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親友は死んで、そして生き返った

ふと大学生活を思い出すとき、必ず”あの人”が向暑はるの隣にいつもいた。

それは元恋人でもない。

先輩でもない。

もちろん教授でもない。

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向暑はるの大学生活は、周りに何も頼ることのできない”0”の環境から始まった。

メールの設定も講義の選択もパソコンの設定も全部一人でやった。

だから講義も一人で受けていた。

想像していた華のキャンパスライフとはかけ離れた位置にいて、この先の4年間が不安になったりした。

そんな時に声をかけてくれたのが”彼”で、そこからの4年間は友達のようで親友のようで相棒のような唯一の存在となった。

以前、あの時どうして声をかけたのかと聞いたことがあるけど、

”髪染めてたから”

と彼らしい突発的で直感的な行動が表れていた。

髪を染めていて良かったと、神様と自分の行動に何度も感謝した。

大学生活の6割は一緒に過ごしていたと言っても過言ではない彼だけど、

大学を卒業してからは一切連絡を取らなくなった。

喧嘩、

飽き、

嫉妬、

妬み

そのどれにも当たらない、プライドという言葉で片付けられれば楽な”何か”が邪魔をして、

いつの間にかあの時の彼は、どこかの”あの人”になりかけていた。

もう向暑はるの頭の中で彼は死んでいた。

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1年ぶりに”あの人”に会った。

もちろんお互い連絡を取っていない。

共通の知り合いが気を利かせて二人をご飯に誘った。

あの頃と何も変わっていなかった。

でも、

目の前にいるのは間違いなく”彼”のはずなのに、向暑はるの気持ちはどこかで”あの人”になっていた。

二人だけのノリや距離間というのは、もう忘れていた。

飲んでいたコーヒーも、どこか酸っぱくて、喉を通るのに身体が一瞬抵抗していた。

適当に会話を続けていくうちに、なぜか会話の主題が”苦手な人”についてになっていた。

いっそのこと目の前の君だと冗談で言ってやろうかと思ったけど、彼が最初に答えた。

”相手に嫌われても、おれは嫌いにならないから、今まで関わった人と絶好することはない”

と。

向暑はるの気持ちが見透かされたのかと一瞬ヒヤリとしたけど、これは4年間一緒に過ごした”彼”らしい言葉だった。

“彼”は生きていた。

店を出るときに焦って飲み干したコーヒーは、砂糖が沈んでいてちょっとだけ甘かった。

またね、と駅の改札で手を振る。

また連絡を取らない日々が続くのかもしれない。

それでも次に会う時は、”彼”が向暑はるの中で生きているはずである。

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