうですね」 狩野が窓の外を眺めながら、未映子に尋ね
2022年12月15日 19:00
「何も覚えてないんです」 そう狩野に伝えると、鋭い目が少し優しくなったように、未映子には見えた。 その横で、未映子の夫だと言い張る高木裕真が、「僕の事も?」 と執拗に聞いてきた。 聞くというよりも確認しているに近い聞き方に、未映子は違和感を覚えた。 狩野も同じ感想を持ったのか、また目が鋭くなったように見えた。 目が好きだなと未映子はまた場違いな感想を持った。こっちが夫だ
2022年12月14日 19:02
真っ白な世界。 未映子は真っ白なドレスを着て、ふわふわと踊っている。五歳の未映子の姿がそこにあった。「お母さん、可愛いって褒めてくれるかな」 未映子は楽しそうに踊っている。前を向くと、母親が少しずつ近づいてくる姿が見えた。「お母さん」と未映子は嬉しそうに手を振った。 少しずつ近づいてくる母親に駆け寄ろうとした未映子の目に、眩しい光が突き刺さった。 未映子がじっと目を凝らして
2022年12月13日 19:08
背後に誰かの存在を感じた未映子が、恐る恐る鏡越しに見てみると、鏡の奥には誰もいなかった。 こんな状況なのだから神経がピリピリしているのだ。未映子は、擦りすぎて皮膚がめくれてきている手をタオルで拭き、また母がいるはずの居間に戻った。 居間に戻ると、まだ母はそこで死んでいた。 死んでいる母は醜かった。目を見開き、口をだらしなく開けている母は、もう未映子の知ってる母ではなかった。 何気
2022年12月12日 20:00
私は、この世の中で母親が一番苦手だ。 自分が産んだというだけで、子供を思い通りに動かそうとする人間。そして思い通りにいかなかったときは暴れる。全勢力を駆使して、私の未来を阻んでくる。 愛なんてなくても生きていける。そんな目に見えないものは何の足しにもならない。そういう孤独な意識を、私に深く植え付けた母親。 愛っていったいなんなんだろう。人は簡単に愛を口にするけれど、それは本当に愛なの