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学校における組織開発の研究③ー公立小学校での挑戦(1)ー

公立小学校での組織開発

先生の自由研究と題して取り組んできた学校における組織開発の研究。

第1弾では、学校の組織化の経緯。

第2弾では、学校での組織開発って何だろう?

と、書いてきましたが、

いよいよ第3弾では、公立小学校での組織開発の具体例について書いていこうと思います。当初の予定では、この章末に、各学校の取り組みをインタビュー形式で載せる予定でしたが、内容が多いため、2回に分けて、書いていこうと思います。なので、今回は、僕自身が取り組んでみたことや取り組めそうなことを中心に書いていきます。

学校の組織開発は誰が行うのか?

この研究に当たって、真っ先に出てきた問いが「学校の組織開発は誰が行うのか?」というものでした。企業では、会社内に内部ODコンサルタント(人材・組織開発部など)を置いたり、外部ODコンサルタントと連携して課題解決に取り組むことも多いですが、学校組織は現状、そうもいきません。(如何せん資金繰りが難しい。)研究機関等との協働研究もあると思いますが、委員会が主導することが多く、一般的な公立校では、そこまで手を出せません。

組織開発とは、組織それ自体が自分自身の発達・成長に向かって進んでいく過程のことを指します。自分たちが変わりたいと思わなければ、いくら外部の力を借りようとも変わることはありません。

つまり、組織が成長・発達するには、内部のシステムである教員一人ひとりが主体となって自律的に組織への働きかけを進める必要があるということです。

文科省としては、その主体を管理職、特に校長に置いています。校長がリーダーシップを発揮し学校をマネジメントすることを願っています。(2015年 チームとしての学校の在り方と今後の改善方策について(答申))しかし、校長職は2、3年で人事異動がある、これまでの経験の中で組織を大きく変えていくマネジメント経験がない中で教員人生の残り数年を校長として働くといったシステム上の問題もあり、上手く機能しているとは言えない部分もあります。

そこで、現状のシステムを考慮しつつ、ここでは、学校の組織開発における役割分担について考えてみようと思います。

組織開発における役割分担

ここでは学校内部で、組織開発を行える主体を、ミドルリーダー(中堅教員)、管理職、担任、事務職員、教育委員会と設定して考えていきます。

ミドルリーダー(学年主任、分掌主任、主幹教諭など)
学校組織を動かす主体となるのがミドルリーダーと呼ばれる中堅の教員たちです。学校に長く勤務して、学校の現状や課題を把握しやすい立場にいます。学年団や校務分掌でも主任として活躍している世代だからこそ、1番行動を起こしやすいと考えます。ミドルリーダーが学校の文化を作っているといってもいいでしょう。そこで、現状の上意下達の組織体においては、ミドルアップマネジメントを推奨します。管理職がビジョンを作成し、実践層(担任)が実施し、双方の情報にアクセスしやすいミドルリーダーが間を繋ぐマネジメントのあり方です。具体例を2つ。

学年団ワイガヤ
まずは、学年の中で、担任間の関係性や起きているプロセスに着目して、見える化を試みる定期的なコミュニケーションを取ってみるのはどうでしょう。
できる一歩としては、学年団ワイガヤをおすすめします。1人が喋る時間とお題を決めて、できれば毎日コミュニケーションをとる方法です。1人5分〜10分喋ることを学年の中で回していきます。テーマは、自分達で決めたり、あみだくじなどでランダムに決めたりします。テーマに沿って話すことを定期的に続けた事で学年団の関係性が良くなったという事例も聞きます。毎日の仕組みの中に入れ込んでコミュニケーションをとってみてはいかがでしょう。

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2on2
埼玉大学の宇田川元一先生がすすめるのが、2on2です。

2on2とは、他社の力を借りて、普段自分の囚われている解釈の枠組みからいったん離れて物事の見方を帰る、4人で行う対話の方法です。(『組織が変わるー行き詰まりから一歩抜け出す対話の方法2on2』2021年 ダイヤモンド者 p.144)

組織の課題を4人1組で話し合います。2グループに分けて、グループ内で1人が話し、もう1人は問いを投げかけます。そのようにしながら、組織が抱える問題を炙り出していきます。双方のグループが終わったら最後に課題に名前をつけます。この時に、妖怪の名前をつけるなどして、楽しみながら問題を外在化することが大切です。詳しいやり方に関しては、上記の本をお読みください。

僕自身は、校務分掌内で2on2に取り組んでみました。学校組織がもつ課題に妖怪の名前をつけたところ「妖怪:口が裂けても本音を言えない女」「妖怪:打破できない閉塞感ぬりかべ」などが出てきました。組織の課題に妖怪の名前を付けて、笑いに変えながら、どのように妖怪退治のアクションを起こしていくか和気藹々と話しています。

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管理職
組織をつくる責任と権限を持った人です。管理職は、組織開発とともに組織の仕組みを変える組織デザイン(責任と分業のデザイン)の権限も持っています。だからこそ、管理職が組織開発を進めるという覚悟があれば大きく組織は変わっていきます。具体例を1つ。

サーベイ・フィードバック
サーベイ・フィードバックは主に質問紙を用いた調査です。診断型組織開発に分類されますが、まずは教員が感じている課題を客観的にアンケートなどで把握していきます。その後、組織開発の5段階実践モデル(中原淳・中村和彦著『組織開発の探究 理論に学び、実践に生かす』2018年 ダイヤモンド社 p.51)などを用いてワークショップなどを実践していきます。学校内でできそうな組織開発の流れを考えてみました。

①エントリーと心理的契約
→組織開発を行いたいと思っている教員とヒアリングをし、組織開発チームを発足させます。そして、チーム内での目的の共有を行います。
②プロジェクトとデザインと準備
→組織内での課題の調査です。課題をアンケートなどで調査したら、どのように組織開発を進めていくかチーム内で共有します。課題の把握が終わったら必要に応じて、チーム内でワークショップを実際に開いてみるのも有効でしょう。
③フィードバックによる対話
→調査結果やチーム内でのワークショップの結果をもとに、全職員との一堂に会した対話(全体ワークショップ)を持ちます。ここでの対話が物事を大きく進める大切な時間です。
④アクション計画・実施
→対話を通して、問題を引き起こす真因を特定し、それらを解決するための方策やアクションプランを考えます。スケジュールまでしっかりと組み、実行にうつします。
⑤評価
→実際にアクションを行なってみて、どのような影響があったのか評価します。必要に応じて、プロジェクトとデザインと準備から始めます。

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また、校長は評価者の一面も持っています。組織開発につながるチャレンジングな行動をしている教員を率先的に認め、その価値を職員全体に広げることも大切です。副校長は、管理職と教諭を繋ぐ実務のトップです。学校内で様々な業務をこなし、教職員をカバーしているからこそ、職場の文化をよりよいものに変える発信者として発言することが求められると思います。

担任
これから担任を担う人たちは、多くは20−30代の比較的若い層になってきます。まずは、業務に慣れることですが、その業務の中でも、組織開発につながることはできるのではないかと考えます。僕が実際に教員2年目から取り組んでいたことを記載します。

職員室インタビュー
教員になりたての頃は右も左も分かりません。そんな時こそ、先輩たちに色々聞いてみる。会話の中で進めるのもいいですが、たまには少し時間をとってもらいインタビューをしてみてはどうでしょう?

僕は、仕事上はあまり話さない教員になった理由、どんな教育をやってみたいか、人生観など様々なことをインタビューしてみました。

僕が取り組んでいた職員室インタビューを以前noteにまとめていますので、ご笑覧ください。ちなみにこのインタビューをしようと思ったきっかけは、僕が場づくりの中でも最も影響を受けたArt of Hostingにあります。相手のことを深く知るために、ポジティブアプローチを用いてのハイポイントインタビューがありました。また、コレクティブストーリテリングでも、相手のことを深く知ることが起きました。大切にしていることが可視化せれていった分、お互いのことを応援できるようになった経験があります。その経験を元に、価値観の違う教員間でこそできたらいいんじゃないかと思って取り組んでいました。

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チームビルディングの手法の活用
大学で、アイスブレイクやPAの手法などを学ぶことも多くなりました。そこで、学んだことはすぐ子どもたちの関係性づくりに活かせます。ですが、子どもたちだけと行うのはもったいない。折角なら、子どもたちとやる前に、学年団でやってみてはいかがでしょう。関係性づくりに少なからず役に立つはずです。


❹事務職
2015年12月にとりまとめられた中央教育審議会『チームとしての学校の在り方と今後の改善方策について(答申)を受けて、2017年3月に学校教育法が改正されました。そこでは、事務職員の職務規定が「従事する」から「つかさどる」へと変更されました。事務職員は、学校組織における唯一の総務・財務等に通じる専門職であり、管理職と共にマネジメントのプロという位置付けに変わりました。組織開発は、ソフト面とハード面の両方があります。事務職員は、ハード面での組織開発を前進させることができる存在です。例えば、職員室の中に対話できるスペースを作るとか、話しやすい職員室のレイアウトにするなども可能だと思います。ソフト面と同時にハード面も改善できる稀有な存在として、組織開発に関わっていただけたらと思います。事務職員の上部充敬さんが書かれたこちらの本もおすすめです。『教師の生産性を劇的に上げる職員室リノベーション 32のアイデア』2021年 明治図書

❺教育委員会や文科省
ぜひ、教育委員会や文科省には、大きなシステムを再構築する役割を担ってほしいと思います。特に、教員は自分が属する学校組織の中で仕事をすることがほとんどです。しかし、それでは、学校の前例、慣習を疑う視点を持つことが少なくなります。学校の当たり前を打破するためには、教員が学校の外に飛び出して学べる環境づくりを進めてほしいと心から願います。閉塞感ある学校に、血を巡らせるためには、外と内との循環が肝になるのではないでしょうか。


学校の組織開発はいつ行うか?

2つ目に出てきた問いが「学校の組織開発はいつ行うのか?」というものでした。新しく組織開発チームを発足させ、組織開発に取り組むということは僕の中では理想ですが、その時間を取れないのも学校の現状です。

そこで、1番に校内研究・研修の時間の活用をあげます。一般的な研修は、1人ひとりの力量やスキルを上げるためのものであり、授業研が最たる例です。これは、力量をあげるという点では、人材開発の側面を持ちます。そこに、さらに組織開発の視点を組み込むことで、人材開発をしながら組織開発もできるということができるのではないでしょうか。
僕の場合は、校内研究の担当になったときに、対話型ワークショップを導入しました。コロナ禍だったので、お互いの不安を出し合い、それらの解決を進める校内研究の時間にしました。

名称未設定のアートワーク

日々の関わりの中で
組織におけるコミュニケーションの質の向上のためにできることは日々の関わりの中に埋もれています。まずは、組織の中で行われている会話から対話のレベルを表す4つのレベルを知っておくのも良いでしょう。

会話から対話における4つのレベル

①儀礼的会話

これまでの自分の経験や知見で相手の話を聞く(ダウンローディング)会話。ここでの会話では、新しい意味は生成されず閉じた会話になります。例えば、ベテラン教員の発言に対して、若手の教員が何も言えない(または、その逆)と言うのはダウンローディングの兆候があり、危険な兆候です。

討論

話し合いの場への安心感があれば意見を言い合う討論になります。ここでは、どちらが正しいか論理的に話すことになります。

内省的な対話

お互いの違いを理解し話し合うための対話です。それぞれの前提の違いに目をむけたり、なぜ自分はそれをよいと思うのだろうと自分自身の背景にも目を向ける対話です。

生成的な対話

ここでは、内省的な対話を踏まえて、お互いの対話の中で新たな意味を見出し、未来に向けてのアクションを決めていくことになります。課題が自分ごと化し、モチベーションも高まります。
日々の関わりの中で、あなたはどのようなレベルで話しているでしょうか。③や④に向けて少しでも自分から変わっていくことが組織をよりよくする一歩かもしれません。


ということで、自由研究も第3弾まで進みました。探究していくと、問いは深まるばかりで、手元のメモには、解決していない問いがうじゅうじゃあります。ん〜、組織開発って難しいけど面白い。これは夏休みの自由研究だけでは到底終わらない。やっぱり、もっともっと深く学びたいな...

とりあえず次は、組織開発を進めている学校のインタビュー内容などを掲載できるように準備していこうと思います。では、お楽しみに!


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