小説 老人と赤い花柄の傘11 終雨
『次は天気予報です。今日の天気は晴れのち曇り、にわか雨があるでしょう。
傘を持ってお出掛けください。』
そろそろ昼のニュース番組が終わる時間だな。
私は「よいしょ」とソファーから立ちあがる。
腰を擦ると「歳には勝てんな。」
独り言を言った。
ピンポーンとチャイムが鳴った。
鍵がガチャガチャと開き玄関のドアが開く。
「じいじい。」
可愛い声が聞こえてきた。
「お父さん。公園に行くでしょう。
傘持っていこうよ。にわか雨降るって。」
一人娘が合鍵を開けて玄関口で私を待っている。
「はい。はい。ちょっと待ってくださいよ。」
私は慌ててテレビを消して仏壇の家内の写真に笑って言う。
「ちょっと公園に行ってくるよ。」
玄関で可愛く髪を二つに結ってもらっている孫のハルに「じいじい。」と急かされた。
「こら、ハル。おじいちゃんを焦らせないの。」
娘は孫のバタバタするの手を繋ごうとする。
「はーたん。わるくないもん。」
ハルは私の隣にくっついてくる。
「おじいちゃんがゆっくりだから。
ちょっと待っててね。ごめんね。ハルちゃん。」
私の言葉に娘は笑う。
「もう、お父さんは孫には甘いんだから。
お父さん、傘、傘。」
傘立てには自分の黒い傘と赤い花柄の傘がある。
私は家内の赤い花柄の傘の方を持っていく。
娘は不思議そうに私に聞く。
「好きだよね。そのお母さんの赤い傘。」
私は娘と孫に優しく言う。
「道具はちゃんと使ってやらないとね。
意味ないでしょう。」
娘はうんうんと笑って頷く。
「お父さん、今日の夕飯何するの?」
「肉じゃがにしようかな。」
「ハル。今日、おじいちゃんちで食べて帰ろ。」
「こらこら。たまには自分で作れよ。」
「おじいちゃんのご飯食べたいよね。ハル。」
「はーたん、じいじいのたべる。」
「はいはい。ハルに言われたらしょうがないね。スパゲッティにしょうか?オムライスがいい?」
私は孫の小さな小さな手を繋ぐ。
「ちゅるちゅる。」
「じゃあ、スパゲッティにしようね。」
「お父さんわたしも。」
「ママは大きな子供だね。」
娘との他愛のない会話、孫が私のズボンを引っ張る仕草、本当に何でもない日常。
愛おしい人、愛おしい時間、愛おしい風景が広がる日常。
愛おしい人達との別れは悲しい。寂しい。
悲しいとちゃんと思える自分がいる。
“赤い花柄の傘”を持って今日も公園へ出掛ける。
アスファルトに三人の影か伸びた。
私は、、、。
私もあなたと同じ“老人と赤い花柄の傘”。
ふと空を見上げた。
空は青く青く雲一つない空が広がっていく。
「聞こえますか?私は大丈夫です。
ちゃんと今を生きています。」
私は青空を仰いだ。
おしまい。
「何かいい終わりだな。」
パソコンの前で独り言を言う。
「もう、お散歩の時間か。」
小さな犬がお座りをして催促をはじめる。
今日も虚構の時間はそろそろ終わりだな。
椅子から立ち上がり現実に戻っていく。
本当のおしまい。
おまけ なんか考え事しているかもしれない?
おやつのこと 考える?。 かえで
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