しぐなるになるまで

ひこう機のいない空に
警笛が鳴り
かかとたちの端がそろえば
雑踏や、校舎のわきの
どの地形図にもむすばれる湾岸線は
あばら骨、低い花も、育ちかけに
風に削がれてある
岬
伏せた目にそれぞれの視る
くらい水
その畝間に
そっと指をはなしても、かつて
みなかみより流した
すべての笹舟が浮かばないのだ、と思う
そのようなわたしならば
もはや
浸水する
打ち棄てられた灯台のように
しずかにしぐなるを待ちなさい
そのしぐなるもしぐなるを待ちなさい

よゆうですか、ゆうよですか
街頭の気圏はしめった電信にみちて
まだ約束のあったおまえの
口角にまで結露する
なにひとつ、ないものがたりを
ものがたりたくないのに
黒ずんだハツ
消臭剤に飲む酒の
あふれたふりをしてぬぐう
昨日や明日から
レバーの肌に
消せない血の気が浮腫んできていて
よゆうですか、ゆうよですか
だしぬけに頭上を電車が通過する
その音も
しぐなるとなり、うみあふれ
なにひとつ、ものがたりはせず

朝焼けちかく、ターミナル駅のホームで
負の会計はあわないままだ
紙幣が謎の消失を見せ、端数を切って忘れてゆく
川下に葉の流れるように
あしばやになる
つぎの約束が口をついてでないとき
おまえが一縷の姿になる

よゆうではなく、ゆうよではなく
ありったけの
空がおのおのに配給されて

なにが合図かわかっちゃったら
それが、合図かもね。
のどぶえも汽笛も
もとはからっぽの管だから、風、色々にとおすだけ
それで、ヒトが
徒競走したり、とびこんだり、するだけ
でも。
あんただって震えてる
末端ひえてる。かじかみか火照りかわかんなくても
指先がもうすぐ冬だってわかる
末端とか端末とかいっしょくたなのかな
こうしてただあることも
こうしてただあれなくなるのも、飛沫して
うゆよ、とかでいいよ。
なにそれ？
しらない。
きっとこれも、しぐなるでしかないもの
寒いね。指切ってつくった笹舟なんて
ゴミみたいに浮かんできてこれしかないだけ