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経験が支える四十にして惑わず

松下幸之助 一日一話
10月 7日 体力と気力と経験

人間の体力というものは、三十歳前後が頂上であろう。一方、気力ということになると、私の常識的な体験から言えば、四十歳ぐらいが最高になり、これを過ぎると、次第に衰えてくるのではなかろうか。もちろん気力は落ちても、立派に仕事はできる。というのは、それまでのその人の経験というものが、その気力の衰えを支えるからである。

それと、もう一つは先輩として尊ばれ、後輩たちの後押しによって、少々困難なことでも立派に遂行できるようになる。こうした力が加わるからこそ、歳をとって気力、体力ともに若い人たちにとてもかなわないようになっても、支障なく仕事が進められるのではなかろうか。

https://www.panasonic.com/jp/corporate/history/founders-quotes.html より

体力と気力と経験における関係性を考えるならば、体力があってこそ気力が保たれ、気力があってこそ経験を活かすことができると言えるのではないでしょうか。ここでいう経験とは、知力と置き換えても同じことです。

先ず、経験(知力)については、心理学的側面からも実証されていることですが、感情の閾値というものはその人の健康状態に比例して上下すると言われています。具体的には、体調が悪い時というのは感情の閾値が低いところにありますので、怒ったり泣いたりしやすい状態となり、逆に体調が優れている時というのは感情の閾値が高いところにありますので、笑顔の状態を保ちやすいということです。感情をコントロールすることができるのは理性であり、この理性すなわち知力は、自身の気力や体力に影響を受けるということでもあります。逆説的には、自身の気力や体力いかんによって、知力の維持も可能であるということになります。

次に、体力については「筋肉貯金」とイコールだと私は考えています。学生時代に筋肉貯金をしていますと、社会人となっても一定期間はその貯金を使うことで運動を意識せずとも肉体を維持することは可能ですが、30歳を超えたあたりから貯金が底をつきはじめ、突如脂肪細胞たちが反乱を興すかのように活性化しメタボ予備軍になってしまいます。30歳前後からは、新たな筋肉貯金を開始し、約37兆個あると言われる細胞の一つ一つを率いるリーダーとなり「君たちのあるべき姿はメタボの状態ではない!」を教え込みませんと、怠惰を覚えてしまった細胞たちが脂肪細胞との癒着を加速し、それと同時に体力は一挙に失われていってしまいます。

この筋肉貯金については、筋肉で出来ている「脳」についても同様に言えることです。学生時代に、脳を鍛える筋肉貯金ができていた人は、社会人となった以降は全く脳を鍛えていなくとも30歳半ばくらいまでは貯金が維持されますが、突如パタリと思考停止状態になってしまっている人を多く目にします。学歴が高いと言われる人でそれまで嫌々勉強をしてきた人ほど、学歴に甘んじてしまい社会人となってからの勉強を疎かにしてしまう傾向が強く、逆に学生時代にあまり勉強をしてこなかった人ほど、自らの無知さを補うために興味ある領域を見つけ主体的に勉強をしている傾向もあります。

松下翁の仰る気力がピークの40歳ぐらいの時点にいる私では、実体験がないためになんとも言えませんが、40歳ぐらいをピークに気力が低下するというのは、30代は体力の低下を精神面での成長が上回っていたために気力の維持が可能だったが、それ以降は精神的にも成長の幅が下がってくることで、気力が低下していくということではないでしょうか。この30代の体力が低下する中で仕事をこなしてきた経験値により、無駄なエネルギー投資がなくなり、その後はエネルギーをピンポイントに投資し、省エネルギーでの活動を可能にしていくのではないでしょうか。

孔子は、論語にて次のように述べています。

「吾、十五にして学に志し、三十にして立ち、四十にして惑わず、五十にして天命を知る、六十にして耳に順い、七十にして心の欲するところに従って矩(のり)をこえず」(論語)

更に、孟子も同様の旨を次のように述べています。

「四十(しじゅう)にして心を動かさず」(孟子)

孔子が「四十にして惑わず」といっているように、孟子も四十歳になってからは、もう心の動揺を見なかったと言っています。

古来の先哲たちも、40歳ぐらいを肉体的にも精神的にも自己を確立させる目安としていたのだと言えます。これは松下翁の仰る、その経験がその人自身を支えている状態になったということだと私は考えます。



中山兮智是(なかやま・ともゆき) / nakayanさん
JDMRI 日本経営デザイン研究所CEO兼MBAデザイナー
1978年東京都生まれ。建築設計事務所にてデザインの基礎を学んだ後、05年からフリーランスデザイナーとして活動。大学には行かず16年大学院にてMBA取得。これまでに100社以上での実務経験を持つ。
お問合せ先 : nakayama@jdmri.jp




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