叙情かもしれない

じぶんを数え忘れて予約したから
ひとりふえますと言うのも考えてみれば
なんか変だし、めんどうになって
行かなかった夜だよ
わたしの名前で約束されたパーティーが
厳かにグラスのふちを鳴らすころ
六畳一間でヨガの饅頭のポーズをしていたら
びっくりするほど退屈だった
だからじぶんを数え忘れる現象に
名前をつけてくれようと思った
ラリ・ホー
もしくは
えまにゅえるれびなす
どっちがいいかなんて決めようもないんだ

なんにもなくなっちゃった
とかいって三角座りする
きみが遠くに残余してる夜だよ
あきらかに猫とは思えないなにかが
名も知らぬ草蔭に駆け込んだり
さっきからヤバそうな叫び声が聞こえてるけどあれは
半熟のオムライスの夢をみた雌鶏が
ひよこのころの性的なトラウマに思いあたり
半醒半睡でうなされているのかもしれないんだ
よくわからないままにわかって
知らないことでわらって
ひみつの世界は
半びらきのファスナー
きみと半分こにはできないヴィジョン

手紙だとか封筒が雪崩を起こして
色とりどりの床
素早い返信と気のきいた追伸にけんめいで
読み忘れていたおびただしい言葉
もう間にあわない問いに戒名をつけよう
ラリリ・フー
あるいは
えまにゅえるれびなす
まんぞくした気になって
いちまいいちまいガスコンロで焼いていくんだ
消印と署名はばらばらで
宛て名はみんなわたし
あたりまえだ
あたりまえだがそこにもどかしい意味の襞が
ひらきかける矢先に燃えあがる
筆跡たち
そういえば
饅頭のポーズなんて実在しないのでだまされちゃいけない
誰にともなく忠告してあげたかった

たくさんの煙のなかで
絶え間なく咳き込み
吸気を拒む
なんとなく哀しいのはなんとなく楽しいのと大差ない
換気扇の裏手がざわついて
消防車のサイレンが近づいてきたけど
ここに来るともかぎらないんだ
かぎらないと思いたいのはたしかなんだ
鍋に山積みの手紙の灰
電話が鳴って7コールとすこしで鳴り止んだ
こんな夜は
叙情かもしれない





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