3月末、唐突な初夏をおもわせるような、いいお天気の日。ふと鼻先をお線香の香りがかすめた。お寺の敷地の脇を歩いていたときだった。まっしろな日差しをうけてザラザラ光るブロック塀そのむこうで、お墓に手を合わせているひとがいたようだった。「冬場いけなかったし、せっかくのお天気だからお墓参りにでも」ということだったのだろうか。 人間にかぎらず、あたたかくなるとなにかと活動的になるもの。数日まえは、ぬかるんだ空き地の水たまりの上を、アゲハチョウが2匹ひらひら飛んでいるのを見かけた。
なんでこんなことに……。 FC町田ゼルビア戦、目を光らすコールリーダーさんのすぐ近くで、必死に声を張りあげながら、ぼくは内心首をかしげていた。なんでぼくはこんなところでチャント歌ってんだ? ホントは今回の町田行き、やめるつもりだった。先週から右のもも裏を痛め、しばらくまともに歩けなかった。多少マシにはなったけど痛いは痛い。しかも4月3日の天気は雨だと。なぁにが悲しくて、足ひきずりながらスタジアムにまでいって雨にうたれにゃならんのだ。当日をむかえて午前中くらいまでは、
仕事を終えて帰ると、家の前の道路が工事関係者と工事車両でごったがえしていた。工事現場に立てられた看板には「地震につよい水道管に交換しています」。アスファルトがはがされ、下の土が一直線に掘り返されていた。そういえば家の冷蔵庫に「水道管工事のお知らせ」の紙が貼ってあった。 警備員さんの誘導にしたがい、せばまった道をすりぬけ、マンションまでたどりつく。入り口のまえには、ツナギを着た強面の職人さんたちが休憩していた。ぼくはなんとはなしに「ごくろうさまです」声をかけて会釈した。す
以前このようなnoteを書いたからかなんなのか、先日、六花亭のマルセイバターサンドをいただいた。 記事にも書いたが、ぼくはレーズンがキライだ。できれば関わりたくない。とはいえ、ひとからいただいてしまった以上"食べない"もない。ついでに長年、マルセイ"ユ"バターサンドだと覚え違いしていたといううしろめたさもある(ダイレクトメッセージでそっと指摘してくださったかたのおかげで発覚。サンフレッチェのことスキなひとに悪いひとはいない)。記事も「きらいなものも1回は試してみよう」と
効き過ぎの花粉症の薬でも飲んだみたいに、目もとがぼわん……とした。目ん玉も、まぶたも、目のクマができるところも、なんだかずるずるとゆっくりすべりおちていくような。 先週のサガン鳥栖戦、ぼくは舟をこぎながら観ていた。 昼過ぎまでの用事を終えて、それがあまりいい心持ちのする用事ではなかったものだから、がっかりしながらの観戦だった。そこに寝付きがわるかったのもかさなって、たぶん意識が起きていることを拒否したんだとおもう。「早く夢の世界へ行かせておくれ」。抱っこを全力でいや
「ふざけんなてめぇ何度目だこのやろう!」 「いつまで抗議してやがんだてめえ」 「レフェリー、カード持ってきてねえのか!」 妙に通る罵声があたりをつらぬいた。まぁなんて野蛮なこと、やだやだ。3月2日、クソ寒い味の素スタジアムでのFC東京戦、ビジター席のはしっこで、冷えた手をさすりながらぼくは顔をしかめた。 試合まえの花火の特効であたり一面白煙におおわれていた。往年のセリエAをおもわせる物々しさを帯びてゲームははじまった。でもだからってなにも観客までセリエA、ウルトラス仕
みんなのピンチを、あわてずさわがず、しれ〜っと解決。林卓人さんはそういうキーパーだ。よく通る声で味方を統率しつつ、シュートやクロスがとんできたらなに食わぬ顔して止めちゃう。それもボールにとびつくというより、ボールにひきよせられるみたいに腕をのばして止めるから、必死感がない。そこがたまらなくかっこいい。 でも引退会見のときの卓人さんは、勝手が違った。ゴールキーパーとしてのそのかっこよさが、すっかり鳴りを潜めてしまっていた。 会見のとき、卓人さんは眼鏡をかけていた。それ
レーズンがキライだ。去年の秋ごろの『ぶらサンチェ』、茶島さんがラムレーズンの入ったアイスクリームを食べてたのですら気に入らない。それくらいキライ。 あの、ぐにぅ、っていうブキミな食感。突拍子のない角度からちょっかいかけてくる酸味ともいいきれない酸味。黒くぶつぶつとしたきたならしい見た目。レーズンほどの異物感を発揮する食材には、いままでお目にかかったことがない。比類なき異端。だというのに、なぜかみんな、安易にお菓子やパンにまぜこんでしまう。だれがはじめたのかは知らないけれ
柴崎晃誠さんの引退を切り口に、今シーズンでもふりかえってみるか、などとおもいたってはみたものの、すぐにやめた。晃誠さんの話をすると、2018年の右サイドの"造り"の美しさをおもいだす。ぼくはその造りの復活をながいことのぞんでいた。そしてそのリヴァイバル・プロジェクトは、大スキな茶島雄介さんによってなされるものだとおもっていた。だから目をそらした。茶島さんにいろんなものを押し付けようとしている自分のブスさを直視できなかった。 だからこのたび契約更新してくれた松本大弥さんの
おじさんたちが、びっくりするほどかわってなくて、わらってしまった。 ことしのホーム最終戦であるところのガンバ大阪戦。エディオンスタジアムでおこなわれる最後のゲーム、そしてなによりぼくと同い年の林卓人さんの引退が発表された直後。神聖なゲームである。もすこしおごそかに観にゃあバチがあたるぞ、ともおもったが、ぼくはついふきだしてしまった。だってイメージそのまんまだったんだもの、ぜんぜんゲームに出てなかったおじさんたちが。 スタメンの青山敏弘さん。競り合い直前、相手をひっぱ
もう先々週のお話になるのか。味の素スタジアムから帰ってすぐ、DAZNをつけてFC東京戦を見返した。すぐといっても、シャワーあびたり着替えたり、カラのペットボトルのラベルはいだり、つかった汗拭きシートを捨てたりもしたから、正確にはすぐではない。だけど心もちとしてはすぐだった。単純に勝ったから、1秒でも早く観なおしたかった。 ヘッドフォンを装着し、PCで、大音量にしてウキウキで見逃し再生。すると前半8分「ムツキィ!」という怒声がイヤーパッドのなかにひびいた。おーおー集音マイ
われわれ運動音痴にとって、柔軟性ってやつは鬼門だ。学生時代、前屈で地面に手がつくことはななかったし、背中で手を組むこともできなかった。おもわず悲鳴があがるレベル。開脚? なにそれおいしいの。 だからだろうか。サッカーなどという複雑怪奇な競技のなかで、しなやかにからだをあやつる選手を見ると、無条件に心をもってかれる。 山﨑大地さんは、ぼくの心をうばいさった選手のひとり。ホントにしなやか。身のこなしにこわばったところなんて、なにひとつ見つからない。じつに上手にからだをつ
「マコが前?」 とコーチに確認するところからはじまった、松本泰志さんの名古屋グランパス戦。89分に加藤陸次樹さんと交代、追加タイム+7分で記録上は8分間の出場となった。 入ってきたとき、すこし心配だった。「大丈夫かな」って。泰志さんはこれまで、途中投入でだいぶ苦労していたみたいだったから。でも、この日の彼にそんな心配はいらなかった。 まずはたてつづけに2回、相手のボールホルダーに激しくくらいつき、連続でタッチラインからおいだしてみせる。内田篤人さんが、日本人選手の
ヴィッセル神戸戦の試合まえのセレモニー。記念のお花をパパにとどけようと、いっしょうけんめい歩くお子ちゃんを、うれしそうに待ってる野津田岳人パパを観てから、ぼくの、野津田岳人さんびいきが加速した。加速したとたん、京都サンガ戦、ハーフタイムで交代させられたのだから、7番の出場時間が46分でおわってしまったのは、おそらくぼくのせい。責任をつよく感じています。またチャンスをもらえるよう、日々取りくんでいきます。 さて、いい歳こいたおっさんの自意識過剰はさておき、なんで交代させら
加藤陸次樹さんは、ときどき身勝手になる。 ふだんの陸次樹さんっていえば、チームのために全力で戦える選手。チームを助けようとアタマをフル回転させ、ピッチをかけずりまわってくれる。 でもそんな彼も、試合時間90分のうちのほんの数秒間だけ、自分自身のためにプレーする。それはきまって相手陣内、ボールもった状態でパァッと目のまえがひらけたとき。瞬間、人格がカチっときりかわる。アタマのなかが「シュートを撃つ」それ一色で染まる。わき目もふらずシュートにいく。 ファン・サポータ
塩谷司親分の蹴ったボールが、ピエロスさんにむかって、まるで相手選手をかたっぱしからおしのけてくようにしてつきすすむ。ロングフィードで相手サイドバックの領地を荒らす、っていうチームの基本方針をフリにした、つよくてしたたかな”親分らしい”、長距離パスだった。 それにしても、どんな景色見てあんなもん通してんですかね、親分は。オフサイドになっちゃったけど13分25秒のとかとくに。ヒトとヒトが重なり合うあのピッチの雑踏のなかから、ピエロスさんの動き出しだけをつまみあげ、コースこじ