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摂食障害の長い長いトンネルを抜けて~元摂食障害当事者からのメッセージ~58


太陽の光を反射して光っている月のように、今の私は自分自身の力だけではとうてい輝くことは出来ないのかもしれない。それでもいいから、太陽の力を借りてでもいいから、ほんの少しでも輝けるようになりたい。そしていつか、いつの日か、太陽のように自分の力だけで輝けるような、出来れば自分だけじゃなくて、月を輝かせることが出来るような、そんな太陽みたいな存在になることが出来たら・・・

「いっただきま~す」

久しぶりに、実家に家族が揃って、夕飯を囲んでいた。妹の由希(ゆき)は、我先にと煮物に箸を付けていた。

「私もさぁ~洒落っ気出してイタリアンとか食べるんだけど、やっぱさぁ~おふくろの味?っていうかお母さんの料理?、煮物とか、酢の物とか、そういう和食が食べたくなるんだよね~私なんてさぁ、そのために今日朝から何も食べてないから、もうお腹ぺっこぺこ。3食分食べちゃうかも」

お酒には、ろくに口も付けずに、次から次へと豪快に食べていた。

私は、いつかの飲み会の時のように、料理には一口二口箸を付けただけで、ただひたすらお酒を飲んでいた。

「紗希(さき)は、本物の酒飲みになってきたな」

事情を知らない父が、嬉しそうに言った。私はただ、吐けない時は出来るだけ食べないようにしているだけだったけど、ほとんど何も食べずにお酒を飲んでいる私を見て、父と同じような吞兵衛になったと勘違いしていた。でも、その方が都合が良かった。

「紗希、(輪ゴム酒)って知ってるか」

「えっ、輪ゴム酒?」

「あぁ、酒飲みはな、何かつまみたいが、食べると腹が膨れて飲めなくなるのが嫌なんだ。だから、輪ゴムに醤油を付けて、それを噛んでつまみ代わりにしてひたすら飲む。それが輪ゴム酒だ。紗希には、それが似合うかもな」

「そ、そうだね・・・私もお酒飲みだすと、食べれないんだよね・・・」

家族には摂食障害のことは一言も言ってなかったから、相当勘違いされていたけど、それならそれでも都合が良かった。食べないことを詮索されずに済むのは、気持ちが楽だった。

「でもさ、お姉ちゃん、お酒好きなのはいいけど、食べなさ過ぎじゃない?ってか、痩せ過ぎくない?ちゃんと食べてるの?」

「由希こそ、いくら何でも食べ過ぎじゃない?カロリーとか、気にならないの?」

「美味しいものは、0カロリー!気にしない、気にしない。そのために、朝から何も食べてないんだから」

妹の豪快な食べっぷりに、圧倒されていた。一方では、食べたいものをひたすら食べるその姿に、羨ましさも感じていた。

「確かに紗希は、随分痩せたな。酒ばっか飲んでないで、栄養は摂れよ」

「仕事が忙しくて、あんまりろくなもの食べてないかも・・・」

「まあでも、久しぶりに家族揃って飯食ってるんだから、ごちゃごちゃ言わず、飲みたければ飲めばいいし、食べたければ食べればいいじゃないか。酒も料理も、足りないとは言わせないほどあるからな!紗希、まぁ飲めや」

普段寡黙な父が、珍しく饒舌だった。母が下戸だから、いつも寂しそうに一人晩酌をする父の姿が、蘇った。今日は、私とお酒が飲めることが相当嬉しいみたいだった。私は、吐くまで飲まないように気を付けながら、父に付き合うことにした。


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