住み慣れた部屋はもう誰かのものになっていた
とりあえず大学を車で一周した。
見た目も雰囲気も何も変わっていなかった。
でももうこの”中”に入ることはないだろうし、ここの住人ではないことの現実を突きつけられた気がした。
たった4年間。だけど4年間。
時間の隙間を埋めてくれる場所だったと改めて知る。
正門を通ったけど、そこは何も感じなかった。
向暑はるの家は正反対にあったから、正門を潜って大学に行くことは一度もなかった。
今考えると正門を通って大学に行ったほうが、高校生の頃夢に見ていたキャンパスライフにより近づけた気がする。
マックとローソンが見えてきたけど、ここもあまり思い出がない。
昼時は混み過ぎていて、静かな空間が好きな向暑はるにとっては抵抗のある場所だった。
そして図書館が見えてきた。
今は改修中らしい。
唯一の心の拠り所だった場所も、もう”知らない場所”となってしまうらしい。
その先の坂を下ったところに向暑はるの家があった。
”元住人”としてその部屋だけは明かりがついていないことを願ったけど、そこは既に”誰かの家”になっていた。
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昔住んでた小さな部屋は
今は誰かが住んでんだ
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タイミング良く、車のスピーカーからソラニンが流れ始めた。
やっぱり彼のセンスがいいのか、車の選曲がいいのかは分からなかった。
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あの時こうしていれば
あの日に戻れれば
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202号室の明かりの奥に、あの頃の向暑はるの姿が見えた気がした。
後悔なく過ごそうと好きなことを好きなようにやった結果、残ったのは”もう少し”という後悔と戻りたいという切望だった。
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例えばゆるい幸せが
だらっと続いたとする
きっと悪い種が芽を出して
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でもきっとあの頃の生活を先延ばしにしたところで、この後悔はまたどこかで芽生えてくるはずである。
上京してから地元が恋しくなったように、ここも卒業してから恋しくなってしまった。
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もうさよならなんだ
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戻りたい意思を振り退けて、彼が踏み込むエンジンと同じタイミングで、心の中で手を振った。
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