卒業、きみの泣かないわけは

気づいたら小さくて暗いところにいたんだ
それでさ、おそるおそる目を開けたら
膝からごっそりカイワレが
それ怖い話じゃないだろ
えー。もやし、ならもやし
そんな西田君が好きだった代ゼミの夏は
とくに想い出がない
どこからどうみても猫でしかない自宅のミケを
エイリアンだと言って憚らない
斎藤がやわらかくいじめられていた
卒業まぢか
おぼろげな昼休み
走ってくるなり
末代まで祟りつづけてくれるっ
言ってみたかったの?
あいしてるぞっ
だから言ってみたかっただけだろ、殺すぞ?
話したいことはないけれど
話したくないことは山ほどあって
散らばっていく私語のかさ
とにかく
掃除しろおまえら
ぞうきんはブーメランじゃないんだ
もどってきやしないんだ
左から右へまっすぐ飛翔する
グラフを描いたらまさかの赤点
三次関数だもんな
よくわからんが二次もたりねえ
そんなもんだよげんだいしゃかいの
バルカン半島
あいつの渾名だった理由は
だれにも思いだせなくて
それでもみんないなくもないくらい、いたから
グラウンドも鉄棒もなくはないくらい、あったから
せめて三十分くらいの遅刻で
確認するあいてのかたち
破られた約束にしか込められないしんあい
ぴったりじゃすべてが
ふかんしょう
でも、すこしばかり切りすぎた前髪も
それをほめられたうれしいわたしも
いつしかきまりごとになる
日常に浸透していくセレモニー
わたしたち
わたしたちに間に合わないために
どんどんズレはじめて
すでにこけしエクストリーム
通り名になって
あの、エイリアンにミケってどうなんでしょうか
猫はどこまで猫らしければ、猫ですか
かみさま、斎藤
どっちもろくに信じちゃないので
投げてみた、入道雲の向こう
変曲点はどこだっけ
あの日さっちゃんが西田君にふられたのは
西田君がホモだったからではなく
さっちゃんがホモだったからでもなく
ふたりともホモだったけど
ともだちのままでいることにしたから
あいつらは延長戦
外野のわたしが
デッドボール
みんな知ってるけど試合を止めない
やさしさとかイデオロギーに包まれながら
赤いスカーフ
行き場をなくして
おれさ、ゆうべ自分で自分をもちあげたんだ
くびつりみたいな感じでさ
地面がどんどん遠ざかって、地図っぽくなって
星雲みたいな街のまんなかあたりに
学校があって
学校は
なんか小さくて暗いだけでさ

ねえ、それが
ゆめでもげんじつでもかまわないから
どこに力いれたら飛べるの?


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