マガジンのカバー画像

365日の本棚

39
運営しているクリエイター

2023年7月の記事一覧

「のほほん顔」に惹かれて――太宰治『走れメロス』

「のほほん顔」に惹かれて――太宰治『走れメロス』

 太宰治って人に好かれたんだなあと思った。太宰治好きですか?今でも何かと大人気だと思う。『文豪ストレイドッグス』の魅力的なキャラ始め、「太宰」「太宰」とみんな話している。

 今回読んだ新潮文庫の『走れメロス』にはメロスほか8編の短編が収録されていた。なかでも彼の人気ぶりを示すのは「帰去来」だ。「人の世話にばかりなって来ました」という一文から始まる。私生活の諸々や度重なる留年で兄とかなり仲が悪くな

もっとみる
帰りたい、帰らせろ――『とにかくうちに帰ります』

帰りたい、帰らせろ――『とにかくうちに帰ります』

 この間、映画『アシスタント』のレビューを書いた。そのあとすぐに読み始めたのが津村記久子の短編集『とにかくうちに帰ります』。『アシスタント』のパンフレットには津村記久子が寄稿していて、やっぱり!と思った。それでなんとなく本書を手に取ったのだった。この短編集はまさに『アシスタント』で描かれていたような仕事の話で、なんというタイミングだと思った。

 本書には「職場の作法」「バリローチェのフアン・カル

もっとみる
私だけの幸福――『孤独な夜のココア』

私だけの幸福――『孤独な夜のココア』

 さらさらと入ってくる言葉、シンプルなストーリー。でもほろ苦さに打ちのめされる。田辺聖子『孤独な夜のココア』を毎晩寝る前に読んでいた。本作は幾組もの男女、あるいは女同士を描いた短編集だ。好きな人に入れあげる同僚を醒めた目で見ていた主人公のある夜を描く「雨の降ってた残業の夜」、お金にがめつい、苦手だった同僚を回想する「ちさという女」、同じ脚本のクラスに通っていた男との関係を振り返る「石のアイツ」。一

もっとみる