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オールドレンズにまた恋をした

向暑はるは急いでいる。

2年も待たせたくせに急いでいる。

早く取りに来てと言われなければ、死ぬまで気づかずに過ごしていたかもしれない。

全く覚えていなかったのに、それが自分の物だと自覚した瞬間、急に愛が芽生えて会いたくなる。

待たせた相手が”人”じゃなくて良かったと思う。

2年前に修理に出していたカメラのレンズがそのまま放置されているらしい。

高校の時の後輩が働いているカメラ屋に、修理を依頼していたことをすっかり忘れていた。

待った?

店内で働く後輩を見つけて、意味のわからないあいさつをして、意味のわからない顔をされる。

返答はないまま右手を出してきたので、滞納料を求められているとすぐに理解した。

そうなるとは思っていたので、来る途中のコンビニで買った大量のお菓子を渡した。

は?

とは言われたけど、なんだかんだこれで許してくれる後輩の懐の大きさに感謝をする。

こんな感じで、向暑はるは人への恩を、嬉しくもなく嫌でもない恩で返すのが上手い。

これが上手いと言える内なので、まだ向暑はるの人生には支障はないようだ。

2年ぶりに帰ってきたオールドレンズは、以前の塵は消えていて、久しぶりに成人式で会ったら一段と綺麗になっていた人のように生まれ変わっていた。

向暑はるはその子に寄り付く嫌な人である。

あ、あの頃も好きだったから。

忙してくて会えなかっただけ。

と言い訳をしている。

久しぶりの再会ということで、そのままみなとみらいで散歩をした。

向暑はるの目に映る景色と、このオールドレンズで撮る景色は似ていて、2年前と変わらずにやはり相性が良かった。

時々ピントが合わなくなるのは、古いレンズのせいではなく2年間のわだかまりのせいなのかもしれない。

またそれも味を出していて愛おしい。

2年前よりこのレンズのことが好きになっている気がした。

時間を置くことも”愛”には必要らしい。

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