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言の葉の庭

鑑賞時の感想ツイートはこちら。

2013年の日本のアニメーション映画。靴職人を目指す15歳の男子高校生と、雨の庭園で出逢った年上の女性。二人が雨の日だけの逢瀬を重ね、心を通わせてゆく姿を描いた恋の物語です。英題 "The Garden of Words"。

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監督は、『君の名は。』、『天気の子』などのヒット作で知られるアニメーション作家、新海誠(しんかい・まこと)。

新海誠作品との出逢い

日本アニメーション界が世界に誇るトップクリエイターといえば、スタジオジブリの宮崎駿監督。

わたしは、この先、宮崎駿さんに続く次世代のクリエイターたちが出てきて、どんどん素敵な作品を創っていってくれるとうれしいなぁ……なんて、個人的に期待しています。

そんなところへ――

「おっ♩ この人、もしかすると “ポスト宮崎駿” になる? ……かも?」

と現れたのが、本作『言の葉の庭』の作者、新海誠さんでした。

最初の「おっ♩」は、“地図に残る仕事” の名コピーでお馴染み、大成建設のCMを観た時。

新海さんは、2011年から大成建設のアニメーションCMをずっと手掛けていて、上の動画は最初の「ボスポラス海峡トンネル」篇。

〇「ボスポラス海峡トンネル」篇(2011年12月)
〇「スリランカ高速道路」篇(2013年12月)
〇「ベトナム・ノイバイ空港」篇(2014年8月)
〇「シンガポール」篇(2018年10月)
〇「ミャンマー」篇(2020年3月)

とにもかくにも「」(え)の力! 背景も、人物も、タッチが繊細で


超綺麗じゃないですか~!

かく言うわたくし、アニメーション作品の風景の美しさでは、ジブリが至高だと思っておりまして。特に、『となりのトトロ』など、多くのジブリ作品で美術監督/背景を務められた男鹿和雄さんの画が大好き!(画集も持っています!♡)

そのわたしのセンサーに「ピピッ!」と反応したのが、新海誠さんの大成建設のCMでした。

「これはぜひ、作品を観てみたいな♩」と――。

〇 新海誠監督にまつわるマメ知識
NHK発・米津玄師プロデュースの応援ソング『パプリカ』。この曲を歌っている5人組の子どもユニット「Foorin」をご存じでしょうか? ユニット最年少の女の子「ちせ」ちゃんは、なんと、新海誠さんのお嬢さんなのだそうです。びっくり! 知らなかった~!

見惚れるほどの美しさ

そうして最初に観た新海誠作品が、本作『言の葉の庭』。風景描写の美しさは、CMで見初めたわたしの想像を超えていました。

本作は「」が重要なモチーフになっていて、監督ご本人も

雨は三人目のキャラクターと言っていいくらい

とインタビューでおっしゃるほど、作品を形づくる上で大切な要素なのですが――

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見て~! 「高画素カメラで撮ったのでは?」と見紛うばかりの美しさ!
滑らかな、水面
音が聞こえてきそうな、水滴!!
干渉し合う、波紋!!!

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梅雨の季節から初夏にかけての、匂い立つような樹々の緑も、これまた息を呑むほどに美しい……♡

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タイルに打ちつける細い雨。雨の日の公園の匂い……。

いかがですか? 美しいでしょう~?

ご紹介した画像は、本作のシーンのごく一部。舞台となる新宿の駅や街の描写、学校や登場人物の部屋など室内の描写も、細かく描き込まれていて本当にうっとりするほど綺麗です♩

あなたは、サボったこと、ありますか?

本作の主な登場人物は、こちらの二人。

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タカオ(声:入野自由)
高校一年生で 15歳。靴職人を目指し、日々、バイトをしながら制作活動を行っている。家庭環境もあって、年齢より大人びた性格。雨の日の午前中は学校に行かず、庭園で靴のデザインを考えている。

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ユキノ(声:花澤香菜)
タカオが雨の日の庭園で出会った、謎めいた女性。朝からチョコレートを片手にビールを飲んでいる。声を掛けてきたタカオに対し、ある和歌を口にする。以来、雨の日の午前中だけの交流が始まるが――。

・・・

高校生のタカオ。社会人とおぼしき若い女性、ユキノ。二人が出逢ったのは午前中の雨の庭園でした。

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二人が逢瀬を重ねる、こちらの庭園。新宿御苑が舞台のモデルになっていることで有名ですよね! 聖地巡礼されるファンの方も多いようです。

タカオは制服姿。ユキノは OL 風のジャケットスタイル。平日の朝。駅のラッシュの人波から離れ、静かな、ひと気のない、その場所へ。――二人はそれぞれ  “サボる時間を過ごすため、そこへやって来たのです。

雨の日の午前中、タカオは学校をサボる
雨の日の午前中、ユキノは仕事をサボる

・・・

「サボる」――なんと自由で甘美な響きなのでしょう!笑

あなたは、仕事や学校をサボって自宅以外のどこかで時間を過ごしたこと、ありますか?

わたしは、あります。(キリッ!)笑

サボり歴には、なかなかの年季が入っておりますよ~。中学生の頃に始まって、会社員を辞める(2018年)まで。「なんだか今日は行きたくないなぁ……」という日が時々あって、わりとちょいちょい、サボっていました。言うなれば、ちょっとした “サボりのプロ”(?)です!笑

・・・

前にわたしが書いていた「お散歩ブログ」を見ても、その片鱗がそこここに表れています。

こちらの記事では、中高時代のサボりエピソードがチラリ。

この日も会社をサボってるし、

この日もサボってる……

果ては、ディズニーランドに行く、リッツカールトンのラウンジでお茶する―― など、“サボりのプロ” ぶりを発揮したお散歩記事を他にもいくつか発見したのですが、なんだかわたしの社会不適合ぶりが露見してしまい、好感度が下がるのも悲しいので、このへんでやめておこうっと……。(小声)

サボり時間は、人生の「雨宿り」

タカオとユキノ。彼らは、それぞれの人生で、それぞれの事情と心情を抱え、同じ時間、同じ場所にやって来た者同士。最初は偶然。そして、回を重ねるごとに「あの人に会えるかも……」という期待も芽生え――。

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出逢いから始まって、だんだんと心を通わせてゆく二人の様子が、小説のように繊細な表現で描かれてゆきます。

学校。仕事。バイト。毎日毎日、行かなくてはならない場所。繰り返されるルーティン。押し流される日々の中で感じる、やるせない想い、孤独――。

作中では、もうひとつの重要なモチーフ「」に絡めて「歩き方を忘れた」という言葉で表現されていましたが、そんな状態になる時も、人生にはありますよね。

・・・

わたしの場合、これまで何かをサボって過ごした時間の中で、得られて一番うれしいと感じたのは

自分が “属する” 集団から解放されて、“に戻れること。

だったように思います。何かに、どこかに、“属している” 時のわたしは、どこか窮屈で、居心地が悪くて――。サボって “個” に戻った時、自由で、一番自分らしいわたしを感じられたのです。

万葉集の歌

本作には、万葉集の歌も登場します。印象的なので、ぜひ注目してみてくださいね。柿本人麻呂の、こちらの歌――

雷神の 少し響みて さし曇り 雨も降らぬか 君を留めむ
(なるかみの すこしとよみて さしくもり あめもふらぬか きみをとどめむ)

現代語に直すとこんな感じ。

〈現代語訳〉
雷が少し鳴り、雲が広がって雨が降ってくれないかな。
そうすれば、帰ろうとするあなたを引き留めておけるのに。

万葉集に収録されているこの歌は「問答歌」になっていて、女性からの上記の歌に対して、男性からの返歌もあるのです。

雷神の 少し響みて 降らずとも われは留らむ 妹し留めば
(なるかみの すこしとよみて ふらずとも われはとまらむ いもしとどめば)

〈現代語訳〉
雨なんて降らなくても、君が引き留めるなら、僕はここにいるよ。

きゃー! 情緒があって良いですねぇ。“” だなぁ! きゅんとします♩

・・・

新海誠監督の恋愛観については、のちに『秒速5センチメートル』を観て、どうにも女々しい印象が拭えず、

解せぬ!!」

となった(笑)わたしです(それ以来、どうも新海作品には手を出せず、人気作の『君の名は。』も『天気の子』も観ていません……)が、『言の葉の庭』は、もう一度観ても良いなぁ、と思えるくらい、素敵な作品です♩


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