消息

ユニファーにはけはいがない
哄笑渦巻く
教室の中心に起立して
うわばきの名を滲ませながら
滔々とあふれる尿をあきらめたとき
いっさいのけはいがすでに
殺されたから

くらい後方から
飛んでくる消しゴムに
にぶく跳ねかえすひとつの人体
保健係の
朝の点呼に応えず
応えにかえて明白に静座し
すべて教師の問いに
過不足のない声量で正答し

あの日から、日付のない放課後の
グラウンドを駆けているユニファー
たんに骨身として、地に
挫折するまでの周回
繰りかえされてあることが
摩耗しきり
なにが繰りかえされてあるのか
判じようもない一季節の

ユニファー、わたしたちの常日
わたしたちの教室
剥きだしにされた、なにごともなく在席すること
いらだちを隠す成熟した声が
着替えを命じるまで
かけられた水にはひたされたまま
すまされている
逆光の
ユニファーにはけはいがない
反映しない瞳に、しかし、殺されてあるのは
殺されている息があるとするなら

席をかえた、ガラスモザイクのクラスの
最前列に起立して
一語とてあやまたず
滔々と
道徳教科書を読み上げながら
もういちど
そのひとは失禁する
かつてそのひとだった尿がふれる
隣人のつまさき
ギョッとした隔膜ごと
身振りは奪われ
輪郭を失わせてゆく湯気のなかで
詠唱はやまない
もはや失禁ではない
ゆえに
いかなる哄笑もない
直視した一名が引き攣りたおれ
抱きおこすおとなの腕に
かぼそい嘔吐を
垂らす口が
そのひとと共にしはじめる詠唱に
わたしたちの教育は急速に完成され

だから、一同はついに
ユニファーの名を知らず
おのおのの名を、ユニファーと
記憶している


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