小林レント

詩を書く人。第一詩集に『いがいが』(midnight press刊)。第二詩集『原ッパ…

小林レント

詩を書く人。第一詩集に『いがいが』(midnight press刊)。第二詩集『原ッパニテ』はnoteにより刊行。高円寺で呑んでいると脳出血で半身不随に。以前にましてお花畑になりました。harappanite@ぢーめーるどっとこむ、にて。きっと遅れてしまうけど。著作権フリーです。

マガジン

  • 秋空の散文詩

    終焉への子午線について。

  • 原ッパニテ

    第一詩集『いがいが』(midnight press刊)から15年が経ちました。久方ぶりの第二詩集です。なくなっていくものたちへ。

最近の記事

秋空の散文詩

「「「秋晴れの空をわたしは好きです。首が少々つかれるのを我慢すれば、それは一昼夜、最上の観賞物です。帰省してからは、不眠症だということもあり、本を読むよりは空をみています。とくに夜は、子どもたちのいない林に出掛けて、木々の額縁の中に星をみます。林道のわきの腐れた青いベンチから見ると、りっぱな椚のてっぺんに北極星がくるのです 「「「名前をよぶのはケ楽ですか?「ええ、ケ楽です。「ケ楽はいま、 どこにいますか?「北の灰色病棟、521号室です。「そちらの様子はいかがでしょう?「白髪

    • しぐなるになるまで

      ひこう機のいない空に 警笛が鳴り かかとたちの端がそろえば 雑踏や、校舎のわきの どの地形図にもむすばれる湾岸線は あばら骨、低い花も、育ちかけに 風に削がれてある 岬 伏せた目にそれぞれの視る くらい水 その畝間に そっと指をはなしても、かつて みなかみより流した すべての笹舟が浮かばないのだ、と思う そのようなわたしならば もはや 浸水する 打ち棄てられた灯台のように しずかにしぐなるを待ちなさい そのしぐなるもしぐなるを待ちなさい よゆうですか、ゆうよですか 街頭の気

      • 晴れ、天満宮のクロッキー

        よく冷えた神社。エールを握り汗ばむので うれしかった、天気予報信者は 傘を杖にしてしゃがみ、猫に触った 背中がとても、炭酸の三毛猫だった 十二年前の異臭騒ぎでは 下半身が裸にされ、乱暴されていた。首にはストッキング それが参道はずれに見える、旧汲み取りトイレ脇だった お社ではなくて、ちいさく地蔵がいた。赤頭巾 かざぐるまたくさんの売店のくずかごには 空缶を棄てた 店々の奥からもっともっと いっぱいのエールが、あるいは呼び込みがこまったので くずかごにそらした そらにもそらし

        • 計測

          発育測定の日 空からあたまに落ちてくる つめたい 鉄のカーソルにおびえていた、きみの せなかは居酒屋のカウンターに曲がったままだ いまでは立て肘のグラスのほうが 視線よりも高くにあるから ただしく、浴びるように その星印のひかりを飲んでいる ―――浄メラレタ、くれぞーるノ、甘イニオイ    生殖器ノ、手前マデ脱イデイテ    ウッスラト混ザル、尿ノニオイヲ    自分ノモノデナイカト怖レタ。    くらすめいとノ、行列カラ離レテ    計器ヲ、ナニカ、刑具ノヨウニ、見テイタ

        秋空の散文詩

        マガジン

        • 秋空の散文詩
          1本
        • 原ッパニテ
          26本

        記事

          無数の分岐は どの方角に芽吹こうと しないか 尖石を踏み分けながら 細足の 牡鹿がザッと駈けおりてゆく 領域のない 夢の 渓谷を欲しいのは わたし だったろうか 一帯の樹木の 笑う 無声が おまえを聞いている 握りしめてきたものは それがなんであったか知られないまま 生命線のかげに 青く 失われている 約束は 疾うに果たされていたが 未だ その手は放つことができない 閾は剥き出されている おまえはその手を放つことができない

          水のものなる

          本日は晴天なり を目ざましに吹きこむ、きみのえたかった フラット 紐をひいたら時刻が終わり 緑のくらがりに とどまるふちもない、じかん うしろから過ぎこしてゆく おおきいせいの人につらなれば とうめいと とうめいに挟まれる 自動ドア、なんてへだたり 認証のほしい きみの少女がモドキというひびきをおそれている ダマシやニセという尾頭も ちゃんとしたそれの名で呼ばれて 毒持ちなのはすき あらわれてよ 九月 裂いて黒ければ つきよたけ うちのおくでぜえはあしている あなたたちに食

          水のものなる

          他人の波止場で

          ねごと。 え? ねごと、言ってたよ 「海に行かなきゃ」って そっか で、帰らない方向の 始発がうごき コンテナの渓谷を かすめるわれらのコンテンツの 貧困は たとえばむなしさの巨大マーケットや 幽霊船の うわさばなしを呼びよせていた ねむってるヒトの言葉に 返事をしたら 発狂するってどっちがくるうの? そんな想像を 絶する。おーきなおーきな ヨコハマ港、大桟橋のたもと パスポート不在の みずと そらと こんくりーとは 感傷やフナムシのはびこるすきもないうえ ホモサピエンスを散

          他人の波止場で

          ロコモーション

          環七わたれぬ赤信号 いきりよぎる水平鉄車唸りのへりに アシタチ、傾ぎ、ぼー立ちの 一名のクチうすびらき 「タチアオイ、揺らしてる風」ト 洩らしているが タチアオイもアシタチも みずからの名を知らないだろう みずからの名を知らないスペキエスの 地上に伸ばすほそい翳りが 滲みながら 唖の青空を手招いている 数歩、つまさきのへりから 滑落してしまえば それっ切り 赤の なみだとなった(わたくし)が 熱せられた地肌にそっと 目玉を零す、日も あるだろう 生焼けの、可能事の、半とうめ

          ロコモーション

          消息

          ユニファーにはけはいがない 哄笑渦巻く 教室の中心に起立して うわばきの名を滲ませながら 滔々とあふれる尿をあきらめたとき いっさいのけはいがすでに 殺されたから くらい後方から 飛んでくる消しゴムに にぶく跳ねかえすひとつの人体 保健係の 朝の点呼に応えず 応えにかえて明白に静座し すべて教師の問いに 過不足のない声量で正答し あの日から、日付のない放課後の グラウンドを駆けているユニファー たんに骨身として、地に 挫折するまでの周回 繰りかえされてあることが 摩耗しき

          神楽坂のラーメン屋

          神楽坂のラーメン屋で、大盛り七八〇円だった 詩が書けない、からだ、だからだ 壁をたくさん、たくさん見ていた。水の氷も いいにおいのなかでオノマトペがあふれていた、あふ だらしなく、おしぼりで拭く指が かじかみからほどけていたり、した 背後から差延してきた 大柄の女の中国のアクセサリー どぞごゆうくりの、ゆうくりが もはやたゆたいはじめていた この地帯は坂であるので この店ごとが傾いて、いつのまにかいつからか いつまでも滑りつづけていく気が 氷はとけ水はとけ壁はとけ女はとけ指先

          神楽坂のラーメン屋

          粘性の 夢の きもちいい メディウムに 古層のページが ゆちゃくしちゃって。げんざいじから めくれない から うらびょうしの 始祖に いつもおなじにうんでやる と つらぬかれた 日は イロキチな都市図、イロキチな職安、イロキチな 消去法、イロキチな南瓜、イロキチな猛暑 イロキチな年中無休、イロキチな 戸籍、イロキチな誤算 イロキチな 因が果 おまえごと 背は。青枯れたままの やすらぐ 見あきかた

          叙情かもしれない

          じぶんを数え忘れて予約したから ひとりふえますと言うのも考えてみれば なんか変だし、めんどうになって 行かなかった夜だよ わたしの名前で約束されたパーティーが 厳かにグラスのふちを鳴らすころ 六畳一間でヨガの饅頭のポーズをしていたら びっくりするほど退屈だった だからじぶんを数え忘れる現象に 名前をつけてくれようと思った ラリ・ホー もしくは えまにゅえるれびなす どっちがいいかなんて決めようもないんだ なんにもなくなっちゃった とかいって三角座りする きみが遠くに残余して

          叙情かもしれない

          卒業、きみの泣かないわけは

          気づいたら小さくて暗いところにいたんだ それでさ、おそるおそる目を開けたら 膝からごっそりカイワレが それ怖い話じゃないだろ えー。もやし、ならもやし そんな西田君が好きだった代ゼミの夏は とくに想い出がない どこからどうみても猫でしかない自宅のミケを エイリアンだと言って憚らない 斎藤がやわらかくいじめられていた 卒業まぢか おぼろげな昼休み 走ってくるなり 末代まで祟りつづけてくれるっ 言ってみたかったの? あいしてるぞっ だから言ってみたかっただけだろ、殺すぞ? 話した

          卒業、きみの泣かないわけは