無数の分岐は
どの方角に芽吹こうと
しないか

尖石を踏み分けながら
細足の
牡鹿がザッと駈けおりてゆく
領域のない
夢の
渓谷を欲しいのは
わたし
だったろうか

一帯の樹木の
笑う
無声が
おまえを聞いている

握りしめてきたものは
それがなんであったか知られないまま
生命線のかげに
青く
失われている
約束は
疾うに果たされていたが
未だ
その手は放つことができない

閾は剥き出されている
おまえはその手を放つことができない


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