小説 老人と赤い花柄の傘1 一雨
老人と赤い花柄の傘🌂 一雨
「しまった。電車行ったか。」
駅の改札口で立ち止まった。
私は会社に一度戻るのを諦めた。
“打ち合わせが長引いたから*午後一の会議は欠席します。そのまま客先に行きます。”
と会社にメールを送る。
”分かりました“とだけ返信が早く返ってくる。
駅のコンビニで昼食のおにぎりと緑茶を買うと、駅の近くの少し大きな公園を見つけ日陰のベンチに腰掛けた。
風が心地よく木々の色も青々としているいい季節になった。
内心、会議に出なくて良くなったのだから電車に乗り遅れて正解だったなと安堵した。
コンビニのビニール袋から緑茶のペットボトルを取り出した。
ペットボトルの蓋を空け一口飲む。
喉を潤してひと息をつき公園を見渡す。
平日の昼前は小さな子供と母親が多い。
目の前をご婦人が小さな犬を連れて通り過ぎる。
子供達が楽しそうにはしゃぐ声が公園に響く。
ふと、横のベンチに目を向ける。
一人の男性の老人が座っていた。
歳は70代半ばだろうか白髪で無精髭が生えている。白いシャツにグレーのズボンに茶色いベルトを着てとても身綺麗な人だ。
でも何故か手には赤い花柄の雨傘を持っている。
自分の父親ぐらいの男性が持っているのが気になってしょうがない。
生暖かい風か不意にビューと吹いた。
私は老人と目が合ったのでお互いに会釈した。
「いい天気ですね。」
私は老人に言った。
老人は「そうですね。」と言うと私の目線の先の赤い花柄の傘に気付いた。
「ああ、これは家内の傘でしてね。
今朝、天気予報でにわか雨が降るって。
慌てたから、持ってきてしまって。」
老人はたどたどしく言った。
老人の言葉に頷きながら「そうですか。奥様の?」と言いながら私は辺りを見渡した。
老人は笑いながら言った。
「亡くなって三年になるんですが、赤い傘なんてこんな爺さんが持ってるとやっぱり変ですよね。」
私は「いや、あの。」と言葉に詰まっていると向こうで小さな男の子が手を振った。
「おじいちゃん」
男の子がありったけの声で叫んだ。
隣の髪をおだんごに結っている女性が私をガン見している。
「孫と娘です。」
老人は私に言うと孫と娘さんに手を振った。
娘さんは安心したようだ。
息子とブランコで遊んでいる。
「営業職ですか?」老人は私に尋ねた。
「一応。うちは*中小*ですから何でも屋みたいなものです。」私は苦笑いで答えた。
「ワタシも営業でした。*部品*メーカーでしたから客先には納期の無理を言われて大変でした。」
老人の言葉に私は「わかります。わかります。」
と笑いながら言った。
老人との話は二雨(ふたあめ)🌂に続きます。
*中小 中小企業
*部品 機械、機器に入るもの。パーツ
*午後一 午後1時
あとがき
お読みいただき有り難うございました。
どなたかの目に止まれば幸いです。
赤い花柄の傘 二雨🌂に続くます。
よろしければそちらもお読みいただければと幸いです😊
おまけ 寒がりのかえでを撮りました。
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