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二項動態(Dynamic duality)による判断とは

その時は言葉には出来ない感覚的なものが、後々になって振り返るとその感覚の方が正しかったと思える事が多々あります。実例としては、私がMBA過程で勉強していた時のお話です。

同期で入学したある学生がいました。私は入学以前からその学生の事をイベント等で知っていました。イベントの際から残念ながら私とはリズムが合わない人という感覚を受けていました。たまたま入学式でその学生も私と同期で入学するという事実を知ることとなり、

「この大学院に入学して本当に大丈夫なのか?」

という根拠のない一抹の不安が頭をよぎりました。

その時点では、

「私の感覚の方が間違っており、私に人を見る目が身に付いていないのだろう。恐らく孔子の弟子の子羽(澹台滅明・たんだいめつめい)のように入学を許可した大学院の判断の方が正しいのだろう」

と、自己正当化していました。

しかしながら、同期の学生として同じ講義を受けることも多くあり、ディスカッションやグループワークをしていくと、ギャップが縮まるどころか大きくなる一方でした。勉強のリズムだけではなく、生活のリズムも崩されてしまうような感覚すら覚え、その後は少し距離を取るようになりました。不思議と距離を取って以降は勉強に集中出来るようになり、そのまま残り半年で卒業という時期まできました。

その時私に対して別の学生から、

「私とリズムが合わない学生と接点を増やすような活動をしないか?」

という誘いがありました。
私はリーダー教育を受けている人間としては子供ぽっい判断に思われる事を承知の上で、次のように伝えました。

「申し訳ありません。あの学生と一緒にいると私のリズムが崩れてしまいます。卒業までは可能な限り距離を取りたいです。接点を持つと卒業出来なくなってしまうような恐怖心すらあるのです…。」

その後、私は当初の予定通り2年で大学院を卒業しました。

今となり振り返ってみますと、私に活動への参加の声をかけてきた別の学生も無事に卒業しています。が、当初の予定期間より随分と遅れて卒業となったようです。更には、私とリズムが合わなかった学生は、未だに卒業していないようです。

つまり私が言いたいことは、人にとって理詰めで説明できる判断が全て正しいというものではなく、感覚による判断も大切にすべきであるということです。これは一橋大学名誉教授野中郁次郎先生がナレッジマネジメントにおけるSECIモデルで仰っていることと同じです。全ての判断を形式知を形式知として結合化する判断だけに頼ってしまっては判断を誤ります。人にとっては暗黙知から暗黙知へと共同化する判断も重要であるということです。結合化においては、二項対立的な判断も可能ですが、形式知と暗黙知を含めると二項動態的な判断が必要になります。

世間の風潮としては、暗黙知を形式知にする表出化が求められ、表出化出来ないものには価値を与えず、その判断を形式知のみで行う傾向が強くなっています。しかしながら、表出化は出来ないが人が本来持つ感覚的なものや経験則という判断も大切にした方がいいのではないかと私は考えます。



補足として、

「私は大学院にギリギリで入学できた」

というのは事実です。
私が大学院に入学の願書を出したのが入学式の約2週間前で、正式に入学手続きが終わり許可の確認できたのが入学式の3日前くらいです。
ギリギリで入学できました。
ご自身の成績に問題があると、私の成績がギリギリだったと思い込む残念な人もいるようです。

ちなみに大学院への入学はさほど難しいものではなく、恐らく大半の人は入学可能ではないでしょうか。しかし、卒業できるのは半数くらいです。更に、大学院で学んだ知識をご自身のこれまでの経験と照らし合わせ血肉化した上で、それを現場で活かせる知恵へと昇華させることができるのは10%くらいの人です。

つまりは、大学院に入学できたかどうかなどに価値はありません。卒業しなければ意味も価値もありません。
更には、ご自身に実際の現場経験がなければ折角学んだ知識でも知識のままで終わってしまい、知恵へとは昇華しません。知識のままではエビングハウスの忘却曲線のように時間の経過と共にやがては薄れていくことでしょう。

大学院で学んだ知識を知識のままで終わらすならば、費やしたお金も時間も無駄にするだけです。
重要になるのは、新たに得た知識を現場でどう生かすかを考えながら学ぶ習慣です。常に「この知識はどう使う?」「この知識はどこで使える?」と経験に照らし合わせつつ考えながら学ぶ事です。「この講義は点数が楽に取れそうだな。」「この講義は単位が楽に取れそうだな。」という感覚が残る人に大学院は不向きです。



※こちらは2019年7月28日(日)~29日(月)のnakayanさんのtwitterでの連続ツイートを読みやすいように補足・修正を加え再編集したものです。


中山兮智是(なかやま・ともゆき) / nakayanさん
JDMRI 日本経営デザイン研究所CEO兼MBAデザイナー1978年東京都生まれ。建築設計事務所にてデザインの基礎を学んだ後、05年からフリーランスデザイナーとして活動。大学には行かず16年大学院にてMBA取得。これまでに100社以上での実務経験を持つ。
お問合せ先 : nakayama@jdmri.jp


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