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ロッテルダムにある40歳からのコレクティブハウス「ユマニタス・アクロポリス」

コレクティブハウスという言葉を聴いたことがあるだろうか。簡単に言うと、家族等の既成概念に囚われない集住の形式で、北欧(スウェーデン・デンマーク)を中心に1970年代から発展してきたものである。シェアハウスをイメージしてもらうとわかりやすいかもしれない。共同スペースを多く持ち、人々が他人でも関わりながら暮らしていく姿がそこにはある。

私は、何箇所かのコレクティブハウスへ視察をしてきた。21世紀の生き方には、人との関わりと学びが要になると考えており、集住には家事の分担や会話による認知機能への刺激など少子高齢化・超高齢社会のヒントが詰まっていると思う。

今回紹介するのは、2012年11月に訪問したコレクティブハウスの中でも特に大きい施設、オランダのロッテルダム市にある「ユマニタス・アクロポリス」である。巨大過ぎてショッピングモールと病院に住居が組み合わさったもののようだった。

ロッテルダムというのはオランダ第2の都市で、落ち着いていて過ごしやすそうな街並みであった。

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アクロポリスには隣に病院も併設されている。この住居は40歳からが入居可能となっている。

ちなみにすべてのコレクティブハウスが後期成人向けなのではない。 それについては、下記の記事で子供も暮らす住居を紹介している。


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Willemijn van Woensel 氏にお話を伺った。

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この住居はユマニタス財団が運営している。アクロポリスは一般住宅地域の介護サービスの拠点で、市民にとっては救急病院の意味も果たしている。入り口から医療施設、重度患者の介護ナーシング施設、その奥に認知症高齢者や心身に障害を有する要介護者がクラス自立支援ホームがある。要介護度の低い自立可能な人々に向けた集合住宅も隣接敷地内に配置されている。

6階建ての高齢者住宅とナーシングホームで、260人の入居者が生活している。吹き抜けで気持ちの良い空間である。

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公営住宅であるため若い世代も入居出来るが、 大半が高齢者である。健常者・ 要介護者が混在している。部屋の平均的な広さは 75㎡、家賃は約7万円(食事代別)となっている。

当時の理事長は経済学者ベッカー氏(1992~) で、運営目標は「幸福の創出」となっていた。多くの日本にある高齢者施設とは違い、タバコもアルコールも自己責任だ。居住者同士の恋愛もある。ペットもOKだ。

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 ポリシーとしては下記の4点が挙げられる。 

 1. 自己決定の尊重 
 2. 自己能力の活用 “Use it or lose it” 
 3. 拡張された家族的関り方 
 4. Yes文化の構築

売店には小分けにした生活用品、アルコールも売られていた。

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外部から家族が来た際には食事を一緒に楽しむこともできる他、屋外には小さな動物園がある。動物の世話や庭の手入れは住民のタスクとなっており、高齢者にも適宜認知的負荷がかかるようになっている。

不定期でボランティアによる演劇やバレエなどの公演があり、それらは高齢者が家族と楽しむことができる(これらを目当てに家族が訪問してくれるケースもあるそうだ)。

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アクロポリスには、団らんするスペースの他に、ビリヤード場や様々な芸術活動に触れられるスペースがある。それらが1階の通路の両側に設置されており、それらの部屋は仕切りなしあるいはガラス張りになっていて、中に仲間がいるか見ることができる。

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アクロポリスには、地下に博物館が設置されており、そこには高齢者が過去使用したであろう家具や文化的産物が触れる形で展示されている。これらは、高齢者の認知症予防に有効なのだという。

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一見、素晴らしい住居のようにも見えるが、入居待ちが続いているにも関わらず、この規模の住居を新規で建てたり維持したりするのは難しさもあるそうだ。ただ、高齢者が孤独にならず、コミュニケーションを取りながら様々な文化・芸術活動に触れ、学ぶ機会を多く持てている点で、この事例は非常に興味深かった。




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